第十四話 下調べという名の慰安旅行 -前編-
第十三話のミチル視点、という扱いですが、一応今話から新章突入です。
ここから新たな物語が展開されます。
それでは、第十四話前編、お楽しみください。
「あ、ねぇ、隼。」
「なに?」
「私、明日から何日かここに帰らないから。もし、留守番が嫌だったら、帰ってもいいよ。」
「え?なんで、急にそんな。」
「友達と三人で旅行に行く予定なの。女の子しか来ないから、男の子は連れて行けないしね。」
「...わかった。早めに帰ってきてね。掃除とかはやっておくからさ。」
「ふーん、それはありがとう。」
「姉さんが帰ってきたら、僕も実家に帰るよ。」
「うん。」
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2019/9/30 A.M.04:00
「おう、迎えに来たぞ。荷物はでかいのだけ後ろのとこにつんどけ。」
「うん。今日から、いろいろよろしくね。」
「...おう。じゃあまずは、主も迎えに行くからな。」
「うん。わかった。」
昨日、私は隼に嘘をついた。
女の子三人...ではなく、いつもの三人だ。
まぁ、このいつもの三人という関係は、隼にはまだ知られていない...はずだが。
でも、計画のことはばれていたんだよな...。
いろいろと謎が深まる一方である。
「なあ、まだばれたこと気にしてるのか?」
「え、うん。それは、まあ...。」
「そうか。俺は、ばれたのがお前のせいだとは思ってないけどな。都合が良すぎるんだよ。」
「え?どういうこと?」
「あ?気づいてないのか?とりあえず、移動しながら話すか。まずは、主の家まで行かなきゃな。」
「あ、うん。」
そう言って、翔は車を発進させた。
「あー、喋っていいか?」
「うん。いいよ。」
「そうか。まず、俺が思ったことな。隼くんは、ミチルに計画って何?と聞いたんだろ?」
「うん。そうだよ。」
「それ以外には何か言われなかったのか?」
「特に、言われてない。ずっと計画計画って言ってた。」
「なんで俺や主の名前が出てこない?俺たちだって計画に関わっているんだ。計画のことを知っているなら、俺たちのことだって知っていてもおかしくないだろう?」
「まぁ、それはそうだと思うけど...それだけだったら組織の関わりがあるって言えないんじゃ...。」
「俺が組織だなんていつ言ったよ?やっぱり、ミチルもその線があるんじゃないかって、考えてたんだろ?」
「...少しは疑ったけど、やっぱり、よく分からないじゃん。」
「なんで進藤って人間が出てきたか、って理由を考えるとつじつまが合うかもな。」
「進藤?」
「あぁ。あいつが潜入してきた理由が、主以外の計画に関わっている人間をあぶり出すこと...だとしたら。」
「敵組織は、計画の存在しか知らない?」
「そういったところだな。存在はわかってる。でも、誰が絡んでるかは分からないから、主の周りから探ろうとして、進藤を送り込んだ。」
「...じゃあ、隼は敵組織から情報を...?隼が敵組織に関わってるの?そんなことって...。」
「すでに目星がついてるんじゃないかな。敵組織も。そりゃあ、入社してわずか二、三日で一つの部のトップになったやつが怪しくないわけないもんな。」
「あー、確かに...。」
「主の周りを探ったら、ミチルが出てきて、ミチルのことを調べたら、弟の存在...隼くんの存在が明らかになった。だから、隼くんに接触して、計画についての情報をうまいこと自分たちに流させようとしたんじゃないか?」
「それなら...別の可能性も出てくるよね...。」
「お、気づいたか。察しがいいな。どちらかというと、そっちの方が大変な話だがな。」
「うん。隼自体が、敵組織の一員かもしれないんだよね。」
「可能性としては、十分にある。田舎からわざわざ出てきてるんだろ?もしかしたら...ってなるよな。」
「......。」
「辛かったか?」
「いいえ、私は大丈夫。でも、隼のことが心配になってきた。」
「今回の旅...じゃねぇや下調べ、企画したのは俺だけどよ、実はミチルと隼くんペア、主と進藤ペアを遠ざける、っていう目的もあるんだよ。主には内緒な。」
「そうなんだ。でも、何かわかるかもしれないね。」
「もし俺たちの行く先々のどこかで、隼くんや進藤が現れた場合...。警戒する必要があるってわけだ。」
「下調べよりそっちがメインみたいなように聞こえるのですが。」
「結局は、どっちも下調べなんだけどな。計画の実行まで十ヶ月もあるが、G-ioのせいで、そこまで余裕がなくなりそうだし、やっぱり速いとここっちも動いたほうがいいだろ。」
今回の下調べというのは、G-ioという企業について。
情報交流会のときには、発足する、とまでしか分かっていなかったけど、状況が一変した。
なんと、ビル自体はもう立っているので、中身を改装したらすぐに営業を始めるそうだ。
仕事が早すぎて、逆に困る。
準備期間が足りなくなる、という問題もある。
それ以上に問題なのが、あまり早く働かれすぎると、セキュリティが強化されまくって、太刀打ちできなくなるかもしれない。というところだ。
情報系の機器は、とても進歩が速い。
今こうしている間にも研究が進み、着々と進化している。
アケチも進化はするが、それに追いつけるかは、はっきり言って謎だ。と主も言っていた。
あまりのんびりやっていられる状況でもないのだろう。
さっさと行動に移す必要性があったのだ。
「着いたぞ。ここが主の家だ。俺は荷物を運ぶ手伝いをするけど、一応ミチルも一旦降りろ。念には念を、固まって行動するぞ。」
「あ、うん。わかった。」
いつにも増して慎重な翔から、緊迫した、という印象を受ける。
そして、主が車に乗り込むと、翔と私も続くように車に乗り込んだ。
主は海外旅行に行く時に使うような大きいキャリーバッグを一つと、アケチ用のケージを手荷物で持ってきていた。
アケチ用のケージは、どこのホームセンターでも売っていそうな、ハムスター用のものをすこし弄ったものである。
「おはよう、ミチル。」
「おはようございます。」
「じゃあ翔、運転は任せたよ。」
「おうよ。動くから気をつけろよ。」
そう言って、翔はバックで車を発進させた。
主の家は、ぱっと見では社長宅とは思えないような普通の一軒家だった。
これなら、翔の家の方が、どっちかというと社長宅っぽく思える。
立地も、うちの方がまだ良さそう。この通りは、すこし道幅が狭いような気がした。
こんな細い道でも、上手いこと車を発進させる翔のドライブテクニックには感心した。
「ねえ、この車って、翔の車?」
「いや、レンタカーだ。俺、遠出するときはいつもレンタカーなんだ。」
「へー、いい車だから褒めようと思ったんだけどね。」
「褒めてくれよ。俺もこの車借りるとき、結構気に入って借りたんだ。このまんま買ってやろうかとも思ったわ。」
「そりゃあ、こんな大きいキャンピングカーなんて、なかなかないだろうね。開放感もあるし。」
「確かに、後ろに乗る人たちは、快適に過ごせそうです。ただ、翔は運転が大変そう...。」
「俺、こう見えて車の運転は嫌いじゃないから、そこまで苦痛じゃないんだよな。心配しなくていいぞ。」
「いいなー、俺は身分証明とかのために免許とって、一応車も買ったけど、運転めんどくさいから結局地下鉄とか電車でいいやってなるんだよね。」
「その気持ち、分からんでもないぞ。かなりの距離走るから、お前らは寝ててもいいからな。リラックスしとけ。」
「分かった。サンキューな、翔。」
「ゆっくりさせていただきますね。」
「おう。」
こうして、私たち三人の下調べという名の旅行は始まった。
下調べという名の慰安旅行...。下調べをしながら、三人の親睦を深める回になると思いきや、開幕早々危ない感じになりそうです。
それでは、次回も良しなに。