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37.トイレの王妃様に向けられる悪意

あけましておめでとうございます!



海辺の村へ行った翌日、海辺の村の隣の村へ行った。

その村のまとめ役のゾックおじさんには正体がバレて、おじさんの家へ通された。

そこでゾックおじさんから見せられたのが、ペリドットの首飾りだった。


王城のわたしの寝室の抽斗からなくなっていた、ペリドットの首飾り。


ゾックおじさんは驚くわたしたちに、ハンナさんと同じようなことを言っていた。

その中で新しい情報は、次のようなものだった。


数年前に横領をでっちあげられて王都を追放されたが、実はそれは当時男爵令嬢だった王妃がやっていたことで、ルテル夫人はその罪を被せられた。

王妃からは権力を笠に脅されつづけていて、この地に黒死病をバラまけば、見返りに王妃から貴族に取り立ててもらえることになっていた。

さらに自分は黒死病だとは知らなかった、湿疹が出てすぐに治る病気だと思っていた。

死人まで出てしまって、申し訳がない。

王妃から命令されたという証拠に、王妃自身から渡された宝石を置いていく。

黒死病をばらまく報酬の一部として王妃に貰ったが、死人が出てしまってはこれ以上王妃の言いなりにはなれない。

ペリドットの首飾りは「王妃がやった証拠」だから、ゾックおじさんに保管していてほしい。


首飾りの石の台座の裏に「ロジーナ」と刻印されていることと、村の目利きが間違いなく本物の宝石だと言ったことで、村人たちにはルテル夫人の言っていることが真実だと受け止められた。

ゾックおじさんだけはルテル夫人の言っていることはおかしいと思ったけれど、ルテル夫人は観光客の少ない村で物を買っていってくれる貴重なお客さんだったから、村人たちはルテル夫人を信じこんでしまっているという。


首飾りはゾックおじさんに引き続き預かってもらうよう頼んだ。

ゾックおじさんに証言してもらうときに、おじさんの手から出してもらうほうが信憑性が高いだろうから。




ゾックおじさんの話から、ルテル夫人……元ティナム男爵夫人が、わたしへの私怨から今回の騒動を起こしたという線が強くなった。

けれど、貴族でもなくなったルテル夫人が、王城のわたしの部屋から宝石を盗めるだろうか。

彼女寄りの貴族らは、横領事件のときに彼女を見限っていた。

今更こんな危なっかしいことに手を貸すとは思えない。




***




一週間のグラナト滞在を終え、汽車で王都へ帰る。


グラナトで分かったのは、元ティナム男爵夫人と思しきルテル夫人が、「トイレの王妃様が黒死病をばらまいた」と言いふらしていたということだ。

商人として村々で取引し、ある程度の信頼を得た上で。

ペリドットの首飾りと同じく行方不明になっていたスピネルの耳飾りも別の村にあって、ルテル夫人が同じ話をして置いていったという。


村から村へ噂が広がって、初日に行ったカガネーにわいていた村でも、トイレの王妃様を糾弾する空気が出来上がっていたらしい。

これはカガネーを買いに出たミス・マレットの報告だ。


もしこの噂が王国中で信じられてしまえば、これが原因の「ロジーナ王妃、塔へ幽閉ルート」に入ってしまうかもしれない。

いやまさかそんなことを今のウィルが許すとは思えないけれど。

断じて止めなければ。




王城では、苦い顔をしたウィルが待ってくれていた。

ウィルの執務室で、王都組のウィルとイアン、グラナト組のわたしとルイーズ、四人揃って、報告会が始まった。

まずは王都組、ウィルからだ。



「元ティナム男爵夫人の所在だが、残念ながら修道院を出ていることが分かった。今は商人の妻として、ルテル夫人と名乗っていることも」



やっぱり。

ルテル夫人はティナム男爵夫人だったのだ。


イアン様が続いて報告してくれた。



「そもそも王命である修道院への幽閉が解かれることがおかしいのですが、修道院の院長は、『国王から書簡を頂戴し、そこに書いてある通りにした』と困惑しておりました。その書簡に、ウェスティリアの商会に平民として嫁ぐから、ミモザ商会のルテルという男が来たら夫人を引き渡すよう書いてあったのを、私がこの目で確認しました。間違いなく国王のものである封筒に便箋、インク、封蝋が使用されており、筆跡も、ウィリアム陛下のものと似ておりました」

「だが、私がそのような通達を出すわけがない。父上にも一応確認したが、在位中に修道院に通達を出したのは、ティナム男爵夫人の身柄を預けたときだけだそうだ」

「念のため、その時の書簡も確認しましたが、二つの書簡は確かに別々に存在しておりました」

「何より父上と私は使っているインクが違うのだが、私は院長に手紙や通達を出したことなど一度もないしな」



つまり、ウィルの、国王の書簡を偽造した、ということだ。



「ルテル夫人が個人的にやったことなら、そのような偽造工作は、できるわけがありませんわ。王城内に協力者が潜りこんでいるのは確実ですわね」

「実は、わたしの寝室の抽斗からなくなった宝石なのですが、グラナトのある村で見つかりました」

「それは……!」



イアンの目つきが鋭くなった。



「ルテル夫人が、王妃に命令されて黒死病をまき散らしたと告白したそうです。そして、王妃にやらされた証拠だとして、王妃に貰ったという宝石を村のまとめ役に渡したのだそうです」

「宝石が盗まれたのも、グラナトで黒死病が広まったのも、ロジーナ様に逆恨みしたルテル夫人の計画でしょうか」

「いや、ルテル夫人を裏で操っている誰かがいると考えたほうが自然だろう。修道院に幽閉している間に、夫人からは外部に連絡しようがない。夫人を利用している誰か、真犯人がいるはずだ」



四人とも黙ってしまった。


ルテル夫人の協力者が、この王城内にいるのは間違いない。

ウィルの執務室とわたしの寝室の、どちらにも出入りできる人物。

でも、王妃であるわたしなら、両方自由に出入りできる。

ルテル夫人や夫人を操っている人物は、なるほど確かにわたしが黒幕でもおかしくはないように状況を整えている。


わたしを、陥れようとしている。



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