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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ろくでなしの浪人は恩人である少女のため、人を殺す

作者: どじょっち

「……腹減った。どっかに食いもんは落ちてねえのか?」


 人気の少ない街道を一人の男が歩いていた。

 手入れされず、ぼさぼさな髪。何日着ているかわからない悪臭のする着物。手入れされたものと言えば腰に差した刀ぐらいだろうか。空腹のため鳴り続けている腹を抑えながら、今にも倒れそうだった。

 

 この男の名は五郎。酒、金、女が何より好きな浪人だ。

 定職に就かず、家もないのに日々だらだらと過ごす彼を、誰もが「ろくでなし」と蔑んだ。


 先ほどまで賭博場にいたのだが大敗を重ね、有り金をすべて失ってしまい、食べ物を求めて歩き回っていたのだ。


 向かいから来る人に話しかけようとしてはいるのだが、このような身なりから相手にされない。

遂に限界を迎えた五郎は倒れてしまったのだが――


「大丈夫ですか⁉ しっかりしてください‼」


 僅かに開いた目に映ったのは赤髪の少女だった。



 五郎は近くの町にあった少女の家に連れていかれた。

 家具もほとんど置かれていない質素な部屋。ここに来るまでに両親に捨てられたと語っており、娯楽どころか日々の生活もままならないのだろう。そんな少女が――


「どうぞ、ご飯を食べてください」


 笑顔でごはんを五郎に出している。


「……あんたの食いもんは?」

「私はいいんです。おなかすいてませんから」

「……なら、遠慮なくいただく」


 五郎は手を合わせ、用意されたご飯を瞬く間に胃袋に収めた。


「この恩は必ず返す」

「そんな、恩だなんて。困っていたら助けるのは当然ですよ」

「……そうだな。そういやあんたの名は?」

(けい)と申します」

「いい名だ」



 次の日から五郎と恵は一緒に暮らすことになった。一度は断ったのだが、身寄りのない五郎を憐れんだ恵の説得に根負けしたのだ。

そのため五郎は真面目に働き始めた。日雇いの安い仕事をこなし、稼いだ金は全て恵に渡した。


「まともに金を稼いだなんて生まれて初めてだ。そいつはあんたに使ってほしい」

「そんな……受け取れません。別に私は見返りを求めて貴方を助けたわけでは――」

「あんたがそういう人間なのはわかってる。だが、こっちにも面子(めんつ)ってのがあるんだ。俺のことを思ってくれているなら受け取ってくれ」

「……わかりました。今日のご飯は少し豪華にしましょう」

「ああ、そうしてくれ」


 そんな日々が何日も続き、季節が巡る。

 その中で五郎は少しずつ恵に惹かれていたのだが、彼女にはすでに恋人がいた。多額の借金を返済してくれた恩人であり、多忙のため滅多に会えないらしい。


「恵は……そいつを愛しているのか?」

「……あの人は私の恩人です。……愛している……はずです」


 恵は笑顔でそう語る。

しかし、五郎は彼女の体に刻まれた多数の傷に気づいていた。



「帰ったぞ……ッ! どうした⁉」


 ある日五郎が家に戻ると、恵が蹲っていた。

すぐに駆け寄り、抱きかかえる。口から血を垂らし、顔には痛々しい殴打痕がいくつも残っていた。


「五郎さん……」

「何があった?」

「彼が……ここに来て……」

「前に言ってた恋人か」


 震えながら恵は頷く。ひとまず服で血を拭き取り、布団に寝かせることにした。


「私が貴方を住まわせていることが気に入らなかったのか……何度も怒鳴られ、殴られました。ここまで殴られたのは初めてです…………貴方が殺し屋だったことも聞きました」


 その言葉に五郎は目をつぶる。

 

「貴方を助けさえしなければ……」


 恵は咄嗟に口を押えるが、五郎は首を横に振るだけだった。


「あんたは悪くねえ。そう思うのも仕方ねえことだ。……今から医者を呼んでくる。そしたらお別れだ」


 五郎は今日稼いできた金を置き、医者の元へ向かおうとする。


「待って!」


 起き上がった恵が上着の裾を掴む。手はか弱く震えており、簡単に振り払えそうだったが、五郎は動けなかった。


「貴方を助けなかったらよかった……そう思ってしまったのも事実です。ですが、すぐにそんな思いは消えました。貴方と暮らすうちに芽生えた……この想いに殺し屋なんて関係ありません」


 そう言うと恵は五郎に抱き着く。


「私は貴方を愛しています。お願いです……1日……今日だけでいいんです。私を……愛してくれませんか?」



 誰もが寝静まった夜明け前。

 五郎は全ての準備を終えていた。服は整えられ、刀も手入れが済んでいる。後はこの家を出るだけだった。

 戸を開ける前に後ろに振り返る。布団の中で恵がすやすやと寝息を立てていた。


「……世話になった」


 五郎は深く頭を下げ、音も立てずに家を後にした。

 

 

 そこは巨大な屋敷だった。

 五郎は駆け、向かってくる男たちを次々と愛刀で切り伏せていく。

 そして、ひと際派手な戸を蹴り破り、部屋に入った。


「お前が五郎ってやつか。こんな朝っぱらから一人で殴り込んでくるとはいい度胸だな」


 家具一つ置かれていない質素な部屋。そこにいたのは煙管をくわえた、白髪の若い男性。飄々としているが目つきは鋭く、誰も近づかせない雰囲気を醸し出している。


「俺がここの主、(じん)って言うんだが、一体何の用だ――って聞くまでもねえか。俺が恋人をどうしようがお前には関係ないだろ?」

「恩人を見捨てるつもりはない。お前がありもしない借金返済の恩義を押し付けていることも知っている」

「へえ、ならあいつの両親を俺がぶっ殺したことも?」

「ああ、聞くに堪えなかったがな」

「くふっ、お前がそれを口するのか。殺し屋の五郎さんよお?」


 五郎の呪われた過去。金を貰い、多くの命をその手で奪った。


「こっちも色々調べさせてもらったよ。引退したって聞いてたが復業ってやつか? 大変なこったなあ、やっぱ殺しの快感が忘れられないんだろ?」

「黙れ」

「だが、気持ちはわかるぜ。俺もこの地位に着くまで何人もぶっ殺した。欲しいものはどんな手段を使ってでも手に入れてえもんな」

「黙れと言っている!」


 五郎は切りかかるが、刃はどこからともなく小刀を取り出し軽く受け止める。


「こんなもんかよ元殺し屋。酒、金、女に溺れるうちに腕が腐ったか? 見るに堪えねえな」


刃は五郎を蹴り飛ばし、壁に激突させる。五郎は吐血しながら倒れてしまった。


「さっきの話の続きだが、俺は恵が欲しかった。一目惚れってやつだな。だからよお、まずは邪魔な両親を殺した。次にありもしない借金請求に部下を向かわせ、その窮地を俺が助ける。そうすることであいつを縛り付けてやったのさ」


 刃は小刀をぶらぶらさせながら五郎に近づく。


「俺は好きなものほど手元に置きたくねえんだ。たまに見るぐらいでちょうどいい。すぐ飽きてぶっ壊したくねえからな。だが、好きなもんに変な虫が付いてたらむかつくだろ? そう思うよなあ、ろくでなしの五郎さんよお!」


 刃は小刀を振り下ろすが、五郎は横に転がり、それを躱す。そしてすぐさま立ち上がり、小刀を弾き飛ばすが、何故かすでに刃の手元には別の小刀があった。


「暗器か」

「ご名答。こいつらを使ってむかつくやつをぶっ殺してきたんだ。……ところで、あいつはお前に依頼したのか? 俺を殺してくれって」

「……していない」

「なるほど、今のお前は殺し屋じゃなく殺人者ってわけだ。なら、腐ってて当然か」


 刃は小刀を五郎めがけて投げ捨てる。はじかれるが、それよって生じた一瞬の隙に五郎に迫り、心臓を貫こうとする。

 だが、五郎は横に飛び一撃を躱し、そのまま刃を蹴り飛ばす。くわえていた煙管が床に転がり、さっきとは逆に五郎が見下ろす側になった。


「人の地獄を食いもんにしてきたんだ。なら、てめえも地獄に落ちる覚悟ぐらいできてんだろ?」

「やってみろよ……クソの役にも立たねえ、ろくでなし野郎がっ‼」


 立ち上がりながらの一撃が五郎の首を狙うが当たらない。刃はもう一つ小刀を持ち、両手に構える。


「お前なんぞに、俺の女を奪われてたまるかああああっ!」

「ッ‼」

 

 何度も金属音が響き渡る。

 お互い、常人の目では捉えきれないほどの速さで切り合っているためか、腕の皮膚が裂け、血が噴き出している。切り傷の数も増え続け、いつ倒れても不思議ではないのだが、立ち続けるのは両者の意地だろうか。

 

「く……」


 疲れからか、遂に五郎が後ろに体勢を崩す。

 

「もらったああああ!」


 この隙を逃さないとばかりに刃は小刀を逆手に構え、振り下ろす。全力を込められた一撃を五郎は身を捻って躱し、刀を切り上げた。

 刃の両手が切断され、床に落ちる。絶叫と共に血が噴き出し、部屋が赤く染まっていく。

攻撃の手段を失った刃は最早成すすべなく、左肩から腰までを切り裂かれることになった。


「がはっ! ち……畜生……」


 そのまま体は二つ分かれ、動かなくなる。


「地獄で先に待ってな。俺がそっちに行ったらまた相手してやるよ。……だいぶ待たせることになるがな」


 煙管が火元となり、屋敷が業火に包まれていく。まるで、全てを地獄に誘うような激しい炎だった。



 大勢に混ざり、恵は燃える屋敷を眺めていた。

おそらく、刃は死んでしまったのだろう。そして、あの人もまた――。


 自然と涙があふれ出ていた。解放された喜びか、愛するものを失った悲しみなのか恵にはよくわからなかった。


 その時、恵はあの人の声を聴いた気がした。 


 恵は声がした方角に走った。多くの人にぶつかりながら、何度も転びながら必死に走った。

 

「…………ああ」


 そして、町から去りゆくあの人の背中を見つけた。


作りたいアニメはハードボイルドメロドラマ

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