第十四話 下調べという名の慰安旅行 -後編-
すっごく長いです。
これまでで一番長いような気がします。
ですが、これでやっと十四話が終わります。
最後までお楽しみいただけたらな、と思います。
「...ほら着いたぞ。早いところやることやっちまおうぜ。」
「あぁ...うん、そうだね。」
「どうした?...なんだ、悔しいのか?」
「当たり前だろ。言い出しっぺがあれじゃあカッコつかないじゃないか...。」
「ふふ、最後の方、リーチ棒借金してましたものね。」
「そのリーチでミチルが上がっちゃうし...。」
本当に散々だった。
まさか、最初の一回しか上がれないだなんて...。
「ま、麻雀なんて基本そんなもんだ。調子に乗るからダメなんだよ。」
うー、翔の言う通りだ。
確かに、思い当たる節はある。
「悪かったよ、あんなに騒いで...。」
「計画にボロが出なけりゃいいけどな。」
「もー、あおるなよ。結構しんどいんだぞ?」
「悪かったよ。ほら、もう気にすんなって。」
「さて、私も働きますよー!」
「G-io本社ビル...思ってた以上にでかいな。初っ端からすげー飛ばしてくんだな。」
ぱっと見、不良のたまり場に見えた。
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「えっと、あ、やっぱり入っちゃダメなのね。」
「そりゃそうだろうよ。工事とかで危ないだろ。」
「当たり前ですね。」
「うんうん。...結局入るんだけどね。」
「正面から堂々と侵入する感じ...いいねぇ、無計画だねぇ、主さんよぉ。」
「でも、ここ以外に入り口ってないですよね?」
「うん。そうだね。」
今我々は、ビルに対して少し広く囲われた進入禁止のスペースにいる。
建設機材や、鉄骨などが置かれている少し視界が開けている場所だ。
「でも、ね。視界が開けているから、見つかりやすいって言ったら、見つかりやすい。」
「あぶねーなー、早く中に入った方がいいんじゃないか?」
「そのつもりだよ。でも、あんまり余計にコソコソしないでね。ばれたらばれたで、就職予定なのでーとか適当なこと言っとけばいいんだし。」
「なんか今回の主、無計画すぎやしないか?」
「...大丈夫...なのですよ。きっと。そう信じましょう。」
「大丈夫だよ。ていうかここ、そもそも人いないし。」
「おい、先に言え。」
「あはは、さて、問題の玄関だけどね、開いてるのかな...と思ったら自動ドアが開きっぱなし...。」
「なんか不気味だな。近づいたら閉まるんじゃねぇの?」
「遠ざかったら開くとか?」
「なにそれ、あべこべだな。あ、普通に通れるね。」
「...あー、じゃあ中身をちらっと拝見させていただきますか。」
「基本三人で固まって動こうね。もしもに備えて、一応ミチルは真ん中ね。」
「あ、お気遣いありがとうございます。えっと、まずは一階の広さとか部屋の場所とかを確認して...。」
「その後一階ずつ上がっていって、同じことをする。」
「最後に、このビルの空調とか送電とか、設備関係の部屋を見てくる。」
「なんで設備まで見るんだ?」
「もしばれたとき、送電設備を壊せば、うまいこと捜索の手から逃れられるかもしれない...っていう魂胆。」
「失敗することを前提で話して、どうするよ。」
「見つからないのが一番いいのですが...。」
「あー、確かに。そのためにもちゃんと見て回らないとね。」
「そうだな。しっかし、よく響くな。声が。」
「まだすっからかんだからねー。とりあえず、一階を見て回り終わったら、階段とかエレベーターの位置を確認して、上に行こう。」
「把握した。」
「オッケーです。」
「記録は翔くんに任せよう。」
「あ?あぁ、地図を書けってか。」
「はい、よろしくー。」
俺は、翔にノートとペンを渡した。
「ほう、ノートの裏に厚紙が貼り付けられているのか。これで少しは書きやすいだろう、ということか?」
「うん、そういうこと。」
「それはどーも。つまり、俺に座って書かせている暇はない、ということでもあるのだな?」
「あっはっは、ごめん、時間がかかる。」
「そうか。急がないと、誰かが来てしまうかもしれないからな。」
「うん。頼むよ。うまいことやって。」
「おう。」
時刻は午後3時。麻雀はすぐ終わったのだが、移動にかなり時間がかかってしまった。
これから、ビル内部をいろいろ見て回る。
もしかしたら、侵入しなくてはいけなくなる、その日のために。
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「なんか、無駄に広いな。この建物、もしかしてもともと病院だったんじゃないか?」
「確かに、中に入ってみて気付きましたけど、なんかビル、って感じがしないですね。売店みたいなところもありましたし。」
「食堂みたいなところもあったしね。あと、トイレの数がすっごく多いしね。」
でも、そこまで規模の大きな病院だったとは考えにくい。
なぜなら、寝台をそのまま載せて運べるような、大きいエレベーターがなかったからだ。
規模の大きい市立や国立の病院だと、それくらいの設備は整っているはずだろう。
ただ、ここがもともと病院だったと、はっきり分かったわけではないが。
「1階だけで...おお、6箇所もあるぞ。すごいな。」
「はは。おっと、とりあえず一階はこの部屋で最後みたいだな。」
ーーガチャ。
「あらら、鍵がかかってる。」
「無理に開ける必要もないだろう。一階はもうこのくらいにして、二階に行ってもいいんじゃないか?」
「あ、そうだね。じゃあ、階段に向かおう。えっと、階段はどっちだっけ?」
「入り口に戻って、入り口を背にして直進。そしたら、左側にすぐ階段があったはずです。」
「あ、そうだっけ。ミチルがいれば地図要らなくない?」
俺たちは、入り口に向かって足を進める。
「今更なんだよ。ちゃんと全部書くぞ。俺は。」
「私も、多分覚えているのは今だけなので...。あまり信用しきらないほうがいいですよ。私の記憶力。」
「ふーん、普通にすごいと思うけどな。それじゃあ、急ごう。7時には旅館に戻ってご飯を食べないと...。」
「風呂も入らなきゃな。」
「温泉たまご、楽しみです...。」
「...お、ここが階段だね。スッゲー、本当にあった。」
「ほーら、行くぞ。」
「地図を書くの、楽しくなっちゃった?」
「あ?違うよ。もし本当に侵入するってなった時に、帰り道がわかんなくなって捕まりました。なんてことになるのが嫌だからだよ。」
「真面目だな。」
「当たり前だよ。」
と、ここで俺はあることに気付く。
「...あれ、行き止まりじゃん。」
「いや、違う。防火シャッター的な何かだな。これ。」
「なぜこんなものが降りてきているのでしょう?」
「んー、ここから二階にいけたとしても、三階に行くところでまた行き止まりになるかもしれないのかな...。」
「もしこのシャッターが、例えばどこかの階層で火事が起こった時に、被害を最小限に抑えるために降りているんだとしたら、その可能性は十分にあるな。」
「無理やりこじ開けても、警報とかなったら面倒ですよね。」
「うーん、別の階段を探すか?」
「一階から二階に上がる階段は、ここにしかないみたいだ。エレベーターばっかりだよ。」
「エレベーターなんてもちろん使えるわけないし...。あー、えーっと...。あ、そうだ。外に非常階段なんてないだろうか?」
「あ、確かに言われてみれば、ありそうですね。」
「名案...ってか?行ってみて損はないだろうよ。」
「よっし、じゃあ、行ってみるか。」
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「まさか、階段がない、だなんて考えてなかった。」
「時代は進むものなんだよ。昔と違って、もう階段は必要なくなってきているんだよ。」
どうやらこのビルは、非常時には二階から地面にかけて、滑り台がかかるらしい。
イメージでいうと、飛行機が緊急着陸した際に、乗客が外に出るために使う滑り台。
あれのようなもの。
二階より上には階段があるのだが、普段はこの場所から二階に上がれないようになっているらしい。
「さて、どうしますか?二階には上がれないようですけど...ここからよじ登って二階に行きます?」
「それなら、俺がやろう。サクッと地図書いてサクッと戻ってくるよ。」
「危険だし、やめたほうがいいんじゃ...。」
「心配どうも。でもよ主、この機会にちゃんと見ておかないと、近い将来もっと苦労することになるんだぞ?」
「うーん......。三階より上は諦めろよ。」
「承知した。じゃあ、行ってきますわ。」
「う、うん。気をつけて。」
「......まるで猿みたいですね。運動神経がいいんでしょうね。」
「そうだね。一階だけでも結構時間がかかったんだし、翔、大丈夫かな...。」
「戻ってくるまで、待ちましょうか。」
「そうだね。」
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「あらら、もう5時だよ。そろそろ帰らないと、ご飯に間に合わなくなっちゃうかも。」
「え、それは困りますよ。翔、早く戻ってきてくれないかな...。」
翔が二階に行ってから、かなりの時間がたった。
「何かあったんじゃないだろうな...。」
「...いや、大丈夫だよ。多分もうそろそろ帰ってくるよ。」
「そうですよね...。あ、車ここに持ってこれませんかね?」
「それ、一瞬思ったけどやっぱり無理。翔だったらできるかもしれないけど、俺はそこまで運転しないからさ、あんなおっきい車。」
「うーん、狭いですしね。通り道が。」
と、そこへ翔が無事に戻ってきた。
「...おー、待たせちまったな。」
「あ、帰ってきた。」
翔は、3メートルちょっとの高さをジャンプで飛び降りた。
ーースタッ
「うわー、かっこいい。」
「ただ普通に降りただけだぞ。」
「はは、主ってアクション系が好きなんですね。」
「スタントとか、憧れてた時期あったわ...。あ、そういえば...外傷とかないか?地図は?」
「ほらよ。傷はない。三階に行く階段も、やっぱりシャッターが降りてた。鍵のかかった部屋も何個か。」
「そうか。へー、二階にもトイレがあるんだね。」
「そうだな。さっき病院じゃないのか、って話が出てたけど、そんな感じのところは、このフロアからは感じなかったかな。」
「なんか、特に何もない階層だね。よかった、複雑じゃなくて。」
「そうだな。それじゃあ、旅館に戻ろう。腹減った。」
「うん、そうしようか。」
「そうですね。お疲れ様でした。」
「おう。」
と、こんな感じで下調べが終わった。
旅館に着いたのは午後7時30分。
ちょうどご飯の時間だった。
明日には帰宅すると思うと、少し寂しいような気がしなくもない。
ただ、帰ったら帰ったで、
「やっぱり我が家が一番」ってなるんだろうね。
そして、夜の客室。
「いやー、なかなかいい風呂だったね。特に露天風呂。初めて入ったけど、思ってたより外が寒くてびっくりしたけど、お湯が気持ちよかったなー。」
「なんだ、露天風呂が初めてだったのか。まあ、こんな自然に囲まれてる露天風呂なんて、都会暮らしじゃあんまり入る機会がないだろうな。」
「温泉たまごも、やっぱり美味しかったです。」
「だろ?やっぱり温泉たまごは期待してよかった。」
「明日の予定って、どうなってるんだっけ?」
「明日は9時30分にここを出る。朝飯は7時からだから、結構忙しくなるかもな。荷物、まとめとけよ。」
「はーい。あ、アケチに餌あげなきゃ。」
「私、またあげてみたいです!」
「どうぞどうぞー。あれ、そういえば、三人でこの部屋に泊まるの?」
「あ?何言ってんだ。一部屋しかないんだから、そうに決まってるだろ。」
「私は構いませんよ、全然。気にしないでください。」
「あ、そうなの?俺、ソファーで寝ようか?」
「気を遣わないでください。何も、川の字でいいじゃないですか。」
「うん。俺もそれに賛成だな。」
「気にしないなら別にいいけど。」
「俺、先に寝てるわ。すげー眠い。」
「じゃあ、私も餌あげて荷物まとめたら、早めに寝てしまおうかな...。」
「二人とも健康的だね。羨ましいわ、すぐに寝付けるって。」
「目を閉じて、何も考えなければいいんですよ。」
「それができないんだよなぁ、俺って。」
「じゃあ、いままでどうやって寝てきたんですか...。」
「なんか、いつの間にか寝てた。」
「ちゃんと寝付けてるじゃないですか。」
「でも、朝すっごい疲れてる時があるんだよねー。」
「そういう時は、枕を変えてみたりしますよ。私は。」
「ほほう、なかなか良さそうだな。帰ったら試してみるよ。」
「ぜひ、そうしてみてください。」
この後、ミチルはまた楽しそうにアケチに餌をやり、アケチもまた、嬉しそうにそれを喰らう。
女の子がスライム状のぷるぷるした物体に、機械の部品を与えている様を横で見ていると、なんだか笑えてきた。
アケチもだいぶ成長して、前のウニョウニョした感じから、少し固まってスライムみたくなった。
予定では、これがまただんだんとしぼんでいき、クラゲの球体部分みたいになるはずだ。
そうしたら、ほとんど完成状態。
後は、破裂させるだけで...悲劇が始まる。
もっとも、それは俺にとっては終わりでもあるが。
ひとまず、アケチが順調に成長しているようで、なんだか嬉しかった。
このまま、順調に育っていってほしいと思う。
とまぁこんな感じで、長かった俺たちの9月30日は終わり。
さて、これで第十四話が終わりました...。
長かったと思います。最後まで読んでくれた方、ありがとうございました。あ、最終回じゃないですよ。
一応、これからいろいろなことがあって、なんだかんだあって、どうこうする...という筋書きはできています。ですので、お付き合い願いたいと思います。
それでは、次回も良しなに。