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47.トイレの王妃様は運命に抗えない1


本当ならわたしは、ユアンという名前はつけたくなかった。

嫁イビリ王妃ロジーナの子である主人の王子もユアンという名だったから。


わざわざ自分が不幸になるルートに沿うように、王子にユアンや王女にシャロンと、漫画の通りに名づけなくてもいいじゃない。


そう思っていたころがわたしにもありました……。




***




王妃が出産するとなると、場所も大切だ。

ウィルは、男爵令嬢だったわたしを娶ったから庶民からの人気はあるけれど、貴族からはその聡明さを煙たがられているように見えた。

だからわたしたちは、第一子の出生地に、ウィルを煙たがっていて且つサファイヤの産地として力を持つワイアード領を選んだのだ。

そこの民衆は領地を治めるワイアード伯に煽られていて、伯が反乱を起こそうとしたら簡単に賛同してしまいそうな空気があると、ウィルのスパイが報告してきていた。


栄誉ある王子の出生地となったら、民衆も王家への悪感情を引っこめるだろう。

また王子の出生地に自分の領が選ばれたとなれば、ワイアード伯の反感も挫くことができる。

よい言い方をすれば親善大使だけど、生まれてくる子をも政争の道具として使うということだ。


とまれ、あまり悲観していてもよろしくない。

ワイアード領には、温泉地であるバースがある。

仲良くなっておくに越したことはない!


そんな下心をもって、妊娠八カ月のときに馬車でワイアード領領主の住む街、サマーアベニューへ向かった。

そこに用意した屋敷で滞在する予定だった。

鉄道が通っていればよかったのだけど、ウィルの政治に好意的でない領のインフラ整備は国からの補助金が出ないため、遅れていたのだ。


護衛は王室騎士団のイアン・カーライル大尉率いる一団。

旅行気分でひさしぶりの馬車旅を楽しんでいたのだが、王領を出たとたん、わたしたちは盗賊のような男たちに襲われた。

平和な時勢だからと護衛の人数が六十人の小隊だったのが悪かったのか。



「王妃サマがここを通るって情報は正しかったな!」

「チェルニンが言ってたことは本当だったんだな、疑っちまったぜ」



奇襲をかけてきた男たちは騎士団の数倍の規模の人数で錬度も高かったと、後で教えられた。

とにかく小隊の奮闘空しく、わたしの馬車は囲まれてしまった。

そこに聞こえてきた盗賊たちの話は、またも内部に裏切り者がいたというものだった。


チェルニン。

それはイアンの部下の名前。

王室騎士団にいるのだから身元はしっかりしているはずだけど、元レッドサム伯のこともある。

わたしが王妃でいることが許せないか、わたしを王妃に据えているウィルを許せないか。

どちらだとしても、国王への反逆行為に他ならない。


こんなにも敵がいるのだと思うと、泣きたくなる。



馬車の外からは雄たけびが聞こえてくる。

扉と窓をかたく閉めて、連れてきたルイーズと、助かるように祈っていた。


がくんと揺れて、扉の隙間から剣の切っ先が見えた。

男たちの笑い声。

もう駄目かもしれない。

剣をてこにして扉が接がされる。

どうすれば助かるだろう。

外の空気が流れこんできた。

血のにおいがする。

死者が出てしまっただろうか。

わたしたちも助からないだろうか。

騎士団の騎士よりも体格のよい男の顔が、扉からぬっと入ってきた。



「どっちが王妃サマだ?」



男がわたしとルイーズを見比べる。

男の向こうに、騎士団の鎧をつけた誰かが倒れていた。


わたしが王妃だと名乗りでるべきか。

そうすればルイーズは助かるかもしれない。

だけど王妃としては、絶対に自分が助からなければならない。


ごくりと唾をのんだルイーズが、毅然とした態度で口を開いた。



「私が王妃ロジーナですが、貴方たちは?」



頬に大きな切り傷のあるその男はにやりと笑い、ルイーズに剣を振ろうとした。

ルイーズはわたしを庇おうと両手を広げ、剣を受けとめようとしている。


しかし、男の剣がルイーズに届くことはなかった。



「その方たちに何かあったら、お前の命はないと思え……」



男の口から大量の血と、剣の先が出てきた。

くずおれる男の後ろに現れたのは、血まみれになったイアン。



「イアン……! 大丈夫ですか!?」



ルイーズが悲鳴のような声をあげる。

イアンの脇腹に、短剣が刺さっていた。



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