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40.トイレの王妃様、侮辱されまくる



「どうやら言葉が通じていないようだ」



ウィルが冷たく言い放つ。

ウィルは「見限った者を見る目」をしていたけれど、それでもレッドサム伯は食いこもうとしてくる。



「ウィリアム陛下が今、私を死罪にしようとよろしいのです。ですが、いつかは私が、このゲイソン・クロスが正しかったのだとお分かりになる日がくるはずです!」

「ロジーナの宝石を盗み、ルテル夫人に渡したのは何故?」

「イザベル・アンヌ様……! ああ、王妃たるイザベル・アンヌ様! 貴女様以上に王妃に相応しいお方はおりません!」

「答えなさい。どうしてロジーナの宝石をルテル夫人に?」

「……その女にウィリアム陛下から下賜された宝石などもったいない! 一度その女が手にした宝石など、価値もなくなってしまう。黒死病をその女のせいにするのに、価値のない宝石は利用するのにもってこいだったのです。イザベル・アンヌ様、私は真実、国のためにやったのです!」



レッドサム伯ってこんなキャラだったのか。

イザベル・アンヌ様のことを崇拝しているのね。

女神を見るかのような目……、というよりイッちゃってる目をしている。

当のイザベル・アンヌ様は迷惑そうというか、興味もなさそうというか、他の臣下に接するのと変わらない態度をされているのがまた哀れに見える。


レッドサム伯って、イザベル・アンヌ様を大好きすぎて、わたしのこと大嫌いなんだな。


呆れかえったウィルに代わって、イアンが事務処理という感じで確認していく。



「北東の国から黒死病の病原菌を入手したのは貴様で相違ないな?」

「ございません」

「修道院に私を騙った書簡を出したのも貴様で相違ないな?」

「ございません」

「ルテル夫妻を利用し、グラナトの民を黒死病の恐怖に落とし、死に至らしめたことに相違ないな?」

「ございません」

「王妃ロジーナを陥れようと計画し、実行したことに相違ないな?」

「ございません」



自信満々、正しいことをしたのだとしか言いようのない顔をしたレッドサム伯に、頭が痛くなる。

モーレイ八世なんかもう体中の酸素を吐き出したようなため息を吐いてるじゃないの。

イアンのお父様のモントローゼ公も腰の剣に手をかけ、今にも抜刀しそうだ。


イアンの尋問がルテル夫人に移る。



「カイリー・ルテル。お前はレッドサム伯ゲイソン・クロスの計画に乗り、王妃ロジーナを陥れようとグラナトに黒死病を撒き、民を死に至らせた。相違ないな?」

「ございます! 私はレッドサム伯に騙されていたのでございます!」



ルテル夫人は、充血した目をぎょろりとわたしに向けてきた。



「ロジーナ陛下がウィリアム陛下を操り、国を食い物にしようとしていると教えられたのです! 私はそれを信じ、国のために汚れ役を引き受けただけなのです!」

「聞かれたことだけに答えよ」

「そんな! 私は騙されただけなのです! 私も被害者なのです!」



どの口が言うんだ、どの口が!

涙を流しているけど、お前の泣き落としは無理があるだろうが!

お前の横領がなくなってから、炊き出しの回数が予算変わらず三倍に増えたんだぞ!



「お前は貴族に取り立てるというレッドサム伯の言いなりになり、王妃ロジーナを陥れる片棒を担いだ。相違ないな?」

「ございます! 私はただ、国を思う伯のお気持ちに共感しただけで、まさかこのようなことになろうとは思いもよらなかったのでございます!」

「もう結構。次、フランシス・ルテルよ」



ルテル夫人が金切り声をあげたが、すぐに騎士のひとりが夫人の喉に刃をあてて黙らせた。


青い顔をしたルテル氏は、アイオライト国王を騙る書簡に従っただけだと調べがついている。

カイリーは王室のごたごたに巻きこまれた元男爵夫人で、生涯修道院に閉じこめておくのは忍びない。

彼女には枢密院議長のレッドサム伯が後見人となり今後の生活を保障するから、ウェスティリアの商人の妻として新しい人生を送らせるよう、アイオライトとウェスティリアの間で話はついている、と。

ルテル氏は前妻を疫病で亡くし、養子を取っていたが、小さな商会の経営は楽ではなかった。

アイオライトの枢密院議長の後ろ盾のある女を妻にすれば、生活や商売は保障される。

ルテル氏は特に深くは考えず、カイリーを妻にしたのだった。

その後、レッドサム伯の手引きで北東の国の商品を扱うようになり、なかなかの利益を上げて、使用人を何人か雇うことができるようになった。

この数カ月は、富裕な下位貴族と同じような暮らしができるようになっていた。


北東の国の商品を密輸していたのは事情聴取されて然るべきだが、国王や貴族から直々に断罪されるとは思ってもみなかっただろう。

彼こそ巻きこまれただけと言えるけれど、今回の事件に加担してしまったのだ。

裁きを受けなければならない。

知らずとも裕福な生活を得ていたのだから。

民を殺した報酬を受け取っていたのだから。



「お前はカイリーの身を引き受け、妻にし、妻となった彼女が罪を犯すのを見逃し、彼女とともに利益を得ていた。相違ないな?」

「は、は、はい……、ああああの……」

「カイリーを妻にする引き換えにレッドサム伯ゲイソン・クロスから優遇され、北東の国の裏商人と通じ、黒死病の病原菌をカイリーに渡すことに加担した。相違ないな?」

「ちちち違うのです! わ、わ、私は、私は、知らなかったのです……!」

「他国の平民であり小さな商会の商人でしかないお前に、元貴族の女との縁談が来るわけがないとは思わなかったのか?」

「そそ、それは、おかしいとは、思いましたけれども……、カイリーは悪くない女でしたし、商売もうまくいって……。わ、私は、利用されていたのに気づかなかっただけで、アイオライト王国の方々を害するつもりもありませんで……」



ルテル氏の涙だけは、本物だろう。

同情するわけではないが、ちょっといい話に軽く乗った結果が今の状況で、こんなこと、彼の立場では想像もできなかっただろうから。



「ところでわたし、一つ聞いておきたいことがあるのですが」



この事件が起こってから、カイリー・ルテルと顔を合わせるのは今日のこの場が初めてのわたしは、どうしても確認しておきたいことがあった。




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