第七話 最高の選択 -前編-
今話は、前編と後編に分かれます。思った以上に1日が長くなってしまいました。今回は前編です。
それでは、第七話前編、お楽しみください。
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2019/9/7 A.M.08:00
「...あ、やっべ寝落ちした!」
どうやら、ウィルスの蘇生作業中に寝てしまったようだ。
「 あぁぁぁ、まずいよまずいよ。早く、早く助け...。」
手遅れ。まさにその言葉がふさわしい状況だった。
「いや、まだだ。餌を...餌を与えたらまだ...。」
食いしん坊なウイルスなんだ。もしかしたら、何か反応してくれるかもしれない。
そう思って、餌を与えた。
「うーん...お願いだから、食べてくれ...!」
この計画のリーダーである自分が、自分のミスで二人に迷惑をかけるわけにはいかなかった。
これまでにないほど必死だった。
「...お!?う、動いてる...。まだ少し生きていたのか!」
人間でいうと、一命を取り留めた。なんていう場面だ。
本当に危険な状態だった。
「助かったぁ...。でも、また最初から育て直しか。」
危機的状況を脱したところで、新たな問題に気付く。
「8時って、完璧遅刻じゃんこれ...。」
仮病を使うか、真面目に通勤するか。もっとも、遅刻している時点で真面目とは言えないかもしれないが。
「あー、今日って確か午後に会議あったんだよなぁ...。行かなきゃダメだよね。」
そう言って、会社に向かう準備を始めた。
朝飯やら風呂やら着替えやらをしているうちに、気づけば時間は9時になっていた。
「長風呂する癖直さなきゃダメだなこれ...。」
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会社に着いたのは、9時30分。
「遅くなりすぎちゃったかな。」
そう思ったが、そういうことでもないらしい。
「ま、商談してたとでも言えばいいかな。」
と、思っていた。
「おはようございまーす。」
室内のほとんどの人間が、俺の方を一瞬見て、小さく会釈した。
「誰か一人くらい、おはようって言ってくれてもいいじゃないか。」
少し寂しい気持ちになった。
「おはようございます。社長。」
「おぉ!清水君!!感動的だ。おはよう!!」
「何を荒ぶっておられるのですか?それより、本日の日程ですが...。」
清水は、俺の秘書。結構な美人で、仕事もできる。
もちろん、女性だよ。眼鏡が似合うんだよ。これもまた大きなポイントだ。
「午後に入っていた会議ですが、延期になりました。」
「え、なんで?俺今日サボってよかったじゃん。(小声)」
「仮病なんて、通用しませんよ。一会社の主が、何をおっしゃっているのですか...。」
「まぁまぁ、続けて。」
「社長に別のご予定が入りました。海外の電機会社との商談が、もともと予定されていた会議の代わりに、本日の午後の時間を頂いて...。」
「え、また商談?俺断らなかったっけ、あの会社。」
「先方が、どうにも諦めきれないらしく、もう一度だけでも、とのことです。」
「えー、だるいなぁ。何を言われても断るよ?俺は。」
「そこは、社長が判断するところですので。私からは口出しできませんが、一つだけ言わせていただきます。」
「何?愛の告白?」
「ご冗談を...。あなたは、このA's電機という企業のトップなのです。あなたの発言の一つ一つがこの会社に影響を与える、ということを、常に心がけていてほしいと思います。秘書の身から、随分と上から目線な話ですが。」
「愛の告白かと思ったら、またお説教かよー。俺はダメな社長か...。」
「いえ、そんなことはございません。きっと探せば良いところも見つかりますよ。」
「おいおい、探さなきゃ見つからない程度の人間かよ、俺は。」
「左様でございます。」
「とほほ...。あ、それで、今日の仕事はそれだけ?」
「商談が終わり次第、社長室で雑務に取り組んでいただこうかと思っておりましたが、何かご予定でも?デートですか?」
「デートなら君としたいよー。予定っていうか、あのー、えっとね、うーん...ペットに餌をあげなきゃ...。」
「何を飼っているのです?」
「...犬だけど?」
「...それでは、本日は商談が終わり次第退社なさってもよろしいですよ。」
「本当!?やった!!ゲーセン行ける。(小声)」
「まっすぐ帰宅してください...。もう、困った社長さんですね...。」
「あはは、仕事はちゃんとやってるじゃないか。」
「あくまで、仕事だけ...ですけどね。まず、朝、時間通りに会社に来る練習から始めてみましょうか。」
「いや、今日は本当にたまたまなんだって...。ペットが具合悪かったみたいで。」
「...とりあえず、明日からはきちんと朝8時30分までに、出社してくださいね。」
「わかった。善処しよう。」
「急にカッコつけて、どうしました?」
「え、カッコつけてなんか...ないもん!!」
「...午後からの商談に向けて、資料の準備や会場設営がありますので、私は一旦これで。」
「はいはーい。またあとでねー。」
「失礼します。」
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「今気づいたけど、商談してて遅れたーなんて言い訳する間もなかったな...。」
ウィルスは、これからちゃんと成長していくのだろうか。
たった1回、ご飯を与え忘れるだけで、体が8割ほど失われたようだ。
これからまたあの大きさまで育てるのは、難しそうだが、そんなこと言ってる場合でもない。
もしかしたら、もう自分の体には時間が残されていないかもしれないからだ。
「計画が成功しても、失敗しても、結局死しか見えねぇ。なにこれ、完璧人生オワタじゃん...。」
まぁ、特に気にしてはいなかったが。計画が成功して死ぬならば、別にそれで構わない。
道半ばで俺が死んだ時は、まぁ、俺が不幸だったってことで、信頼できる仲間に託せばいい。
「さぁて、商談だー。いい加減諦めてくれないかなぁ。」
A's電機の社長さんを務めている俺は、海外の大手電機会社との業務提携を結ぶか結ばないかの決断を、少し前に迫られた。
俺はNoと答えたわけだが、先方がどうも諦めてくれない。
「てか、しつこいんだよ。諦めろよ。」
実際、我が社の成績は、すでに上昇傾向にあり、そのような提携を求めてはいない。
仮に提携を結んだとして、先方は利益を得るかもしれないが、こちらは費用がかさんで、逆に損失の方が大きくなる。
「俺の時間も大量に持って行かれてるんだよ。その時間で稼げるお金ってもんもあるのに。まったく。」
さっさと済まして、家に帰ろうとしている俺。
「あぁ、だるすぎー。」
社長がそんなのでいいのか?と言われることもあるのだが、社員は決まって、「仕事はできる社長ですので。」と答えるらしい。
清水にも言われたが、「あくまで、仕事は」。
愉快な気持ちとは絶対に言えないが、まぁ事実なので仕方がない。
俺の会社では学歴とかより、今現在戦力になるのかどうか、という点で評価して入社試験を行っている。
その結果、世間からの評価も高いっちゃあ高い。
今時、学歴を考えないのはうちぐらいだろう。
「社長、商談の準備が整いました。」
「あ、ご苦労様。じゃあ、行こうか。」
「はい。くれぐれも、社長としての立ち振る舞いをお忘れなく。」
「はいはい。わかってますよ。」
また新キャラが出てきました。
清水さんです。秘書キャラって、出してみたかったんですよね。それよりも、相田が社長っていう情報は今回が初出しですね。今後の展開に大きく影響が出るのではないでしょうか。
それでは、次回も良しなに。