第四話 扇さんの話 -前編-
今回は、前回のあとがきで話しました通り、少しだけ扇くんのことが分かる...と、思います。きっと。多分...。
それでは、第四話-前編-、お楽しみください。
気付いたら朝。毎日そんな感じ。
「そろそろ朝...ね。寝るか。」
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2019/9/2 P.M.03:00
主「そろそろ端末集まったかな...?」
翔「ガラケー10台ちょい、あとよく分からん店で買ったスマフォ的な何かが3台」
扇「使ってないpcなら提供できるよ?」
主「そうかそうか!早速持ってきてもらおう。明後日、集まれるかな...?」
翔「あー午後に仕事入ってる」
扇「こっちも午後に用事が」
主「あーらら、じゃあさ」
翔「明々後日なら暇だぞ」
扇「こっちも」
主「 俺も、それ聞こうとしてた。じゃあ、11時にポチ公でいいかな?」
翔「またあの喫茶店か?」
主「そのつもりだったけど、何か問題でも?」
翔「問題っつーかよ、ちゃんとした話し合いとかできる場所を確保したほうが、絶対いい。」
扇「私も、それ思った」
主「ふむ、なるほどね。場所については検討しておく。また連絡する。」
翔「そこでだ。俺の家、一個使ってない部屋があんだよ。さて、主様どうしたい?」
扇「素直に使わせてあげるって言えばいいのに」
翔「うっせーな。こういうノリ、好きなんだよ。」
主「使わせてもらっても構わないのかな?」
翔「おう。俺の他に住んでる奴もいねぇし」
主「助かるよ。ありがとう」
翔「家の場所案内すっから、とりあえずポチ公で」
扇「結局ポチ公なのね」
主「わかった。じゃあ、明々後日にポチ公前で!」
やはり、7INEは便利なものだ。
「もうこれさえあれば、私外に出なくていいんじゃないかなー。」
引きこもりで何が悪い。誰にも迷惑なんかかけていない。別にいいだろう。
「打ち合わせ、明々後日か。これでみんなと顔をあわせるのは二回目だな。」
いつか絶対にバレる。早めに打ち明けろよ。
「...。明後日、行きたくないなぁ。でも、行かないといけないのか...。また寝ちゃいそうだなー。」
そんなんだから、社会復帰できないんだよ。
「......。私に合わない世界なんて......。」
終わっちゃえばいいんだ。
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2019/9/4 A.M.11:00
「そろそろ行かなきゃ。」
私が今日、行かなきゃいけないのは病院。でも、普通の病院じゃない。
どっちかって言うと、精神病院に近いかな。
「地味に遠いんだよなぁ。行きたくないなぁ。」
と、言いつつも、行かなかったら行かなかったで罪悪感に見舞われる。
それなら、最初からおとなしく行ったほうがいい。もちろん、気乗りはしないが。
「やっぱ、行かなきゃ。うん、行かなきゃ...。」
なんだっけ。そうそう、一時間もかかって病院に着いたっけ、すぐに個室に連れて行かれた。
先生がすぐ来るから、座ってて、と言って。
病院では、何個か質問をされるんだ。事務的なやつ。すぐ終わればいいのに、何時間もかけて、同じことを聞いてくる。
最後に、こう言われる。
社会復帰できそうですか?
社会復帰、する気になりましたか?
どうせまた、つまんない時間が始まる。
「あー、もう眠くなってきた。やっぱ来なきゃよかったかも。」
こういうところも自分の悪いところだ。
「早いとこ寝ちゃお...。どうせつまんないし。」
と、ここまでは思っていたんだ。私はこの数秒後、とてもびっくりした。それは、彼も。だと思う。
先生が部屋に入ってきた。
「あー、んと。今日お前の担当をするのは、この俺。よろしくな。」
「あぁ、へぇ!?え、あ...。え、ちょ...まっ!?」
「キョドんなよ。俺だってびっくりしてんだ。まぁ、俺も仕事だし来てやったが。」
薄羽。今日の先生は、薄羽。
「いやー、にしてもびっくりだわ。お前さん、この前集まった時はブカブカのパーカー来て、フードまで深く被ってたもんだから、よく分からんかったけどよ。」
この先はあんまり知られたくなかった。
「お前さん、女だったんだな。」
「...。そんなことどうでもいいでしょう。早く始めて欲しいんですけど。」
「はっきり喋れるんじゃねぇかよ。その調子だ。」
まるで薄羽の手の内だ。でも、眠くない。あんまり知られたくなかった事実を向こうに握られてしまったが、つまらないよりはマシだ。
「最初に聞かせてもらうけどよ、お前さん、社会復帰する気はあるのか?」
「...ある。」
「じゃあ、やる気はあんのか?」
「...ある。」
「じゃあ、寝たって本当か?」
「......本当だよ。」
「それって、やる気あるのか?」
「だって、」
「だってって言われてもなぁ、一応言っておくが、やる気ないならないでもいいんだぜ?」
「え...?」
「やる気ないならやんなきゃいい。カウンセリングって、無理やり相手をどうこうさせるためにあるわけじゃあないからな。」
なんだって?彼は何を言っている?
「あくまで、カウンセリングはやる気がある奴に手を差し伸べて、そいつが自分で頑張っていけるように手助けするもん。俺はそう思ってる。だから、大事なのはお前の気持ち。」
そんなこと、これまで一度も言われなかったぞ。なんだ彼は。
「じゃあ、事務的な質問から始めてこう、と思ったが、その必要はなさそうだな。単刀直入にいこう。」
これが、今日最後の質問。
「やる気が、あるか。もしくはないか。」
「......。」
「...ここまでだなー。帰っていいぞ。」
「へ...?」
「ん、あぁ、なんだ。短いってか?」
「え、うん。だって、他の先生はもっと長くて、面倒くさくて、つまんなくて...。」
「ひっでぇ言われようだな。まぁ、そう感じるのも無理はないだろうよ。そう思わせないためにも、俺はサクッと終わらせるんだよ。」
「え、これで、終わり?もう来なくていいの?」
「あぁ、来なくてもいいぞ。あとはお前次第だ。」
なんだ。こいつ、結構テキトーなやつだったのか?そう思った瞬間、その考えはぶち壊された。
「お前の人生だ。お前が道を選ぶんだよ。お前がどうするああするっていうのも、お前の判断だ。社会復帰したくなかったらしなきゃいい。まぁ、せいぜい正しい道を選ぶことだな。」
テキトーなんかじゃなかった。むしろ彼は見据えていた。自分でも分かってる。変わらなきゃ、って。だって、目に見えてる。
いつか、生活できなくなる。
「とりま早いとこ帰れ。次の患者もいるから。」
「あ、あの...。このことは内緒で...お願いします。」
「あ?お前が女だってことか?」
「いえ、私が薬でこんなことになっちゃったこと...。」
「誰が好き好んで他人の過去を言いふらすかよ。」
そこらへんはちゃんと言えばわかってくれるやつなんだ、と安心した。
「だけどよ、お前がそんな状態になってるのは、薬のせいじゃねーよ。紛れもなく、お前自身のせいだ。」
薄羽は、そう言って部屋を後にした。
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2019/9/4 P.M.2:00
いつもなら、6時頃までカウンセリングが続いていた。でも、今日は違った。
あまりにも早く終わりすぎたせいで、あの時間に家に帰れなかった。
サボった、と思われるかもしれないからだ。
久々に人が集まるところに行った。
A's電機。多くの電化製品や、パソコンの部品。照明などを販売している大手の企業だ。
「そういえば、そろそろパソコン組み替えなきゃ。」
二年前に、部品を買い集めて自分でパソコンを作った。そのパソコンも、性能が今では時代遅れになりつつある。
パソコンがないと何もできない生活を送っているわけだ。そろそろ、だとは思っていた。
「部品、買って帰るか。」
店内に入ると、久々に聞く店内BGMに、懐かしさを感じた。日頃、どれだけ外に出ないか、ということだ。
「部品おいてるとこ...場所変わったんだ。」
それなりに日が経てば、店内もそれなりに変わるものだろう。
配列とか、雰囲気とかがだいぶ変わったことに気づく。
「こんな風に、私も簡単に変われたら、いいのに...。」
店内を見て回っていると、見覚えのある人物を見かけた、ような気がした。
「あ、あれ?相田...さん、かな?」
きっと、ウィルスを育てるのに、何か必要なものがあったのだろう。と、思った。
単に、コンピュータウィルスと言っても、この世界には様々なウィルスが存在する。
プログラムを破壊することに長けたコンピュータウィルス。
情報を抜き取ることに長けたコンピュータウィルス。
他にも様々なウィルスの形態がある。
今回、私たちが使うウィルスは、
増殖することに長けたコンピュータウィルス。
このウィルスは、育てることで、成長する。
育て方は、いたって単純。
ご飯を与えること。朝、昼、晩にご飯を与えること。犬や猫のように、散歩などは必要ない。排泄などといったことも、しない。
餌を与えたら、与えた分だけ成長する。質のいい餌を与え続ければ、より高度なウィルスに育つ。粗悪な餌を与え続ければ、低度なウィルスに育つ。
相田がどんな餌を与えているかは知らないが、それでも、この電機店で事足りる低度の餌で、十分に育つと見込んだのだろう。
ただ、このウィルスには大きなネックがある。
成長する分、いつか寿命的なもので、死ぬ。
餌を与えず、放っておけば、死ぬ。
ごく稀な例だが、原因不明に、死ぬ。
ただ、育てきった場合、どこかのタイミングで一気に増殖する。
それで、色々と厄介なウィルスなため、2016年に法律で規制も入った。
そして、だんだん人から忘れ去られていった。
わずか3年の月日で、このウィルスは全世界で数人しか知らない存在になった。
なんで、私が知っていたかって。
相田が、教えてくれたから。
今回は、二編に渡って話が展開されます。
少し長くなってしまい、どうしても一話にまとめたかったのですが、結局、このくらいの長さの方が読みやすいかと思い、このような判断をしました。
色々な謎が見え隠れしたところで、今回はここまでです。
それでは、次回も良しなに。