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14.いつか王妃になる田舎男爵令嬢誘拐事件




誘拐されたのは夢で、目が覚めると自分の部屋にいて、ルイーズがお茶をいれる香りがして、王都へ向かう準備をする……。

いやいや、もしかしたらもっと前から夢をみていたのかもしれない。

ルイーズの美しいカーテシーを見たところからとか、ミス・マレットの厳しい授業をまだ数日しか受けていないところからとか、騎士団の小隊がやってきて屋敷が騒がしくなったところからとか、殿下から婚約の手紙を頂いたところからとか、あるいは、グラナト領に陛下と殿下が視察にきたところから……。


あれもこれも、ぜんぶ夢だったのかもしれない。

目が覚めたら妹と同じ部屋で、二人で木綿のドレスを着せあって、弟たちを叱りながら朝食を取る。

母が畑をいじるのをわたしも手伝って、お昼からは父が捕ってきた魚か獣を干物にするのを手伝って、シェネビ川に走っていって水浴びをして、メインが肉か魚だけのディナー。

今日と同じ日があしたもあさっても続いていく。

そんな現実が、あったはずなのだ。






「静かだな。死んでんじゃねーだろうな」

「息はしてるよ。それに吸わせたのは死なない量だし」

「子どもには多かったんじゃねーの?」

「ちゃんと量ったよ。まあ、顔を見られたら困るから多めにはしといたけど」

「ボスには生きて返せって言われただろ」

「顔見られたりここがどこか覚られないようにしてるだけだよ。エーテル吸って寝ててもらうのが一番いい」

「これ後遺症出るって言ってなかったか?」

「運が悪ければね。『トイレの姫』って運よさそうだから大丈夫でしょ」





現実……。

それは男二人の声がして、わたしは確かに誘拐されていて、上半身にぐるぐる縄が巻かれている状態のことだ。


夢じゃなかった!

くそ!


ていうか後遺症!?

丁重にもてなすとか言ってなかったか!?

後遺症なんて残ったらただじゃおかんぞ!?

わたしはこれからも生きてかなきゃいけないんだからね!?




とりあえず気を失っているふりをしておく。

なぜ自分がこうなっているのか情報が欲しい。


たぶん誘拐犯の一人は子どもだ。

もう一人もまだ青年のような声をしている。

若い身空で何をやっとるんだね、君たちは。



吸ってしまった何かのせいで、頭がずきんずきんと痛む。





「おい、うまくいったか?」


荒々しい足音がやってきた。


「あ、ボス、おかえりなさいませ」

「うまくいったのか?」

「はい、意識を失ってますが、生きたままです。身代金の要求状はすでに出しました」

「どれ、拝ませてもらおうか。王妃になると噂の、グラナト男爵令嬢サマを」



ボスと呼ばれたその男の声を、わたしは聞いたことがある。

この声は……。



「隣の領同士だってのに、片や爵位もなく貧乏なまま。片や変人の娘の思いつきが王子の目に留まって王妃を出すかって男爵の家。いくらか用立ててもらってもまだ不公平じゃねーか」



ガラナト領の領主エド・リッジ。

グラナト領の二倍近い広さのガラナト領を治めていて、領民にものすごく重い税を課していると聞く。


ただでさえうちと同じくらい田舎なのに、重税で民の負担はグラナトの数倍。

隣り合ったうちの領に夜逃げしてきた民によれば、取りたてた税は領主家族の贅沢に使っているらしい。

反乱が起きては傭兵に鎮圧されていると、うちの村に逃げこんできたおじいさんとおばあさんが言ってたわね。


ルイーズが言ってた「民を顧みない贅沢をして嫌われている貴族」のようなことをしている奴は、爵位を持たない田舎領主にもいたのだ。



ぐい、と体を転がされる。


「よし、間違いなくグラントのロジーナ嬢だ。薬を切らすなよ」



身代金目的の誘拐。

よもやわたしがその対象となるとは。



ていうか王妃になるかもって人間誘拐しといて無事に済むなんてほんとに思ってんの!?

馬鹿なの? 死ぬの?

いやマジで、王子の婚約者誘拐したら死罪になるよ。

命大事にしようよ。




エド・リッジがダミ声で笑いながら部屋を出ていく。



「……身代金、いくらにしたんだ?」

「俺らの晩飯が人生五千回分食えるくらいかな」

「全然わからん」

「この領で二十年は飢え死にがでないくらい」

「そんな金貨運べないだろ」

「うん。リッジって馬鹿だなって」


わたしをさらった実行犯二人の会話を聞いていると、誘拐事件を起こしているとは思えないほど落ち着いている。

二人とも無理だと分かっていながらこの誘拐事件に関わっているようだ。

そしてわたしと同じ、リッジを馬鹿にしている。


どうにかこの二人に談判して、家に帰してもらえたらなあ……。

でも起きてるって知られたら殺されるかなあ。




どうしたものかと、気絶したふりをしたまま逡巡していたら。





「突入ー!!!」





イアン様の号令とともに、部屋の扉から騎士たちが飛びこんできた。

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