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52.少女漫画のヒロインの本性1



「病める時も、健やかなる時も、死がふたりを分かつまで愛し、慈しみ、貞節を守ることをここに誓います」

「新郎に従います」



この一続きを正しく口にしないと、このアイオライト王国では結婚とは認められない。

いくらマリカ公国から来たばかりといっても、この慣習を知らないはずがない。

妃教育のために一年間、こちらから教師を派遣していたのだ。

特に今日のこのパレードと式典は衆目に晒されるために、念には念を入れてきっちり教えこんでいたはずなのに。


今、ソフィアに望まれていたのは、「新郎ユアン・ミカエル・アレクサンダーに従います」という一言だった。

それを違えて、この結婚を受理していいものか。

ウィルはどう判断する?

ソフィアはまっすぐ、ウィルに目をむけている。

挑戦的とも感じられるその態度を、ウィルはどのように裁く?


ざわめく賓客たちの中で、ソフィアの両親、マリカ公国の大公と大公妃が、青い顔をしているのが見えた。

気の毒だ。

一世一代の結婚式、それも彼らにとっては隣国とより強固な関係を築こうという思惑もあっただろうに、よもや王女たる娘が嫁ぎ先に失礼な振る舞いを、初っ端からするとは思ってもみなかっただろうに。



ウィルが王笏で床を鳴らした。

とたん、場内が静まり、皆がウィルを仰ぎみた。



「マリカ公国第一公女ソフィア・ベル・オリヴィアは今日、この国に来たばかり。まだ知らないことも多くあろう。我がアイオライト王国第一王子ユアン・ミカエル・アレクサンダーは、その献身をもって彼女を支え、彼女が我が国で心穏やかに過ごせるよう努めるだろう。私たちアイオライト王国は、マリカ公国第一公女ソフィア・ベル・オリヴィアを歓迎する」



そう言って、玉座から立ち上がった。

静まりかえった大広間にぱらぱらと拍手がわき、最終的には城が揺れるほどの拍手と歓声で溢れた。




皆は、ユアンとソフィアの結婚が、王に承認されたと思ったのかもしれない。

だけどウィルの言い様では、ソフィアをユアンの妃にするとは明言していないのだ。

人ごみにちらちら見えるマリカ公国の大公と大公妃も、戸惑ったような顔をしている。

わたしもウィルの隣で平然と笑みを浮かべているけれど、なんとなく、ウィルはソフィアを認めてないんじゃないかな、と感じている。



もしかして、漫画の通りに、ならないの……?




***




三日の宴の後、マリカの大公と大公妃は帰国していった。

他国から招待した客らも帰っていく。

王都アダマスに残るのは、アイオライト王国内の貴族たち。

これから貴族会議のシーズンに入るのだ。


わたしはといえば、他国からのお客たちの相手をすることがほとんどで、ウィルやユアンやマリカの大公妃とは深く話す暇がなかった。

もちろんソフィア本人とは、まったく。


一度話しかけようとしたけれど、すぐに彼女の侍女に遮られてしまった。

仮にも王妃を遮るのはどうかと思ったけど、「主人がまた失礼をしてしまうかも」という顔色がありありと浮かんでいたから、娘のシャロンに呼ばれたのを幸いにソフィアから離れたのだった。

ソフィア本人はともかく、あの侍女は優秀だろうな。



わたしの頭のなかは、ソフィアはどういう子で、本当にユアンの妃になったのかどうか、気が気ではない。

だってもしこれでユアンの妃になっていなければ、漫画の通りにはいかず、わたしとシャロンは嫁イビリすることもなく、幽閉されることもない。

いや、誰が妃に来ようと嫁イビリしてしまうのかもしれないけども。

しないように気をつけるけども。


ウィルはソフィアのことを、「かわいらしい娘」と言っていた。

個人的に彼女を気にいっているのだろうか。

あるいは、マリカ公国の大公位のために、このまま彼女を受けいれるのだろうか。

これからどうなるんだろう……、わたし、生きていけるのかしら……。




わたしが悶々としている中、登城する貴族も増えて、賑やかな日常が戻っている。

ウィルはどんどん忙しくなってきて、貴族から出てくる何やかやを処理しているみたいだ。

わたしも夫に帯同して王都に出てきた奥様方のお相手で、お茶会にサロンにと慌ただしい。

別に参加を無理強いされているわけではないけれど、地方貴族の情報を集め、何かあれば王に報告するのも王妃の務め。

また王家の求心力を失わないためにも、必要な社交だ。


今日は、マリカ公国と国境を接しているアイオライト王国ウォーターフォード領の、ウォーターフォード伯夫人が主催するお茶会にいく。

少しでもソフィアに関する情報が得られればいいのだが、嫁の粗を探そうとする姑感を出さないように気をつけよう。



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