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68.「トイレの王妃様」、新嫁を可愛がる決意をする



今にも泣きだしそうなメアリ。

それを冷ややかな目で眺めているイザベル・アンヌ様。



「お言葉ですが」



口を挟まないほうが正解なのかもしれない。

でもメアリが良い子なのを、わたしは知っている。


スプーンを静かに置き、立ち上がる。

ドレスをすこし持ち上げて、五センチほど腰を落とした。

「そんなふうに畏まらないでいいのに」というふうに、イザベル・アンヌ様が手のひらをわたしに見せる。


イザベル・アンヌ様に何かを口答えするなど、いままで一度もしたことはない。

いつだってイザベル・アンヌ様は、敬愛すべき王妃だったから。


声が震えてしまわないように、腹に力を入れる。



「メアリは、よくやっております」



まっすぐにイザベル・アンヌ様を見つめた。

意外そうに、瞳を大きく開いている。



「けれどこの子は、まだアイオライトの王太子妃という立場が分かっていないようなのよ」

「それはまだメアリが若く、姉を亡くしてその後釜に座らねばならない戸惑いもあってのことだと思われます。仕方のないことです」

「かわいそうだとは思うけれど、ウェスティリアの大使であるモーレイ様や私にあのような挨拶をする失態を犯したり、さきほどの王太子妃として相応しいか否かを訊ねてくるなど、お子様すぎるのではなくて」

「彼女の振る舞いのすべて、責任はわたしロジーナにあります」

「あら?」



あまり手を出してはいけないと自戒していた。

イビっていると思われたくなくて、放っておきすぎたのだ。

マリカ併合の承認を得るこの会議の前に、アイオライトの王太子妃たる彼女がどう立ち回ればよいのか、わたしが教えておくべきだったのだ。



「メアリはアイオライトの城で、王太子妃としてよく動いてくれています。使用人からも悪評は聞こえてきません。比べるのもよろしくありませんが、ソフィアとは雲泥の差で、わたしは安心しきってしまっていたのです」

「っ、ロジーナ様……?」



すっかり小さくなってしまっているメアリの肩を抱く。



「メアリは今回の会合のために、マリカの郷土料理で外国の方にも親しみやすいものを考えてくれたり、マリカからのお土産として良いものを見つけてくれたり、たいへん役に立ってくれました。国王陛下もユアンも、マリカの法令改正にかかりきりでしたから、マリカの細々したことを教えてくれるのは助かりました。だから、外交も、きっとメアリはできるのだろうと思いこんでいたのです」

「……そう、メアリはロジーナちゃんを助けてくれてるのね」

「はい。今晩の正餐会も、マリカの大公夫妻が主催ですが、メアリが手伝って、アイオライトとマリカの文化が融合したテーブルセッティングになっています。メアリは自分を、アイオライトとマリカの友好のための重要な位置にいるのだと、きちんと自覚しております。先ほどの卑屈ともとれる言い分も、普段わたしがあまり褒めてあげられなかったから不安になっていたのを、イザベル・アンヌ様のお優しい雰囲気に、年相応に甘えたくなったのでしょう。どうかお許しください」



ウェスティリアの大使でも、アイオライトの前王妃でもなく、わたしの夫のお母様であるイザベル・アンヌ様なら、わかっていただける。

年端もいかない娘がたまに泣き言を吐くのは当たり前で、思ってもみなかった重圧がその身にふりかかれば周りが見えなくなって適切な行動をとれなくなる。

それをフォローするのは人生の先輩の役目なのだ。


メアリは自分の役目を自覚し、全うしようとしている。

わたしもそんな彼女に応えなくてはならない。



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