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67.前王妃の不機嫌


メアリが嫁にきて、一年足らず。

ソフィアのようにわたしを毛嫌いすることもなく、話しかければ答えてくれるし、お茶会に呼んだら来てくれる。

わたしを王妃と思いたくないながらも、わたしを立てようとしてくれているのは感じているから、できるだけメアリのプレッシャーになるような言動をするのは控えてきたつもりだ。

漫画で幽閉される原因となった外交上での儀礼については丁寧に教え、その他のことは放任してきた。

それはひとえに、メアリがソフィアとは違って常識的な王族の娘だったからできたことだ。

アイオライトの王太子の妃として、アイオライトの国のことを一番に考えられる娘だったからだ。

メアリなら、ユアンとともに国を治めるのにうまくやっていくだろうと思っていた。


それが、「イザベル・アンヌ様は、私を王太子妃として認めてくださるのですか」だって?

確かにわたしも口に出して言ったことはないけれども、メアリは立派なアイオライトの王太子妃よ!

イザベル・アンヌ様にメアリがどう映っているかは分からない。

でもわたしには十分、メアリは王太子妃に相応しいわよ!



「そのようなこと、訊いてどうなさるの?」



イザベル・アンヌ様の微笑みは確かに完璧で、それ故に質問の意図が読めない。

メアリが浅く呼吸して、ごくりと唾を飲みこんだ。



「私は、本来ならばユアン様のもとへ嫁ぐ身ではありませんでした。ユアン様の横に立つのは、姉ソフィアのはずだったのです」

「そのソフィアがいなくなってしまったのだから、あなたでよろしいのでなくて?」

「ですが、私は、本当ならこのような高貴なところにいられる女ではないのです……!」



……なんとなく、田舎男爵の娘から王妃になったわたしをディスってるような気もするが、メアリの言いたいこともわかる。

「高位の殿方のところにお嫁にいって、玉の輿にのってやるぞ☆」っていう性格ならけっこう楽しく王妃も王太子妃もやれると思うんだけど、気が庶民というか、そもそも前世の記憶があるわたしは庶民気質だし、メアリも公女とはいえ小国だし第二公女だし、強烈なソフィアという姉に抑圧されて自己評価低そうだし、不安がる気持ちも、わからいでもない。


ていうか、うん、男爵の娘からしたら、公女もだいぶん高貴なお方だよ!

自信もって! メアリ!


心の中で応援してみる。

まるで知らん顔をするのも変なので、メアリが気がかりだわーって顔をしながら、薔薇の砂糖漬けがトッピングされたカスタードを頬張る。

これでもかというくらい砂糖を入れたカスタードは、それだけでお腹がふくれる。

さらにカスタードの下にある砂糖たっぷりのスポンジはワインに浸されていて、とにかく食べ応えがある。

今夜は各国大使との晩餐があるけれど、パンはあまり食べられなさそうだ。


晩餐のメインは子羊か鴨かどっちかな、とのんびりしていたら。



「いい加減になさい」



イザベル・アンヌ様の、聞いたことのないほどの冷たい声。

小さなスプーンでカスタードをすくう手が、一瞬止まってしまった。



「メアリ・フィオヌラ。あなたはマリカの公女として生まれ、アイオライトの王太子に嫁ぎました。すでにあなたは王太子妃です。相応しいか否かなんて関係なく、あなたがユアンの妃で、王太子妃なのです」

「それは分かっているつもりです……っ」

「いいえ。分かっているのなら、先ほどのような問いはありえません」



衣擦れの音すらしない。

さすがにわたしもスプーンを持ったまま、イザベル・アンヌ様のほうを向いてしまう。


金糸が編みこまれたレースが何枚も重なったイザベル・アンヌ様のドレスは、やわらかな乳白色。

いつもにこやかなイザベル・アンヌ様に、とてもよく似合っている。

胸下で切り替えられたドレスはふんわりしているのに、少しでも身じろぎすると、しゃらら、とレースが鳴る。

その綺麗な音も、イザベル・アンヌ様の優雅さを引き立てるのだ。


ソフィアもメアリも妖精のようだけど、イザベル・アンヌ様もこの世のものではないくらいに美しく、一朝一夕には出せない気品がある。

笑顔を絶やさず、怒ったところを見たことがない。


だから、イザベル・アンヌ様が笑顔じゃないところを、はじめて見ている。



「己を卑下なさるのもご自分では気持ちいいのかもしれませんけれど、聞かされるほうは興ざめだわ。」

「……っ!」




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