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記憶の遡及②

衝撃に備え目を閉じるもトンンっと柔らかい温もりに抱かれる。


「あっぶね~アオイ、お前も気を付けろよな!」


茶髪の猫っ毛な飛瀬竜也(ひせりゅうや)がオニキスの瞳に呆れた色を滲ませ優しく頭を撫でてくれた。少々、子供扱いが過ぎる。こそばゆいが嬉しくほほが緩む。でも、私の心情を知られるのは何かと悔しいので、素っ気なく後ろにいる竜也を見上げる。彼はナツと同じ学校で、私が学祭に遊びに行ったら声をかけられ付き合う事になった。


「あ、ありがとう」


「どういたしまして」


見た目が可愛い系の彼氏が不意に見せる男らしさ に心臓が爆発しそうだ。


「ヒセっち、おはよう~♪ ヒセっちもカラオケ行く~?」


「川石、おはよー。ところでアオイ、傘持ってるけど今日雨降るのか?天気予報言ってなかったぞ」


私が持ってい傘を見て不思議そうに竜也から尋ねられた。これについては七割がた自信がある。生前のお祖母ちゃんから教えられた『雨の匂い』がしたから。お祖母ちゃんには色々雑学を教えてもらったが雨の匂い以外あまり覚えていない。


「アオっちの予測は天気予報以上だもんね~」


自分の事の様にナツが胸を張る。

ここまで懐かれると悪い気はせず、昔から気を許せる親友だ。



電車に揺られ、何気ない日常の一コマをただ当たり前としてすごしていた。

じゃぁ、終わったらいつものところに集合ね~♪」


そう言って二人は最寄り駅で降り、見えなくなるまで手を振る。


ザザッと、人の波が収まり一息き視線が床に落ちている開かれた手帳に止まる。よくよく見知った手帳は竜也の生徒手帳だった。彼らしくないプリクラが貼られているそれは私を動揺の奈落に落とすには十分だった。手にとってよくよく見ると、竜也と泣き黒子が妖艶な女とのキスプリだ。どんなにメイクを施しても十年も一緒にいる私の目を誤魔化せはしない。プリクラの角度を変えようが変わらない、れっきとした川石ナツ本人で間違いない。


信じがたい衝撃を呑み込み、電車の扉が開いた瞬間、踵を返し反対の電車に飛び込む。幸い一駅だけだ、すぐに追い付くはずだ。


生徒手帳を届けるだけだと自分に言い訳を繰り返す。


予想通り、少し走っただけで二人の後ろ姿を確認できる距離まで来れた。でも、無情にも二人腕を組楽しげに恋人らしく『登校デート』をしているように見えた。二人と同じ学校の生徒と思う二人が羨ましげに「お似合い」と言った言葉が私に最後の止めをさした。


何かが私の中で弾けた。

頭が真っ白になり、感情に任せて宛もなくナツと竜也に気付かれない様に宛もなく走り出した。頬に伝う水滴は涙なのか、それとも降りだした雨なのかわからない。



思い出せる記憶の最後は鳴り響くクラクションと、目映いまでのライトの光。


私の心を代弁する雨音だけ。

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