57.国王陛下の腹の中3
アイオライト内で、ソフィアに反「トイレの王妃様」運動をされては困る。
未だ燻っている反ロジーナ派の奴らに、ソフィアを担がせてはいけない。
とにかく彼女をアイオライト貴族と接触させないようにする。
王太子妃は体が虚弱で、例えクーデターに成功しても、先はないと思わせておかねばならない。
もうひとつ、ソフィアには問題があった。
第一公女として教育を受けていただろうに、話し方が平民訛り。
大公との会話を聞いていたら、
「パパぁ、ソフィーちゃん今日は仔牛じゃなくてチキンの気分なのに、どこにもチキンがないじゃん!」
「ソフィア、今日はウィリアム陛下が来られているから、とびきりの仔牛を用意したのだよ」
「ソフィーちゃんはチキンが食べたいの! うにのクリームがかかったやつ!」
「こらこら、おとなしくしてなさい。明日はソフィアの食べたいものを用意させるから」
というようなものだった。
これをアイオライト国王である私を招いた席で、婚姻の打ち合わせのその席でされたのだ。
この大公は躾もできないのかと呆れた。
一時はユアンとソフィアの婚約をスルーしようとしていたくらいには周りが見えていたはずなのに、こちらが婚約続行を決めたらこの態度。
大公は、善人で常識人だと思っていたのだが、認識を改めるきっかけになった。
彼は、「人はいいが間抜けな人間」だ。
王の器ではない。
同じ席でもうひとつ。
ソフィアが、アイオライト語のマリカ方言しか話せないことが判った。
外国語教育だってしていたはずなのに。
しかもマリカの第一公女なら、外交のために数カ国語は操らなければならないはずなのに。
直近の一年は、アイオライトからも語学教師を送りこんでいたはずなのに。
後でアイオライト騎士に聞いたところによると、アイオライト人の教師を嫌い、ほとんどボイコットしていたという。
叱れ、大公よ。
いや、本当に、そのような娘をユアンの妃にしてもよいのか、悩んだ。
一夫一妻制のこの国で、息子の伴侶にあのような愚かな娘をあてがうのは心苦しい。
できることならユアンには、彼に見合った聡明で慈悲深い、それこそロジーナのような娘をあてがいたかった。
だが。
マリカ公国の第一公女の身柄がアイオライトにあり、その王太子と結婚している、という事実が大事なのだ。
懸念していたマリカ公国内の平定を、アイオライトが直接できるようになるというのは喜ばしいことなのだ。
国王は国を治める。
ユアンもそれを理解している。
だから、ソフィアとの婚姻も納得し、受けいれた。
せめてソフィアの見た目が美しいのが救いか。
ソフィアの寝室にはまだユアンを行かせていないが、このシーズンが終わればそれなりに夫婦生活をしてもらう。
子を産めなければ、ソフィアには死んでもらって、第二公女を新たな妃とする。
これも大公との密約で、そう決めてあるのだ。
***
……ロジーナは、私がこのようなことを考えていると、気づいているだろうか。
できるだけ彼女には、己の負の部分を見せないようにしてきた。
ロジーナの運命を変えてしまったのは私だ。
私が妃に、と言わなければ、もっと自由に暮らしていただろう。
ロジーナはソフィアに会う前から、彼女のことが苦手そうだった。
私がいくら隠そうとしても、ソフィアのマリカ公国での悪行は、ロジーナの耳にもきっと届いていたのだろう。
嫌いで当たり前だ。
それでもユアンとソフィアの結婚を、国王である私が決めたのだからと、一言も文句は言わなかった。
私はできるだけロジーナとソフィアが顔を合わせないよう、使用人らに命じておいた。
私がロジーナにできるのは、毎日の食事と、綺麗なドレスと、憂いのない明日を迎える暮らしを与えること。
それなりの心労をかけているから罪滅ぼしとまでは言えないが、出来得る限り、彼女に憂いのない明日を与えることを、私は誓おう。




