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49.トイレの王妃様は運命に抗えない3



ユアンの次の子どもがまた王子だったら漫画とは違う展開になったのに、生まれてきたのは女の子。

じゃあせめてシャロンという名前は避けようとした。

したのだけど……。




ユアンのときの名づけは、本当はワイアードの地名を入れる予定だったけれど、それがナシになったから、予定していたのとは違う名を考えなおすのに直前までバタバタしていた。

ウィルが中心になって、貴族名鑑で同名の不名誉な者がいないか調べたり、専門用語として変な意味を持っていないか枢密院に諮ったり。


シャロンはもともと王都で産むつもりで、名づけの準備も万全だった。

男の子なら「オリバー・ローレンス」、女の子なら「ソフィア・イザベル・オリヴィア」。

知を愛するように「ソフィア」、イザベル・アンヌ様のように素敵な女性になってほしくて「イザベル」、緑あふれる自然に囲まれた環境を得られるように「オリヴィア」。

いい名前だわ、とルイーズたちとだいぶはしゃいだ。

どちらの名前もこの王国の歴史を受け継いでいる名だ。


おそらく女の子が生まれるだろうとは思っていた。

長男を「アーサー・ワイアード」と名づける予定が狂ってからは、漫画の通りに世界が進んでいくんだろうなあ、と諦めに近い心境だった。


「ソフィア・イザベル・オリヴィア」になるはずだった長女はお腹のなかで順調に育ち、有り難いことに安産で生まれてくれた。

さて王女の名前を公表するか、というときに、マリカ公国から使者が来た。


あの! マリカ公国!


うちの息子の嫁にくるはずの!

漫画のヒロイン、ソフィーが生まれているはずの!

あのマリカ公国!



とはいえ、漫画で感じていたより、このアイオライト王国とマリカ公国は友好的な関係を結べていると思う。

漫画では、小国のマリカ公国が大国であるアイオライト王国の庇護を求めて王女を人質のように差しだすわけだけど、今の両国ではそんなことをする必要がない。


ウィルが、マリカ公国の銀細工に目をつけたのが始まりだった。

シュピーレン国のデザイナーが意匠を担当し、アイオライト産の宝石とマリカの銀細工を組み合わせ、できあがったジュエリーはウェスティリア帝国のモード商に卸す。

ウェスティリアのモード商は世界中に顔がきくから、アイオライトの宝石も、マリカの銀細工も、今まで届かなかった国々へ披露できるようになったのだ。

ウィルのアイディアで始まったこのプロジェクトは大成功で、今ではマリカ公国は「世界で唯一の銀細工職人養成学校がある」と有名な国になっている。

小国で軍備も脆弱といえど、マリカはすでに国際社会に認められた立派な国だ。

ウェスティリアとも直接やりとりできているようだし、わざわざアイオライト王国に王女を嫁がせる必要もない。


だからマリカ公国から使者が来たときも、ジュエリーや銀細工、商売の件だと思ったら。

マリカ公国に第一王女が生まれたという知らせだった。

名前は「ソフィア・ベル・オリヴィア」で、翌年に誕生パレードをすること、そのパレードにウィルとわたしとユアンを招待したいこと。

そんなことを使者と謁見したウィルから聞かされた。



まさかの名前被りとか……。

だって漫画では「ソフィー」だったじゃないか……。

ていうか「ソフィー」、そういえば「シャロン」と同い年だったわ……。

そうか、漫画とは違うけれど、何でか「ソフィー」は「ソフィア」になってしまったのね。

でもってこっちが王女に用意してた名前とすごい被り率の名前をつけたのね。



がっくりきたものの、同じ年に生まれる王女同士にこれほど似た名前をつけることは避けたい。

何よりマリカ公国のほうが先に名づけて、こうして使者を送ってくれたのだから。

これでほぼ同じ名前をつけたらある種の宣戦布告になってしまいそうだ……。




ということで、結局「ソフィア・イザベル・オリヴィア」と名づけるのは諦めた。

次点で候補になっていた「シャロン・イザベル・クローディア」になったのだ。


まさかこんな理由で「シャロン」とつけることになるとは思わなかった。

そして王妃ロジーナが「ソフィー」をいじめる訳が分かったと思う。

たぶん自分がつけようとしてた名前を先につけられたからだ。

それにイラっとしたんだ。


さらに使者はとんでもない申し出も持ってきていた。


生まれてきたマリカ公国の第一王女「ソフィア・ベル・オリヴィア」を、アイオライト王国第一王子「ユアン・ミカエル・アレクサンダー」に嫁がせたい。

わたしには悪夢のような、しかしウィルにとってはそう悪くはない、そんな提案だった。



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