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放課後HEROES-children of the revolution-  作者: いでっち51号
第1章「ふたりきりの文芸部」
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第4幕

 月曜日の朝、賢一はいつものように学校へ登校した。髪がかなり長めの賢一はここのところ「髪を切れや」と同じクラスの男子や担任の蒼崎から指摘を受けていた。髪を切らなくてはと思うも、お家でテレビゲームに浸っている自分自身を制御することができずにいた。



 そんなことを思いつつもやはり放課後の図書室のことで頭はいっぱいになる。次第に学校へ向かう足どりもいつもより早くなっていった。気づけばいつもより早く学校に到着していた。賢一の班のメンバー達はまだいない。いつものように机に伏せて時間を過ごそうかと思ったところ、野球部の岸辺がやってきた。岸辺は通りすがりに「髪を切れや!」と賢一に吐いてきたりした。その言葉を聞いた賢一は気分を少し落ち込ませる。5分遅れて井藤と西原が席に着いて謎のお喋りを開始する。やがて小島が席に着き、教科書を鞄から取り出す。いつもの日常だ。でも今日の放課後は違う。そんな期待が賢一の胸を高まらせた。



 その日の学校はとても長く感じられた。楽しみが待っている時というのは長いものなのかもしれない。1日を締めくくるホームルームが終わって賢一は机の中にあるものをカバンにしまい、颯爽と図書室へ向かった。



 このまえは重かった図書室への足どりも今日は軽い。気がつけば図書室の前に着き、図書室のドアも何気なく開けられた。図書室には図書部のメンバーとみられる女子が1人受付に座っており、今日も江川が奥の本棚で何か詮索をしている様子だ。今日はドアの音がしたからかすぐに賢一に気づいたようだ。そして賢一の方へとすぐに近寄ってきた。



「やぁ。だてっち。お疲れさん」

「うん。おつかれ。だてっち?」

「しっ。あまり声を出さないで。今日の人は本を読みたい人だから」

「え? そうなの? あぁ、本当だ。何か本を読まれているみたいだね」



 受付に座っている図書部の女子は本を読んでいた。とても静かそうな雰囲気だ。賢一達には全く興味がないのか、本を読むことに集中している。



「あの人は3年生の人なんだ。うるさくすると、後々やっかいだから外に出よう」

「うん。でもどこか行くところなんてあるの?」

「オレの教室でいいよ。誰もいないだろうしさ」

「え? 教室? 大丈夫なのかな? 確かに誰もいたりなんかしないけどさ……」

「大丈夫だっての」



 1年の教室が並ぶ廊下に二人は向かった。江川はB組の教室を覗いて、賢一に手招きをした。賢一は江川の手招きする方へと歩いていった。すでにどこの教室もがら空きになっている様子だ。1年B組もまた然りのようである。



「ガム噛む?」



 江川がガムを胸ポケットから取り出した。賢一は何気なくガムを受けとって、ガムを噛みはじめた。ミントの味のするガムだ。気持ちが落ち着くような味だ。



「今日の昼休みに、生徒会室に伊達君の入部届けを出しに行ったよ」

「そうなんだ。ありがとう」

「いや、ごめんよ。本当は伊達君と一緒に行くのが良かったのだろうけどもな」

「ううん。いいよ。あそこは退部届けを出したところだし、行きづらいし……」

「そっか。それなら良かったよ。まぁ、生徒会の人たちには色々話したからな」

「色々な話?」

「うん。まず、オレも伊達君も図書部にはならないということ」

「うん」

「でも生徒会の連中もオレたちを図書部にしたいらしい」

「そうなんだ……」

「大丈夫。こっちが気持ちで負けなきゃいいんだ」

「そうだよね……」

「だから何がなんでも文芸部を起こす。その為にいくつか必要なものがある」

「必要なもの?」

「あと一人の部員、顧問それから活動内容とかだ」

「それはどうしたらいいの?」

「さぁな。分かれば苦労はしない。とりあえず“作戦”をたてるか」

「作戦?」

「まずはなにか活動をしなきゃ認められないということ」

「活動?」

「そうだよ。何かを作ることをすればいいということ」

「何かを作る?」



 江川が一冊の本を鞄から出し、最後のページを引いて机の上に出してみせた。宮沢賢治の『雨ニモマケズ風ニモマケズ』だ。江川はそれを声に出して読んだ。よほど好きなのだろうか? どこか感情がこもっているようだ。賢一は江川の突発的な行動に驚いたが江川が朗読しているのをまじめに聴いた。



「これを作るんだよ」

「これを作るって?」

「詩の創作だよ。それがオレたちの活動の出発だ」

「そんなのボクとかにできたりするのかな……」

「できるよ。小学校のときにやった五七五を思い出せばいい」

「え?そんなの誰だってできるよ。多分ボクでも出来るよ?」

「そんなんでいいよ。オレたちはまだ中坊なんだからな」

「五七五をつくるということ?」

「おお。それいい。よし。今週一週間の課題にしよう!」



 江川の提案により一週間で五七五の詩を十以上作るという課題ができた。宿題ではないが、宿題嫌いの賢一でもやってみようかと思えた。学校の先生から言われてやるのと同級生の友から言われてやるのは何か違うものがある。



「まぁ、じゃあ“作戦会議”はここまでにするか」

「作戦会議?」

「うん。文芸部が正式に立ち上がるまで。放課後は毎日な」

「作戦会議って一体何のことを言うの?」

「さっき伊達君とオレとでやったことさ」

「五七五をつくること?」

「いやだから……もういいや。オレとだてっちが会えば、それで作戦会議だ」

「うん。わかった。ところでさ、だてっちって呼ぶのはやめてくんない?」

「え? いや、なんか、親しみがあるのかと思えたからさぁ」

「そんな呼ばれ方したことないし……なんか恥ずかしい」



 結局江川が賢一のことを“だてっち”と呼ぶことに決定した。それからというもの、学校の話題や小学生時代の話題を延々と二人で話した。部活を立ち上げるのに賢一が入部したとはいえども決して雲ゆきが良いとはいえないようである。しかし部活を起こしたいとする熱気は高まりはじめていた。




 二人の長い雑談が終わって二人は学校を出ることにした。時刻は5時を過ぎていた。賢一にはまだ自分が文芸部の一員だという自覚がない部分もあった。部活動の立ち上げという目標も江川のように自信を持って人に向かって言えるものでもなかった。ただ江川と一緒に過ごす時間が楽しいと感じていただけであった。しかし臆病な賢一はそれでも江川に踏み込められないところもあった。この日も江川の家によらず、まっすぐ自分の家に帰った――



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