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53.少女漫画のヒロインの本性2


王城の敷地内に、貴族に貸しだせる別館がある。

淡いブルーの外壁と、広く取られたサンルームのあるその別館は、カルセドニー宮とウィルが名づけた。

警備上の問題から、茶会やサロンに王族を招待するときは、できるだけそのカルセドニー宮で開くのが望ましい。


今日のウォーターフォード伯夫人ブリジット様のお茶会も、カルセドニー宮でだ。

席に案内されると、綺麗なカッティングのグラスが置かれていた。

どうやら出席者それぞれに異なるデザインのグラスが用意されているらしい。

グラスの他も、すべてガラス製の食器で統一されている。



「さすがブリジット様。ウォーターフォードのガラス細工がとても美しく、これからの季節にぴったりの涼やかなテーブルですね」

「王妃陛下にそう仰っていただけて光栄ですわ」



こじんまりとしたお茶会には、わたしとルイーズとウォリック伯夫人キャロライン様が招待されているだけだった。

一年ぶりに会うブリジット様も気取ったところのない方で、こちらもあまり気負う必要がない。



「ウィリアム陛下とロジーナ陛下のおかげで、うちの領も豊かになってきました。ガラス職人育成のための学校を作れたのも、私の夫だけでは無理でしたもの。本当に、ロジーナ様が自動水流洗浄トイレをご発明なさってから、目に見えて生活は良くなりました」

「わたしの空想めいた考えに、真剣に取りあってくださったのは国王陛下です。わたしだけでは何もなし得ませんでした」

「いいえ、ロジーナ様。ロジーナ様が王室に入られてからのこの国の発展は目覚ましいものですよ」

「それはただ、石炭が発掘されて、いろいろなものが発展したからで、わたしの功績ではありませんよ」




前世の知識をつかってチート! ……をするのは、わたしには無理だった。


日本の社会制度を思いだしては、あれを適用したらいいんじゃないかな、と考えはしても、今のこの中世とか近世っぽい価値観の社会で実現するには無理だろ、ってことばかり。

人間みな平等! 人権がある! なんて言っても、平民を支配する貴族が納得するわけないし、そんな貴族に支えられている王族としては、自分の立場を失いかねない発言になってしまう。

それに領主によっては、領民が食いあぶれることのない安定した生活が可能な領政をしているから、下手に制度をひっかきまわすのも一概に良いことではない。

わたしができるのは、こういう物があったら便利だろうって提案をするくらいだけど、それも大抵、すでに誰かが発明してたりする。

洗濯機があれば楽なのにな、と思っていたら、王城では半世紀も前からハンドルを回せば桶の中がぐるぐる回って、脱水も同じ仕組みでできる、とっても時短になる洗濯桶をつかっていた。


結局チートしようとしてもできないし、欲しいと思うものはわたしじゃなくても発明できる。

わたしはできるだけこの社会をかき乱さないように、伝統に則って粛々と、国王であり夫であるウィルを支えていくのが正解なのだ。

幽閉エンドを避けるための行動はさせてもらうけどね!




「まあまあ、褒めていただけるのは嬉しいですが、本日はわたし、ブリジット様にお訊ねしたいことがありまして」

「はい、何なりと」

「マリカ公国第一公女ソフィアのことです」



ブリジット様も、今日のお茶会で何を訊かれるか分かっていたのだろう。

むしろ、参加者の顔ぶれを見ると、彼女のことをわたしに伝えるために、このお茶会を開いたに違いないのだ。


驚くふうもなく、ブリジット様は話しはじめた。



「私も私の夫も、アイオライト王国と国王ウィリアム陛下、王妃ロジーナ陛下に、忠誠を誓っています」



そう前置きをしたのは、アイオライト王室に嫁いだらしいソフィアのことを、不当に評価していない、というアピールだったのだろう。

ブリジット様の淑やかな口調で語られたのは、公女らしくないソフィアの姿だった。




***




お茶会の内容は、ブリジット様にもキャロライン様にも他言無用でお願いしておいた。

まあ、わざわざお願いしなくとも誰にも言えない話だろうけれど。



「何というか、想像以上というか、にわかには信じられない話でしたね……」

「ブリジット様は嘘を言っていないわ。彼女には、ソフィアはああ見えているのよ」

「その、ブリジット様にはあのようにお見えになっていても、本当は、もっとこう、普通の公女様という可能性は」

「期待できないわね。だって結婚式であの態度だったもの」



わたしの寝室で、ルイーズと顔を見合わせて、ため息をつく。

ここ数日の社交でわかっていたけど、ソフィアによい感情を抱いているアイオライト貴族は少ない。

貴族のご婦人方の目には、ソフィアは「自分の夫に従わない妻」で「かわいげのない女」に映っているようだった。

おそらく平民の女性たちの目にもそう映るだろうし、そうなったらこの国で人気を得ることは難しいだろう。


何よりわたしが気にかかっているのは、このことだ。



「マリカ公国第一公女ソフィアはアイオライト王国の『トイレの王妃様』を毛嫌いしている」。



それがブリジット様からもたらされた情報だった。


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