2 夏の日
鮮やかな色彩の夢だった。そこではハムレットが英雄としてみなからの尊敬を集め、バッハの音楽を舞台として過去の偉人が鏡の間でまだ始まることもない世界を待っていた。まだ世界は人間を忠実なしもべとするには数が足りない。朝の七色の光が空から降り注ぎ、夢の黒い混淆した朝の記憶が聖なる春を人々に提示する。シャルリは起きた。そしてそれは昨日が終わったことを、残酷に知らしめたのかもしれない。昨日の始まりを、おとといの終わりとし、世界はいつに始まったのだろう。アルフレッドの死から何日がたったか、もう、わすれてしまった。そしてその日もまた、雨が降っていた。オルセアンでは夏になると雨がよく降る。反対に冬は渇き、雪はあまりふらない。雨だれの幻想的な音が静かにシャルリの心に染み入る。まだ黄金色の麦を刈る季節には早い。そして麦が熟成した季節になると刈るのだろう。まだ夏なのだ。6月の、夏の始まりにしては少し暑い日だった。その日はちょうどアルフレッドの誕生日だった。生きていたら20歳という、人生の節目だったのだろうか? シャルリはアルフレッドの部屋に行った。あのときの、あの思い出を、凛として、まだ壊すこともなく、そして汚すこともなく、あの日は止まったような、そんな感覚を覚えてならないのだ。まだアルフレッドが「兄さん。おはよう」という、そんないつもが消えることを、予感させる出来事なんて、なんもなかった。その日も、そして埋葬の日も、普通の日のはずだった。シャルリは貴族の家系に属していたから金銭的には割合裕福だった。親は熱心なカトリックの信徒だったけれど、シャルリとアルフレッドはあまり信仰心は篤くなかった。ただ、聖書は持っていて、旧約聖書に収められているダビデが作った詩編を読むこともあった。それに主題と伴奏をつけてアルフレッドが作り、アルフレッドがヴァイオリンを、シャルリがピアノを弾くことが、時折合った。お互いにあまり上手ではなかったけれど、それでもよかった。そしてそれはもうかなわないのだ。




