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38.犯人は誰?



わたしを、王妃ロジーナを陥れようとしているのは誰?


王の執務室と王妃の寝室、両方の付近をうろついていても不審ではない人物。

王妃の寝室は王の寝室と隣同士だから、王の寝室に用があると言えば王城の居住区画を歩いていても不自然ではない人物。


それはおそらく貴族の誰か。

王城の居住区画と執務部を行き来できるのだから、それなりの地位や職を持っているはず。


わたし付きメイドのアシュリーは、ウィルの執務室のほうへは行けない。

わたしの寝室の宝石を入れている抽斗は、鍵の開け方を知っているのはわたしとルイーズとアシュリーだけだけど、その気になれば誰でも開けられるだろう。



ウィルが重々しく口を開いた。



「一人、思い当たる人物がいる」

「まあ! どなたなのです?」



イアンもそれが誰か気づいたようで、ルイーズの驚く様子を見て、苦虫を噛み潰したような表情をした。



「レッドサム伯」

「え……?」

「枢密院議長の、レッドサム伯ゲイソン・クロスだ」



王の忠実なる相談相手であるべき人物。

王の意向を実務職員に伝え、双方の関係を取り持つ。

王に錯誤や誤謬があれば、反感を買ってでも意見する。

国を正しい方向に導くために必要な機関の、必要な人物。

それが枢密院という機関であり、レッドサム伯の役割だ。



「私は一日の予定を聞くため、彼に毎朝寝室まで来てもらっている。私が執務室にいるときでも、何かあれば彼を寝室に使いに出すこともある。ロジーナの宝石が無くなった日も、忘れ物を取りにいかせた。彼なら盗むことができるし、私を騙る書簡を偽造することも可能だ」



真面目なレッドサム伯。

前王モーレイ八世が真面目な王で、レッドサム伯は真面目な臣下だった。

結婚もせず、ひたすら王と国に尽くしていた。

ウィルが王になってからも、真面目で几帳面で己の職務を全うしていたはずだ。


その彼が、わたしを陥れようとした?


そうだ、彼はわたしのことを疎ましく思っていた。

保守派の彼からしたら、男爵家から王妃が出るのは忌々しかったのだ。



「しかし彼がこのようなことをする動機が分からないですね。彼はウィリアム陛下によく尽くしております」

「動機、わたしは分かります。わたしの存在が動機です」



イアンの疑問に、わたしは答える。


どうして黒死病が広まったのかを探るため、グラナトに行くと決めたときのことを思い出す。

レッドサム伯に了解を得ようとしていたときに、彼が小さくぼやいたのだ。

「これだから国王には伯爵以上の家から娶ってほしかった、ウィリアム陛下は目が曇っているのではないか」と。


彼はわたしのことが認められなくて、わたしを貶めようとした。


それを話すと、ウィルの顔色が変わった。

当たり前だ。

王である自分の目が曇っていると、臣下から侮辱されたのだ。

わたしだってそんなことをウィルに言いたくはなかったけど、こちらも郷里の民を死なせてしまっているから、レッドサム伯を許すつもりはない。


それに、グラナトの民を殺したということは、王国の民を殺したということ。

王に仕える者として背信行為に他ならない。



「動機は分かりました。我が主人であるロジーナ様に対して許しがたい言動ですが、いずれ彼は相応しい罰を受けることでしょう。しかしなぜルテル夫人を修道院から助けたのです? 彼は夫人のことを好いていたとは到底思えないのですが」

「救ったわけじゃない。駒にしただけだ」

「まあ、駒ですか。彼は頭がキレて枢密院議長として申し分ないとお父様が申しておりましたが、ロジーナ様の宝石を夫人に持たせたのは失敗でしたわね。夫人の話に信憑性は出ますが、宝石を手に入れられる人物が限られて、すぐにご自分だと明らかになってしまうでしょうに」



ルイーズの意見は尤もだ。

あの宝石がなければ、ルテル夫人とミモザ商会だけを犯人だと思い、レッドサム伯は枢密院に置いたまま、わたしへの嫌がらせが続いていたかもしれない。

民の命を奪う嫌がらせが。



「レッドサム伯とルテル夫人及びミモザ商会が繋がっている証拠と、黒死病の病原菌をどこから手に入れたのかルートを探らせよう。確たる証拠を得られるまで、このまま泳がせる」

「分かりました。人員の手配を致します」




「トイレのお姫様=男爵令嬢ロジーナ」の評価が高まるようにウィルが噂を作りだしていたのを、わたしは薄々気づいていた。

それに胡坐をかかないように、出来ることはやってきた。

救貧院の子どもたちが家事使用人や職人の仕事を得られるように職業訓練カリキュラムを作ったし、身寄りのない年老いたかつての使用人たちのための養老院や、低所得者向けのアパートメントを作ったし、動物虐待を禁止する法案も出した。

レッドサム伯にとっては、そのようなこと、どうでもよかったのだろうけれど。



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