51.少女漫画のヒロイン、登場
ダイヤモンドのように光り輝く、アイオライト王国の王都アダマス。
大きな王城には、都市整備を得意とする国王と、トイレの発展に寄与した王妃。
王太子は雇用状況を改善しようとしている社会派で、王女は勝ち気でファッションに興味津々の美人。
国王夫妻は仲睦まじく、国民の憧れる家庭をつくっている。
また、王族に絶対の忠誠を誓った側仕えたちと、統率のとれた騎士団と兵団に、それぞれ完璧な仕事をする使用人たち。
人心掌握に長けた国王はまた、田舎の男爵令嬢を妃にしたことに反発していた諸侯に反乱を起こさせないようにしている政治手腕も評価が高い。
王都の市場では国中の生産品が並ぶ。
どの国より整えられた道路と鉄道網に、豊かさが表れている。
もちろん貧民街がなくなったわけではなく、むしろ貧富の差は激しくなっているのだが、それでも、どこより豊かで全てがある国。
以上、これが現在のアイオライト王国の状態なんだけど。
……わたしの功績、トイレに絞られているのは何故だ。
どこまでも「トイレの王妃様」がついてくる。
わたし結構がんばったよ!?
手に職は大事だから救貧院での職業訓練プログラムつくったよ!?
王城でも使用人の二割はそこの卒業生だよ!?
貴族諸侯のタウンハウスや王城と取引のある商家への就職斡旋もやってるよ!?
「トイレは水洗がいいなあ」ってぼんやりあった前世の記憶でかるーく言ったら王妃にまでなってしまったけれど、なんで今でも「トイレの王妃様」と呼ばれなきゃいけないのよ……!
悪役っぽくないのはいいけど、これで嫁イビリ王妃の役までしたら本当にいいところないじゃないの!
お願いだから漫画とはちがう展開になりますように!
めちゃくちゃ真剣に祈っていたら、隣にいたウィルから話しかけられた。
「ロジーナ、緊張している?」
「え、あ、まあ、はい、ええ、お会いするのは初めてですし」
「僕は去年会ったけど、かわいらしい娘だったよ」
ウィルとわたしは、王城の大広間で、ユアンとその妃となるソフィアが来るのを待っている。
二人は今、王都の入り口の門から目抜き通りをパレードしているのだ。
そのパレードの終着点がこの大広間。
国王夫妻との対面と、国内外の王侯貴族へのお披露目をやって、それからバルコニーで民へお披露目をする。
そう、マリカ公国の王女ソフィアが、アイオライト王国に嫁入りする日がとうとう来たのだ。
マリカ公国の大公夫妻とは晩餐会やサロンで何度かご一緒しているが、その娘であるソフィア公女とはまだ会ったことはない。
この一連の式典の準備も一年かかったのに、その間、わたしは一度も公女本人と顔を合わせることはなかった。
大公夫妻からは、公女は人見知りと聞いてはいる。
わたしとしても、自分を破滅させる原因になり得る彼女とは、必要以上にあまり会いたくなかった。
もちろん良い姑になろうとは思うけど、漫画の拘束力がどこまで及ぶかが問題なのよ。
城の塔の鐘の音が響き、王太子と公女が城に着いたことがわかった。
あとちょっとで、漫画の主人公「ソフィー」であるはずのソフィアがここに来る。
***
ユアンのエスコートで大広間に入ってきたソフィア公女は、漫画で見たのとそっくりで、きらめく蜂蜜のような金髪に澄んだ青い目。
頬も唇もさくらんぼのように赤く、袖口から出ている指先もほんのり桃色で、これは本当にお砂糖とスパイスと素敵な何かでできているのだと思わされた。
お人形みたいに可愛らしい彼女は、ふんわりとレースに覆われた白いドレスに、ダイヤモンドと真珠のティアラがよく似合っている。
ティアラはこちらで用意したもので、ドレスはマリカで誂えたもの。
大公妃と申し合わせて、それぞれ調和するように作らせた。
並び立つユアンも、夢見る少年と現実を見据える青年の中間の顔をしていて、将来の王としてとても楽しみだ。
アイオライトの騎兵隊の軍服を着ているのも、頼もしく見えるだろう
きっとソフィアの目にもそう映っているだろう。
漫画ではそうだった。
その後、自分を守ってくれないユアンに失望し、頼れるものは己だけ、と努力するのだけど。
いや、今のユアンは、ホスピタリティに溢れる良い男の子だから、大丈夫。
ソフィアが困っていたら、絶対に心を砕いて対応するはずだ。
だからソフィア! 大丈夫よ!
「……病める時も、健やかなる時も、死がふたりを分かつまで愛し、慈しみ、貞節を守ることをここに誓います」
ユアンがウィルに向かってそう告げる。
父子でちょっと気恥ずかしさもあるが、アイオライト王室の結婚式は、その時の王に新郎新婦二人で誓うのだ。
新郎が婚姻のための定型文を諳んじた後、新婦が「新郎に従います」と続ける。
この返事をもって、正式に結婚した状態になる。
ソフィアの唇が小さく震えた。
あとは彼女が、「新郎に従います」と、そのフレーズを言うだけだ。
数秒の躊躇いののち、ソフィアが口を開いた。
「あたしも、ユアン・ミカエル・アレクサンダーを夫とし、いかなる時も共にあることを誓います」
大広間中に、ざわめきが起こった。




