12.いつか王妃になる田舎男爵の令嬢とエメラルド
さて、やってこられたイアン様は、一年前に拝見したときより大人っぽく……なっていなかった。
変わっていない。
背も伸びて他の騎士の方たちと変わらない体格になっているけれど、顔は……顔だけは……前のまんまだった。
「ルイーズ、イアン様のお父様は童顔ではなかったわよね……?」
「ええ、私がお顔を存じ上げる限り、お父様もお母様も、妹君たちも、お祖父様もお祖母様も、皆様どちらかというと老け……、ご年齢より威厳のあるタイプですね」
晩餐のあと、イヴニングドレスを脱いで夜着に着替えながら、ひそひそ話をする。
「何というか、一番幼く見える男性がものすごくいかつい騎士たちを率いているのは、小型犬のパピヨンがハウンドとかスパニエルとかセターとかの大型犬を率いているようで……」
「それ、ご本人には言えませんね」
「言ったら剣を向けられそうね」
「でも肩の形や全身の筋肉のつき方などはお父様とそっくりですから、きっととてもお強いはずですよ」
「あら、そこまで見ていたの。ルイーズ、もしかしてイアン様のこと好いているのかしら」
「そっ、そんな恐れ多いこと!」
王都ではルイーズとこういう話、できるかしら。
殿下の婚約者たる令嬢として、ちょっと難しいかな。
自分以外の恋の話ならいいけれど、こういうのって簡単に噂話になっちゃうのよね。
あることないことないまぜにして、おもしろおかしく、ね。
そういうので無意味なヘイトを買わないように、慎まなくちゃいけないわ。
ルイーズが夜着の綿ドレスのリボンを結んでくれる。
「私のことはいいんです。それよりもカーライル卿、お嬢様の首飾りを見てはっとしてましたね」
「え、気づかなかったわ」
「あれほど素晴らしい宝石を贈られたことに殿下の本気が見えて、カーライル卿、ぎょっとされたんですよ」
「確かに、わたしでもあのエメラルドは一級品だとわかるものね。イアン様なら王都で見慣れていると思っていたけど、ルイーズが分かってしまうような驚き方をしたなんて」
やっぱりあのエメラルドは誰が見ても素晴らしいものなのねえ。
のほほんと、恙なく晩餐が終わったことにほっとしていたら、何か、こう、ひっかかっている。
大きなエメラルド……
ロジーナ王妃のティアラは確か……
世界でも貴重な緑の宝石、その中でも有数の大きさのものを用いたティアラ。
八角形の緑の宝石を中心にダイヤモンドと真珠が囲み、両側それぞれに雫型の同じ緑の石が揺れる。
アイオライト王国の王妃は、代々そのエメラルドのティアラを継承しているのだ。
と、主人公ソフィーと王太子ユアンが結婚式をするあたりで説明があった気がする。
ソフィーの結婚式のときは、ソフィーがまだ王妃じゃないからそのティアラではなくて、同じ緑系のペリドットとダイヤモンドの冠だったけれど。
そしてロジーナ王妃は、ソフィーの結婚式のときはもちろん、幽閉されるまではそのエメラルドのティアラをつけていた。
わたしが贈られた首飾りの宝石は、エメラルド。
つまり、王妃の象徴たる宝石。
「どうなされました、お嬢様!?」
ぐらっと後ろに倒れそうになるわたしの背を、ルイーズが支えてくれた。
「え、エメラルドって……」
「え、はい」
「エメラルドって王妃の宝石じゃないの!」
「はい」
淡々とベッドに寝かされる。
「ルイーズは知ってたのね!?」
「はい。カーライル卿に見せつけてやりましたね!」
いつにもまして完璧な笑顔で、やりきった感出しまくっているルイーズ。
もしかして、イアン様にはわたしがもう王妃なるぜオラって見えたりした!?
野心丸出しで身の程知らずもいいところに王妃になる気満々なヤな奴って思われたりした!?
顔色がなくなっただろうわたしに、
「卿のあのご反応、きっとご存知ありませんでしたわね、殿下がお嬢様にエメラルドの贈り物をなさったこと。お嬢様の首飾りは王妃陛下の冠のものよりは小ぶりですが、ウィリアム殿下のお心を示すには十分ですもの。卿も殿下の本気が分かり、護衛にも精が出るというものです」
ルイーズは楽しそうだ。
いや、楽しそうというより、嬉しそう。
ルイーズは物心ついてから王都が長かったらしいから、王都に戻るのが嬉しいんだろうな。
しかし、イアン様はそんな前向きに捉えてくださっているだろうか。
護衛に精が出るとか、そんないい感じに捉えてくだってるだろうか。
まさかこんなとこでヘイトを買うかもとは思っていなかった。
もうすぐ王都に行くのだけど……。
どうかどうか、幽閉エンドにはなりませんように……!




