第七話 最高の選択 -後編-
前話は、商談を始める直前に終わりましたね。
今回は、商談が終わった後の話から始まります。
(時系列的にその方がスッキリするし、無駄に話が長くなってしまうので、商談のシーンはカットしました。)
それでは、第七話後編、お楽しみください。
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2019/9/7 P.M.04:00
商談は、無事に終わった。
清水からは、社長としてのどうのこうの、と言われたが、俺はいつも通りNoとしか言わなかった。
先方からは、最高の選択を。と言われた。
「うるさい。こっちはお断りなんだよ。」と、言ってやりたかった。
「ただいまー。」
一人暮らしで嫁さんも子どももいない俺は、誰に向かって言っているのかよくわからない挨拶をしてから、速攻でウィルスの元へと向かう。
俺の人生において、結婚のチャンスだってなかったわけではない。ただ、したくなかったのだ。
と、言い訳をしてみる。
「遅くなってごめんな。...あれ、少し大きくなった?」
そう言いながら、俺はウィルスに餌を与える。
「なんか、ウィルスウィルスって言ってると物騒だな...。名前とかつけたほうがいいのかな。」
俺は早速、7INEのグループトークで、薄羽と扇に話しかける。
主「ねぇねぇ、ウィルスに名前つけない?」
働いている人にとって、この時間はまだまだ勤務時間。さすがに返事は来ないかな、と文章を打ってから気づく。
扇「いいですね、大賛成です」
思いの外、扇からはすぐに返事が来た。
主「薄羽はまだ仕事中かな?夜三人一緒に話せる時に決めようか」
扇「うぅ、夜が待ち遠しい...」
扇は、ウィルスが気に入ったようだ。薄羽の家で、彼らにウィルスをお披露目した時のことを思い出す。
「そういえば、一番はしゃいでたっけなぁ、扇は。」
それに比べて、薄羽は若干引き気味ではあったが。
「もう、ミスはできないね。二人に迷惑をかけちゃいけないしね。」
彼らは、俺の計画を手伝ってくれているんだ。何があっても、迷惑をかけるようなことをしてはいけない。
「あ、お腹すいたな。今日のご飯どうしようかな。」
ふと、薄羽のパスタの味を思い出す。
「あ、パスタ...作ってみようかな...。」
技術的に無理があるだろう。と思うと、コンビニ弁当でいいや、という気にもなってくる。
「あぁ、チンしたてのオムライス弁当...。」
これだって俺にとっては人生の選択だ。
1日の最後に食べるご飯を何にするか。
もしかしたら、それが人生で最後に口にするものになるかもしれない。
俺はいつ死ぬのか分かったり分からなかったり、の人間だから。
「うーん、両方食べれば問題ない気がしてきた。」
なんて言ってると、携帯に電話がかかってきた。
どうやら、薄羽からのようだった。
主「はい、もしもしー?」
翔「今、暇か?」
主「今からご飯にしようと思ってたんだけど...。あ、薄羽も一緒に食べる?」
翔「何食うのかにもよるが...そうだ、最初に会ったときに、みんなで喫茶店行ったじゃないか。あのときのコーヒー代、まだ払ってなかっただろう?」
主「あぁ、あんなの気にしなくていいよ。二人が手伝ってくれてるんだしさ。」
翔「...?まぁ、あれだ...。き、聞き忘れたことがあったんだ。会って話したい。飯行くなら、俺が奢るからよ。」
主「え?マジですか?それじゃ、扇にも連絡を...。」
翔「それは後でいい。呼ぶのはいいが、それは俺との話が終わった後だ。」
主「あ、そう?じゃあ、どこかに食べに行くか。家まで迎えに行くよ。」
翔「わかった。ありがとう。じゃあな。」
ここで通話は終わった。
薄羽の方から連絡が来たのは、確かこれが初めてだ。
扇には聞かれたくない内容の話なのかと思うと、少し気になった。
「さぁて、薄羽の家に向かう準備をしなくてはね。」
とりあえず、スーツから私服に着替え、持ち物を整理した。
帰りにゲーセンへ寄る気でいたから、百円玉を少し財布に入れておいた。
「どこのお店にしようかな...。」
メイド喫茶のことは、すっかり忘れていた。
「扇も後で呼ぶんだし、ファミレスみたいなところがいいかな。」
車のキーを取り、玄関へ向かう。
「何食べようかな...。チャーハンかな?」
オムライスのことも、すっかり忘れていた。
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薄羽の家に到着すると、薄羽はすでに家の前で立っていた。
「やぁ。助手席でいいかい?」
「あぁ、構わん。」
薄羽は、紺のジーンズに、黒の少し厚めのタンクトップを着ていた。
さらに、眼鏡にネックレス、ネックレスは、女性にも人気がある有名なブランド品のものであった。
自分から見たら、かなりオシャレで、輝いて見えた。
「どこか行きたいお店とかある?」
「パスタの店以外だったら、どこでも構わんよ。」
「じゃあ、ファミレスでいいかな?」
「了解した。」
そうして俺は、車を走らせる。
「パスタ、好きなんじゃないの?」
彼が大のパスタ好き、ということは、前にパスタをご馳走になったときに聞いた。
「あぁ、大好きだが、それがどうした?」
「なんでパスタの店は嫌なのかな、って思ったんだけど。」
「あぁ、俺がパスタの店以外だったら、って言った理由か?えっとな、あんまりそこらへんの店のパスタの味に影響を受けたくないっていうか...。」
「自分の味...的な?」
「そうだ。俺は、俺の出したい味を、出したいんだ。」
「レシピ通りに作れば作れるんじゃないの?」
「細かいことは嫌いでよ。レシピ通りに正確な分量で調味料を...とか、考えただけでだるくなってくるわ。慣れると、だいたいこんなもんかなー、って感じで、好きな味を出せるようになるもんよ。」
「なんかすごいな。それで、あんまり影響を受けたくないんだ?」
「そうそう。パスタの店のパスタとか、美味いに決まってんだろ。食ってみたい気がしないでもないが、それでも俺は俺の味を大事にしたいもんでよ。」
なかなかこだわりの強い奴だな、と思った。
彼なら、一年中パスタを食べても飽きないんだろう。
「さすがに一年中パスタだけ食って生活しろ、と言われたら飽きるかもしれないけどな。」
「あ、飽きるのかよ...。」
飽きないんだろう。と思った瞬間の出来事だった。
「車に乗ってからパスタの話しかしてないや。」
「確かにそうだな。んじゃあ、FXの話でもするか?」
「もっとなんかこう、好きなアイドル、とか、昨日見たテレビ、とか、ちょっとした出来事、とか、そういうのない?」
「うーん、あ、そうそう。俺が最近ハマってるテレビドラマなんだけどよ...。」
ファミレスに着くまで、彼のテレビドラマ談義は終わらなかった。
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ファミレスに到着した。俺は、薄羽に話を振る。
「そういえば、もうそろそろ扇を呼んでもいいんじゃないかな?」
「あぁ、そうだな。」
時刻は午後6時。一般家庭なら、夕食を食べていてもおかしくない時間帯に入ろうとしていた。
「ご飯を作り始める前に、呼んじゃわないと...。」
そう思って、俺は扇に電話をかける。
扇は、すぐに電話に出た。
主「あ、もしもし扇?今日さ、三人でご飯なんてどうかなーって思って電話したんだけど...。」
扇「いいですね。じゃあ、これから向かいます。場所はどこですか?」
主「えっとね、俺たちが最初に行った喫茶店の近くのファミレス。」
扇「あぁ、あそこですか。分かりました。では、後ほど。」
ここで、通話は終わった。
「そういえばよ、7INEでウィルスに名前をつけるだの、なんだのって言ってただろ?あれ、ここで話し合わないか?」
薄羽からの提案だった。
「まぁ、扇もそれで問題ないだろうし...それでいいんじゃないかな。」
扇が来る前に、先に入店しておく。薄羽から話があるみたいだし。
「さて、扇が来る前に話とやらを始めますか。」
「あぁ、わかった。」
店内に入店して、店員にテンプレートな出迎えをされた後、席に誘導された。
「それで、いったいどのようなご用件で?」
「あのよ、実は聞きたいこととかっていうか、相談なんだけどよ。」
「ん、なんだ、相談か。また質問攻めにあうのかと、内心ヒヤヒヤしていたよ。」
ヒヤヒヤしていたのは本当だ。
「なんだとはなんだ。実はよ、扇のことなんだけどよ...。」
「扇がどうかしたの?」
「からかうなよ。あのよ、あいつにプレゼントを買ってやりてぇんだがよ、女の子のことってあんまりよくわからなくてさ。」
「プレゼント選び?ふーん、ほほう。どんなものをプレゼントしたいの?」
俺は、あえて何でプレゼントしたいのか聞かなかった。
気を遣ったつもりではあるが、彼は一体何を考えているのだろうか。
「できれば、形に残るものがいいんだ。食べ物とかじゃないやつな。花...も、ちょっと違うな。必然的にアクセサリーとか服とかそっち系になるんだろうけどよ。」
「服とかはサイズが分からないし、それならアクセサリーでいいんじゃないかな?」
「そうか。服がいいと思ってたんだけどな、言われてみれば確かにその通りだな。そんじゃ、ブレスレットで決まりかな。」
「決めるの早いね。俺が出る幕あった...?」
「服って選択肢を消してくれた。」
「それでいいのか?」
「いいんだよ。」
「そ、そうか。」
「おう。」
あっけなく終わったプレゼント選びだった。
なんでブレスレット?ってところには触れなかった。
「あ、あともう一つ。お前、死ぬのは怖くないのか?」
結局聞きたいこともあったんじゃないか。と思ったが、素直に質問に答えることにした。
「怖くないよ。だって、何をどうやっても、死からだけは逃れることができない。みんな同じだろ?」
「それなら構わない。ただよ、俺、思ったんだけどよ。」
彼の眉間にしわが寄る。
あまり話したくない内容なのかな?
「計画が成功して、お前がいなくなったあとの世界で、取り残された俺ら二人は、何をしたらいい?」
「え?」
特に考えたことがなかったし、すぐに答えが浮かばなかった。
「まぁ、この前みたいにすぐに答えてくれなくてもいいから、さ。きっと何かやるべきことがあるんだろう?」
「あ、あぁ。」
そういえば、俺は死んでもいいと思ってるけど、俺が死んだあとの彼らのことは考えたことがなかった。
というか、考える気にもなったことがなかった。
それは自分勝手とかそういう話じゃなく、あくまで俺と彼らは他人だ。当たり前の話だ。
だから、俺が死のうと、彼らは普通に生きていけばいいし、気にやむ必要もない。
彼らにとって、俺の存在がどういうものなのかは知らないが、はたしてどういう意図を持ってこの質問をしてきたのだろうか。
いや、そういう話じゃない。俺は、勝手に死んで、彼らはほったらかし...?
思考が錯綜していた。
「お二人とも、こんばんは。」
「よぉ。」
「こんばんは。まぁ、座って。」
俺がそういうと、扇は薄羽の横に座った。
さっき、薄羽は扇にプレゼントをしたいと言っていたが、扇のことが好きなのだろうか?
と、思っていたが、そうでもないらしい。
薄羽は特に表情を変えることなく、さっきと変わらない姿勢で座っている。
プレゼントのことといい、質問の内容といい、わからないことがたくさんだ。
「とりあえず、何か食べたいな。」
「あぁ、さっさと注文してしまおうぜ。」
「私、今日はちょっとたくさん食べたいな...。」
まずはさっきまでの話を忘れて、食事を楽しむとしよう。
せっかくの楽しい時間だ。
楽しまなきゃ損だ。
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食事を終えて、会計を済ませた薄羽。時刻は午後7時30分。
もう、ゲーセンに行く気も薄れていた。
「あ、忘れてた。ウィルスの名前、話し合うんだっけ。」
「それなら、私がもう考えておきました!」
話が早くて助かる。薄羽も少しは興味があるようだ。
「アイダのア、カケルのケ、ミチルのチ...で、アケチなんてどうでしょう!?」
アケチ。戦国武将にそんな人がいたなー、と思ったが、なかなか気に入った。
「三人の名前から取ったのか。まぁ、別にいいんじゃないか?」
「アケチって名字みたいだな...でも、呼びやすいし、いいか。」
二人とも名前の方を取っているのに、俺だけ名字から?というところは突っ込まず、話を進めた。
昔から俺は名字のイメージが強い。と言われてきた。
人からはよく相田って呼ばれる。下の名前で呼ばれることはまずない。
「それじゃ、俺はアケチに餌をあげるために帰らなきゃ。」
「あ、帰りは送ってもらわなくて結構だ。買い物して帰りたいってのもあるし。」
これは、プレゼントを買う気でいるのかな?
小さく頷いて返事をした。
「それじゃ解散。薄羽、ごちそうさま。」
「ごちそうさまです。ありがとうございます。」
「いいってことよ。」
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店を出て、車に乗る俺。薄羽は予想通り、ショッピングモールに向かったようだ。
背中から、ウキウキしているような印象を受ける。
ふと、商談の時に先方から言われた、最高の選択を。という言葉を思い出した。
「...あーあ、嫌なこと思い出しちゃった。」
俺は、これまでの人生で何度も選択を誤り、ミスを繰り返してきた。
中には思い出したくないことだって、たくさんある。
「ふふ。俺は、俺。あいつらは、あいつら。あまり深く干渉するべきじゃあない。」
薄羽から言われた、計画が成功した後のこと。
俺は死んで、そこで終わり。
でも、二人の物語はまだ続く。
「俺に、何をしろって言うんだ。薄羽 翔...。」
あまり深く考えたくなかった。
だって、本当は死にたくない。計画が成功したあとも、お前らと楽しく、一緒につるんでいたい。なんて、口が裂けても言えないじゃないか。
それに、俺が死にたくない、って言いだしたら、そもそもこの計画が成り立たなくなる。
これまですんなりと通っていた話が、急に矛盾を生み出してきた。
これは、ただの悪ふざけの計画じゃないのだ。
少なくとも、俺にとっては。
俺は、絶対にこの計画を成し遂げなくてはいけなかった。
全ては、俺のために。俺だけのために。
彼らとの関わりの中で、決心が揺らぎ始めた俺がいた。
相田の心がだんだん揺らいできています。
計画が成功すると、自分は死んでしまう。けれど、自分は生き延びたい。
しかし、計画は絶対に成功させなくてはいけない。
錯綜する相田の想い。
はたして、相田の心はどうなってしまうのか。
それでは、次回も良しなに。