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69.大国の岐路1


金糸のドレスがしゃららと鳴った。

イザベル・アンヌ様が手袋を脱いで、メアリの頬にやわらかな手をあてる。



「先ほどの発言は改めましょう。メアリちゃん、あなたは私たちの家族になったのです。誰が何と言おうとあなたはアイオライトの王太子妃です。ロジーナちゃんを見習って、あなたのできることを精一杯なさい」



メアリの瞳がイザベル・アンヌ様に釘付けになり、わたしはわたしでちょっと焦る。

わたしを見習われてもなあ。

それこそ所作もそこから醸し出される雰囲気も完璧なイザベル・アンヌ様を見習いつづけてもらったほうが、ちゃんとした女王になると思う。


わたしはあくまで、「つなぎの女王」だと自分で認識している。

結果的に夫であるウィルのことは好きになれたのは良かったけれど、ウィルの治世のおかげでわたしでも女王が務まる国があるのだ。


イザベル・アンヌ様もメアリも、それはもう麗しい光景を作りだしていて、いやもうビジュアル的にも二人の間にわたしが入っちゃダメなやつだし、ほんっとわたし、「悪役」「意地悪姑役」「最終的にフェードアウトin修道院」のために用意された「役」なんだよねえ……。

ウィルもわたしのことをそれなりに好きになってくれていると感じる。

でもどうしてこのつりあがった眉と目の「ザ・悪者」な顔を好意的にとらえてくれているのかは不思議。


原作の修正力ってやつなのかなあ。

どんなにバッドエンドを避けようとしても、原作通りに悪役を破滅に陥れようとする謎の強制力。

わたしが女王になれたのだってたぶんそれだし、その力が働いてるとしたら、わたしが修道院送りになる日も近そうだけれど。


そのまま絵画にしてしまいたくなるくらいの二人からそっと離れながら、そんなことを考えていた。

飲みかけだった紅茶が冷えてしまっていて、わたしだけならそれも気持ちよく飲んでしまうけれど、イザベル・アンヌ様にそのようなものを出すのはマリカ公国としてもアイオライトとしてもよろしくない。

二人は小さな声で何か話していて、メアリももう泣いてはいない。

この様子ならと、テーブルの上のベルを鳴らそうとしたその時。


コン、コン、とゆっくりしたノックが部屋の外からされた。

もうそんなに時間が経ったのだろうか。

他国の賓客とのサロンにも参加しなければならない。


メアリの頬に手をあてたままのイザベル・アンヌ様が「どうぞ」と声をかけると、



「無粋ながら失礼しますね」



ドアを開けたのはウィルだった。




***




「いいのですか、このようなところにいて」



マリカ公国を併合するアイオライトの国王と王太子は、正餐会までの時間がくるまで可能な限り、近隣諸国の反応を見るために、王宮内の広間に設けられた大サロンにいるはずだった。

それが国王と王太子の二人ともが、このマリカの王宮の一室、ソファの数もギリギリ足りるくらいの部屋にいるのはどういうことか。



「その様子では特別大きな問題はないのでしょうけど」



紅茶を淹れなおしてもらってお菓子も追加を持ってきてもらって、パッと見は小さなお茶会。

使用人を下がらせて、家族だけの気楽なお茶会。


イザベル・アンヌ様がすみれの花びらの砂糖漬けを、相変わらず音も立てずに食べながら、ウィルとユアンに目線をやる。



「ええ、こう言ってはなんですが、ソフィアの件もあってマリカがアイオライトに吸収されるというのはほとんど既定路線だったので、まあ儀式としての承認会合だと皆分かってきていたからでしょうね。あとは大公に任せてきました」

「大公妃とメアリがやってくれた大サロンのインテリアも評判でした。メアリ、ありがとうね」



ユアンがメアリに向かって微笑む。

メアリもはにかんだように微笑む。

それを見たイザベル・アンヌ様が目を細める。


……我が子ながらユアンも美男子。

ほらもうこの三人の微笑みあう光景できっと少女漫画の一コマになるよ。


雰囲気あるわあ、と眺めているわたしは、そこには入れない。

それでも「家族」になったなあって感慨深い。


その中で、わたしの正面に座っているウィルだけが、まだよそ行きの笑顔をしている。

どうしたの、と小声で訊くと、



「問題といえば、マリカを併合する時期が予定より早まったことだよ」



と、まったく笑顔を崩さず言った。

その笑顔の完璧さは、さすがにイザベル・アンヌ様の子どもなだけある。


わたしと娘のシャロンは、マリカの併合に関してはメアリと一緒にドレスやもてなしの準備をしていたから、そう言われてもどこに問題があるのかわからない。

準備が忙しなかったことくらいしか、思い当たることがない。



「別に問題にはならないでしょう、そんなこと」

「ええ、問題があるならば、という前置きがなければ、問題にはなりません」

「哲学者のようなことを言うのね、この子ったら」



イザベル・アンヌ様が、今度はオレンジのボンボンを音もなく吸いこんでいく。



「ロジーナ、今夜、正餐会が終わったら話そう。それから、母上にはまだ秘密です」



悠然と構えたウィルの様子に、イザベル・アンヌ様は満足そうに頷いた。



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