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39.トイレの王妃様、侮辱される




国王であるウィルと王妃のわたし、信頼のおける騎士イアンとその婚約者でありわたしの侍女ルイーズ。

前国王モーレイ八世とその妃イザベル・アンヌ様。

イアンの父モントローゼ公に、新たに枢密院のメンバーとなったルイーズの父シ―フィールド伯を筆頭に枢密院の方々。


以上の面々の前でうなだれているのは、レッドサム伯ゲイソン・クロス。


後ろ手に縛られている彼を騎士団が取り囲み、逃がさないようにしている。

彼に伯爵位を与え枢密院議長に任命し、様々な助言を得ていたモーレイ八世は、何度目か分からないため息を吐いた。




グラナトから王宮に帰ってきて二週間。

思ったより早く調査が終わったものの、この二週間はやっぱり生きた心地がしなかった。

あからさまにレッドサム伯と顔を合わせなくなるのもおかしいから、公務のときにはいつも通りに振る舞ったけれど、犯人かもと思っていたので何ともやりづらかった。


調査はイアンを始めカーライル家の者たちがやってくれた。

ウィルの手下を使えば、王城で暮らし枢密院議長であるレッドサム伯に気づかれる恐れがあったからだ。

ウェスティリア帝国からアイオライト王国に入国しようとすると、国境沿いにあってカーライル家が治めるモントローゼ領にまず入るわけだから、その点でも適切な役回りだった。

ルテル夫妻も一週間前にモントローゼ領で捕まり、取り調べを受け、王都へ移送。

ちなみに今は、レッドサム伯の後ろで夫婦ともども彼と同じようにひざまずき、悔しそうにわたしを睨んでいる。



調査と取り調べの結果、レッドサム伯の考えていたことが分かり、ルテル夫人とミモザ商会との繋がりも判明した。

レッドサム伯は、王妃ロジーナが国王ウィリアムに良からぬ影響を与えていると思い、ロジーナを排除しようとした。

それが王に仕える身として正しい行いだと信じていたから。


レッドサム伯はロジーナを恨んでいるであろう人物を探し、元ティナム男爵夫人カイリー・スウィント改め平民カイリーに目をつけた。

修道院に入れられ、そこで人生を終えることが刑であった彼女は、元来の派手好きな性格からその生活に不満しかなかったし、ロジーナが自分を陥れたと思いこみ、憎んでいた。

修道院に面会に行ったレッドサム伯は、平民カイリーにこう言った。

「王妃ロジーナをその座から引きずりおろさないか」と。

「計画が成功したら、平民カイリーを貴族に取り立てるよう、国王ウィリアムに進言するから」と。


修道院はレッドサム伯が偽造した国王からの通達通りにカイリーを外に出してしまった。

平民カイリーは、レッドサム伯の手配したウェスティリア帝国ミモザ商会の会長ルテルに嫁ぎ、ルテル夫人となった。

レッドサム伯はミモザ商会にアイオライト王国内での移動や商売の許可を与え、北東の国の商品を手に入れられるよう、北東出身の者を紹介した。

この者と伯がどのように知り合ったかは不明。

黒死病の病原菌はこの者からルテル夫人の手に渡った。


ルテル夫人はグラナトの村々である程度の信用を得てから、黒死病をばらまいた。

彼らが計画していたより早く鎮静化してしまったが、レッドサム伯は「黒死病は王妃のせいだ」と言いふらすようルテル夫人に指示し、王妃の寝室から盗んだ宝石を託した。

ルテル夫妻はもうグラナトへ行くつもりはなかったようだが、アイオライト王国北部ではまだ商売を続けようと思っていたらしい。


レッドサム伯は、この企みがバレるかどうか半々というところで計算していたらしく、一昨日騎士団が彼の寝室に踏みこんだときも、堂々としていたという。

取り調べにも協力的で、事件の全貌が分かったのも彼の自供のおかげだった。




グラナトに黒死病を招いたレッドサム伯ゲイソン・クロスとルテル夫妻を、どうするか。

裁判というシステムはあるものの、事が事だけに、あまり公にしたくない。

ルテル夫妻はウェスティリア国籍だから、下手したら国際問題になりかねない。

そこで、内々に処理しよう、となった。


内々とはいえ、ウェスティリアから見届け人として委託を受けたイザベル・アンヌ前アイオライト王国王妃や、枢密院の議長を裁くので枢密院や国内の主要貴族のお偉方も立ち会っている。

さながら「断罪シーン」だ。


大広間で大理石の床に膝をついている罪人に、ウィルがこれまで聞いたことのないような低い声を出した。



「さて、レッドサム伯。単刀直入に問おう。ルテル夫人を誑かし、グラナトに黒死病を持ちこませたのは、お前か」



ここでするのは一通りの確認と、処罰の言い渡し。

ウィルの言葉に、レッドサム伯は頷いた。



「仰せの通り、私でございます」

「理由を述べよ」

「私めは義務を果たしたまででございます」

「お前の義務とは?」

「王が間違っているのならば、それを正すことでございます」

「私が間違っていると?」

「恐れながら、さようでございます。伯爵以上の家から妃を娶られるべきところを、ウィリアム陛下は男爵の家から娶られました」

「それだけの理由で此度のようなことを仕出かしたと申すのか?」

「否。言葉を選ばずに申し上げるならば、ウィリアム陛下は、そこのロジーナ陛下の甘言に惑わされ、身元も確かではない孤児を王城の使用人に召しあげたり、市民議会の発足をご発案なさったり。そのようなことをなされば近く国体は崩壊してしまうでしょう。それにロジーナ陛下はやはり王妃として相応しくない行いが多くございます。先だっての件も、ご自身のお立場を考えず、自ら現地へ足を運ぶなど……。王妃たるもの王城でどっしり構えていらっしゃらなければなりません。ロジーナ陛下は、王妃として、イザベル・アンヌ様には到底及ぶべくもございません」



名前を出されたイザベル・アンヌ様は、眉ひとつ動かさず、無表情を保っている。

ウィルは王杓を持つ手が震えている。

動揺を覚らせないよう振る舞うのはウィルの得意なところだけど、今は抑えられないようだ。



「貴様は我が妃を愚弄するのか」

「……はい。王が間違えているときには、身を挺して間違いを正すのが臣下の役目でございます」

「己が間違っているとは考えもしないのか?」

「省みてロジーナ陛下が王妃に相応しくないと判断いたしました」




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