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放課後HEROES-children of the revolution-  作者: いでっち51号
第1章「ふたりきりの文芸部」
9/41

第8幕

 翌日、少し寝坊をしてしまった。遅刻まではいかなかったものの、朝礼のチャイムが鳴る寸前に席に到着した。賢一が髪を短く切ったことは誰も触れなかった。あの岸辺も同じクラスの野球部の連中とお喋りをするばかりである。強いていうなら担任の蒼崎が冗談交じりで「昨日のより断然いいぞ!」と話しかけてきたぐらいだった。




 やがて賢一の楽しみな放課後の時間となった。いつもより学校が少しだけ早く終わる木曜日はどこか気持ちが良い。図書室の前に気がついたら到着していた。昨日のように悟が図書室前にいることはない。また奥のほうで何か本の詮索でもしているのだろうか。そんなことを予想しつつ賢一はドアを開けてみた。ドアの向こうには予想外の光景があった。図書室の受付で悟と女子二人組が何やら話している。賢一が入ってくると同時に受付で話している3人が賢一の方へと振り向いた。図書部のことを散々悪く言っていた悟だったが3人が雑談していた様子はどこか仲の良い様子だ。



「ほら、こちらが入部希望してくれた伊達賢一君」

「ふうん。巻き込まれちゃったのね。かわいそう」

「こんにちは。お元気ですか?」

「はい。一応元気ですが……」

「伊達君はどこのクラスなの?」

「1年C組です」

「蒼崎先生のクラス? あ、米倉って知っている?」

「うん。米倉さんっていう人はいるけども……」

「ウチの友達なんよ。うわ。ちょっと感激した!」

「伊達君、図書部に入りなよ。江川もじきに図書部になるのだからさぁ」

「おい勝手に決めつけんな。やっぱ、お前らと話しても何にもならねぇ」



 悟は大きな図鑑をとりだして、図書カードを投げるように置いた。賢一たちと同じ1学年と思わしき図書部の女子が「はいはい」と言ったような顔をして悟の図書カードに赤丸のハンコを押した。悟の手招きに引かれ、賢一は図書室の奥の方へとすすみ、片隅の席に座った。受付の方から談笑が聞こえる。賢一のことを話しているわけではないが、耳に障る甲高い笑い声だ。よく見れば受付の二人は一昨日に受付をしていた3年生の先輩に比べて派手な装飾物を身につけており、靴下もルーズソックスのようなものを履いているなど、賢一が想像する図書部のイメージ像となんだかかけ離れていた。



 悟はうんざりした顔をしつつも図鑑を開いて、ただそれを眺めているようだ。賢一は何の図鑑か気になってはいたが動物の図鑑である。開いたページには猫がいた。たくさんの種類の猫が載っていたが、実は猫が好きな賢一はちょっと興奮したりもした。しかし何故このような物を彼は借りたりするのだろう。それが少し疑問に思えたりもした。



「なっ、うるさいって言っただろう」

「うん……賑やかな人達だね」

「図書部の1年生はあの二人だけだ」

「あの二人ともボクと同級生なの?」

「よく見ろよ。二人とも青い上履きと青いバッジつけているだろ」

「うん。確かにによく見れば。そうだね。あ、なんか目があった」

「そんなによく見なくてもいいよ。誤解されるぞ」

「うん。あの悟君、その動物の図鑑はなんなの?」

「あぁ。動物の図鑑だよ。図書室にはこういう本もおいてあるんだ」



 悟がライオンやヒョウが載っているページを開く。ライオンと一言で言ってもいくつか種類はあるし、その同じ種類の仲間まで数多くいる。そのようなことを動物博士のように詳しく説明をしてくる悟が賢一にはどこか頼もしくあった。



 悟が博学な人間であると感じる時間だった。



「色んな奴がいるって面白いだろ」

「うん。そうだね」

「ポケモン図鑑にも通じるものがあるよな」

「うん……言われてみれば、そんな気も」

「まぁ、それでも、オレらなんか図鑑にいる強いヤツにしか興味持たないけどな」

「うん……そういうゲームだよね。ポケモンって」

「まぁな。でも色んな奴がいて、その中で何かを好きになるって、面白いよ」

「悟君は何か好きなものとかがあったりするの?」

「それは動物でということ?」

「うん。そんなところかな?」

「ライオンが好き。だてっちは?」

「……猫。なんとなくだけどさ」

「ふうん。嫌いな動物とかはいたりするの?」

「嫌いな……あ、犬とかは昔から苦手かな」

「犬が苦手なのか。ちなみにオレはあそこの2匹が嫌いだな」

「あそこの2匹?」



 悟が顎を図書室の受付の方へ少しだけ向けた。それを見て賢一は少しだけ愛想笑いをした。受付の二人組の談笑はいったんトーンダウンしたように思えたが、再び勢いをとり戻して今度は二人して口を揃えて歌を合唱し始めた。さすがにもうここには居られないと判断をしたのか図書室を出ることにした。二人とも気持ちが表れているのか、足音が響くほどの早足で図書室を飛び出た。



「いや~今日は勘弁ならなかったわ。まさか歌いだすとはね……」

「あの二人はどこのクラスのひとなの?」

「二人ともオレと同じクラスだよ。同じ班ではないけどもな……」

「そうなんだね。じゃあ、毎日大変だね」

「うん。まぁ、同じ班じゃないから、そんなに話さないけど」

「あの、これからどうする?」

「オレのうちに来てよ。今日はまだまだ時間があるのだしさ」

「え……ああ。そうよだね。おじゃまさせていただきます」



 一瞬ほど躊躇した賢一であったが、以前より誘われているのにもかかわらず行かなかったということもあり、今回ばかしは行かないといけないなと思えた。時刻は16時をまわったばかりである。やや空に雲がかかっているのが気になっていたが悟の言葉にのって彼の家へ一緒に向かうことにした――


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