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64.「トイレの王妃様」に新たな嫁がくる


ソフィアの持ちこんだ家具はマリカ公国に返され、全てアイオライト製の新しい家具が入れられた元ソフィアの部屋に、新しい主人がやってきた。

ソフィアの妹、マリカ公国第二公女メアリ・フィオヌラ。

ソフィア付きの使用人たちはそのままメアリ付きになった。



今年の社交シーズンの始まりは、またもユアンの結婚式から。

前回の結婚式から一年しか経っていないから派手なパレードはしなかったけれど、メアリはソフィアに負けず劣らずの美貌を見せつけた。


きらめく蜂蜜のような金髪に、湖のような深い青の瞳、いちごジャムの鮮やかさをもつ唇。

姉妹だから当たり前だけど、ソフィアに似た顔立ち。


複雑な思いで、わたしはウィルの背中越しに、ユアンとその隣に立つメアリを見つめていた。



「病める時も、健やかなる時も、死がふたりを分かつまで愛し、慈しみ、貞節を守ることをここに誓います」

「ユアン・ミカエル・アレクサンダーに従います」



伏し目がちに、正しく誓いの言葉を口にしたメアリに、アイオライト国内の貴族たちはわき立った。

ソフィアのときは、「あたしも、ユアン・ミカエル・アレクサンダーを夫とし、いかなる時も共にあることを誓います」などとイレギュラーなことを言ったため、結婚が成立したのかしていないのか、曖昧なままだった。

ウィルも最後まで、それをはっきりさせなかった。

ソフィアの存在は宙に浮いたまま、彼女の妹のメアリが間違いなくユアンの妻になった。



マリカ公国の大公と大公妃は、メアリとともにアイオライトにやってきて、結婚式を見届けて帰っていった。

ソフィアの眠っているハイゲイト墓地には一度も行かないまま、帰っていった。

二人は、「この度はありがとうございます」とウィルに言い、「ソフィアがご迷惑をおかけしました」とわたしに言って、「メアリをよろしくお願いいたします」とユアンに頭を下げて、一年前より幸せそうに笑っていた。

後からウィルが、「国内の貴族の反乱を煽るソフィアがいなくなったから、統治が楽になったんだろう」と教えてくれた。


ソフィアが存在した理由は何だったのだろう。

存在した甲斐はどこにあったのだろう。




***




貴族会議が会期中でも、ユアンは毎朝メアリのところへ朝食を食べにいっていた。

ソフィアのときとはえらい違いだ。

本当に、ソフィアがアイオライトに嫁いできた意味はどこにあったのか。


毎日どこかのお茶会やら夜会やらサロンやらに行かなくてはならない社交シーズン。

一日だけ、午後の予定をなくしてもらった。

ルイーズと一緒に、ハイゲイト墓地にいくために。




郊外に新しく作られた墓地。

王城の裏門から馬車に乗って一時間。

森だったそこは他の墓地と違って教会がなく、庭師のような格好の管理人がいるだけだった。

石壁で囲われて、外見は立派な墓地だったけれど。


正面の門から入ってすぐ、ソフィアの胸像があった。

その胸元の説明板には、


「アイオライト王国王子の妻ソフィア・ベル・オリヴィア ここハイゲイト墓地を守護する聖女」


と記されていた。

普通こういうのって、「王太子ユアン・ミカエル・アレクサンダーの妻」って書くんじゃないの?

疑問の残る胸像から右回りに歩道を歩いていって、墓地の真ん中まで行くと、縦長のソフィアの墓石があった。


「若くして天に昇り、この墓地を守らんとする」


墓石に刻まれた文章を読んで、そのそっけなさに驚いた。

墓石自体は大きくて、蔦のからまった意匠が施されている。

中央上部にはアイオライト王家の紋が彫られ、間違いなく王族の墓だとわかる。

しかし、この扱いでは、とても他国の公女様で王太子の妃だとは思われないだろう。


ウィルは、ソフィアを王族の墓に入れず、一人だけ平民の墓に入れた。

アイオライト国民は、ソフィアの死を悲しみはしたものの、ハイゲイト墓地に葬られることには肯定的だった。

そもそもそこまでアイオライト王国に馴染んでいないソフィアでも、高貴な身分の人間が自分たち平民と同じ墓地に眠ることは、歓迎すべきことらしい。

そう、それは彼女でなくても、王族なら誰でもよいのだ。

ウィルもそれを分かっていて、彼女を贄にした。


「ソフィア・ベル・オリヴィア」の名は残るし、未来には本当に「平民とともに眠る聖女」となるかもしれない。

けれど、たぶん、ソフィアが望んでいたのは、こんな結末ではなかっただろう。

わたしは、幽閉エンドを避けたいから行動している。

ソフィアも、自分が幸福になるためにあのような行動をしていたはずなのに、その存在自体がわたしを脅かすものだった……。



街の喧噪も聞こえない静かな墓地。

複雑な思いで、ソフィアのお墓に手を合わせた。




わたしだって彼女に殺されていたかもしれないのに、その危険が遠ざかったらこんなふうに眉を下げた悲しげな表情で彼女のお墓にいる。

白々しいと、冷静に思う自分がいる。


けれど、平民のふりをしてまでお忍びでハイゲイト墓地に行ったのは、けじめをつけるため。

ソフィアへのお詫びだ。


マリカ公国との関係があるから、ソフィアの死はニセマッシュルームによる中毒死ということになっている。

でもわたしは知っているのだ。

わたしの息子があの少女を殺したのだと。

ユアンが殺してしまったことのお詫び。

それを隠す嘘に荷担するお詫び。




そうしてひっそりとお墓参りをしたはずなのに、王都では「トイレの王妃様がわざわざ前王太子妃のお墓に祈りを捧げに御自ら参られた」と評判になってしまった。



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