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28.トイレのお姫様は王妃になった1



思えば遠くへ来たもんだ……。

ものすごくふわふわの羽毛布団にくるまって、起きぬけのごろごろを楽しむ。


そりゃあもう、いろいろあったものよ。

諸侯貴族の反発がものすごかった。

ゆくゆくは王妃になるだろう第一王子妃は田舎男爵の娘には務まらない、と主張する貴族たちに、王城内外でいじめられたり、貴族が雇ったやつに誘拐されたり殺されそうになったりした。

それでも無事にウィリアム殿下の伴侶となれるのは、ひとえに殿下が守ってくださったからだ。

貴族会議の場で、殿下が御自ら宣言してくださった。

「ロジーナ・デュランブは自動水流洗浄トイレの発案で流行り病から多くの命を救い、慈善事業への取り組みも群を抜いている。王妃の役目なら十分に果たせる。何より私がロジーナ嬢を愛しているのだ」と。

一国の王子にあんなに愛を叫ばれて、ときめかない女がいるだろうか。いや、いない。


来年の春、ウィルが十九歳、わたしが十八歳になってから、各国の方々をお呼びしての結婚披露をする。

冬は雪で道が悪くなるから、春を待っているのだ。

婚約者という立場の今、わたしは王城の一室、ウィリアム殿下……ウィルの寝室のすぐ近くに部屋をもらい、花嫁修業として王族生活チャレンジ中。




「おはようございます。ロジーナ殿下、お茶をお持ちしました」



ルイーズがティーポットとカップを運んでくる。

朝のお茶の時間だ。

そう、このルイーズともひと悶着あったわ。



「まさかルイーズが伯爵家のご令嬢だったなんて……」

「いやですわ、殿下。出会ったときから私は殿下の侍女です、出会ったときから」

「出会ったとき、わたしは男爵の娘。そしてルイーズは伯爵の娘。わたし、知らなかったとはいえ、ルイーズにものすごく失礼なことをしてしまっていたのではないかと、申し訳なくて」



ウィルと正式に婚約する前日、ルイーズが伯爵家の三女であることを知った。

まず、伯爵家の娘さんをあんな田舎に寄こすなんて、ウィルは何考えてるんだ、かわいそうだろ、と思った。

次に、わたし自分より身分が上の人を侍女にしていたのか、と寒気がした。

それから、ルイーズに何から何まで申し訳なくなった。

グラナトに来なければルイーズは、伯爵家のご令嬢として王都で結婚相手を探し、わたしより早く結婚して裕福に幸せに暮らしていたに違いないのだ。

もしかしたら、ルイーズがウィルと結婚して、誰もが憧れる王妃になっていたかもしれない。

わたしの存在がルイーズの人生を変えてしまった。

いくら謝っても謝り足りない。


だけどルイーズの、わたしに対しての献身は始めから疑いようがない。

今も淑やかに微笑んでいる。



「殿下はそう仰いますけど」

「殿下って呼ばれるのも申し訳ない」

「だってもうすぐ『アイオライト王国王太子妃ロジーナ殿下』ですし」



ウィルとわたしの婚約を機に、国王モーレイ八世の名の下に、正式に「第一王子ウィリアムが次期王である」と布告された。

そしてわたし、ロジーナに、そのときが来たら王妃の称号が与えられる、それまでの待遇も王族と等しくする、とも。


予想された反ロジーナ派の諸侯の反乱は、なんとひとつも起きなかった。

起きなかったというか、起こせなかったのだ。


もともと田舎娘のロジーナが王族に入って政に影響を与えるとしたら、平民出がほとんどの兵士たちの利益になる政策が出るのではないかと、全国の兵士たちがロジーナ派に回ってしまって、貴族が反乱を起こそうにも従う兵がいなかった。

それに、領主に逆らうなど今までは考えられなかっただろうが、ウィリアム殿下とわたしへの期待もあるのだろう、領主の謀反を密告してくれる領民がめっちゃいた。

王家に反旗を翻そうとすれば事前に兵を集めなければならない。

それも王家に勝る錬度と人数を揃えなければいけないのだから、領内あますところなく募集の告知がなされた。

その告知を見て怪しいと感じた領民が、領主を通さずに王家に申し出てきてくれたのだ。


これは全国各地の道路の整備が進んで、一般庶民でも移動するのが楽になったからでもある。

自分の村や町から出るには山や谷や川を獣道を歩いていかなければならなかったのが、乗合い馬車や鉄道のおかげで、数年前とは比べ物にならないくらい移動が容易になった。

おかげで各地の様子が王都でも把握しやすくなったのだ。


領主の謀反を未然に防げたのは、民のおかげ。

あのとき領主に従って反乱を起こしておけばよかった、王家を倒していればよかった、と思われないように、気を引き締めていかないとね。


顔も知らない無数の国民のことを想う。

同時に、目の前にいるルイーズにも、出来得る限りその献身に報いたいと思う。



だから今日、わたし主催のお茶会に、王室騎士団中尉のイアン・カーライル様を招待している。

ルイーズには内緒で。


ルイーズとイアン様が時々、二人で街のカフェで落ち合っていると、ウィルが教えてくれた。

それはまったくのお忍びデートらしい。

たまにルイーズが午後休を申し出てくるから不思議だったのだけど、デート!


ルイーズはイアン様が好きなんだろうなと前から思ってたのよ。

ルイーズもイアン様も二人とも、誰かと婚約するそぶりもないし、絶対両思いだと思ってた。

やっぱりね!


わたしはウィルとの結婚間近でこれ以上ないってくらい幸せだけど、ルイーズの幸せを見るのも、胸がほくほくして、幸せが倍になる。


もしルイーズが望むのなら、ルイーズはイアン様と結婚してもいいと、イザベル・アンヌ王妃陛下からも言質を取っている。

そして王妃陛下ご自身も出席することを引き換えに、今日のお茶会のために、肥えた肖像画の横のホールを貸してくださった。

……王妃陛下のために、お出しするお菓子の種類がめちゃくちゃ増えて、予定していたよりだいぶ豪勢なテーブルになった。



まあそんなわけで、今日のお茶会は、伯爵家の出だと黙っていたルイーズへの、ちょっとした仕返しよ!



「楽しみだわ!」



わたしが大きく伸びをして立ちあがると、何も知らないルイーズも嬉しそうにドレスの用意を始めた。





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