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放課後HEROES-children of the revolution-  作者: いでっち51号
第1章「ふたりきりの文芸部」
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第1幕

∀・)大長編青春ドラマの開幕です!!

 賢一が陸上部を退部して一ヶ月経つ頃。クラスのホームルームで係担当決めが行われた。クラスの学級委員に誰がなるか……賢一には関係ないことだ。教室では生徒たちが馴れ合い、班ごとにワイワイと賑わう。



 賢一がいる班は女子2名と賢一含む男子2名。小島という男子がいたが当然親しい事もなく、小島もまた寡黙で全く喋らない男子だった。女子は西原と井藤という大人しい二人組だがいつも小声で謎の会話をしている掴めない二人組だ。もちろんこの班のメンバーはこの時も全くと言っていいほど話し合うこともなく、小島が一言話しかけて他の班員が相槌を打ち賢一の班は動いた。一応班の班長は何故か賢一だったがこの時も賢一が何かをすることはない。彼の頭の中は任天堂のゲームでいっぱいだ。クラスの係には各教科の係から各種物品等の管理など様々あったが学級委員を除く一名の係には極力誰もなろうとはしない。



 その煽りを受けるのが賢一の班のメンバーだ。



 小島は三名枠の黒板消しに入った。残りの二名の枠にはサッカー部の男子二人が入った。小島のことだ。サッカー部の二人が授業後の黒板消しをしている間は何もしないだろうし、サッカー部の奴が黒板消しをしなくなったら一人でせっせとするのだろう。賢一がそんな妄想をしている間に井藤と西原は二人枠の保健係になっていた。いよいよ係決めも大詰めに入った。果たして学級委員に誰がなるのか。教室が最高潮に盛り上がる中、賢一は「選挙運営係」になった。“なった”というのは賢一の意思でなったワケでないことを察して欲しい。野球部の岸辺の「伊達早くしろ」の一言で慌てた賢一が黒板に名前を書いた結果だ。



 「選挙運営係」とは六月初めに行われる生徒会の選挙、学級委員長の選挙運営に携わる役割を持つ由緒ある係である。しかしクラスで一名枠なのと、いかんせん地味なのと、生徒会および学級委員会の担当員が大場という厳しいことで有名な教師だった為にクラスの誰しもがなろうとはしなかった。もちろん賢一はそんな事も知らず、自分の係が決まった途端に安堵した。学級委員には金子という女子がなった。ホームルームが大盛況ののちに終わったその一方、担任教師の蒼崎が何度か賢一のところにやってきて「伊達大丈夫か? やれるか?」と心配してきた。それを賢一は疎ましく思うも。その日は終わった。



 この日の出来事から全てが始まったのかもしれない。賢一にはもちろんそのことがわかるよしなどなかった。夕焼けがかかった帰り道。多くの帰宅部の生徒の群れの中に混じって賢一は一言呟いた。



「選挙か……」



 家に帰って賢一はテレビゲームに明け暮れた。この生活感覚に馴染んでどれ程の月日が経過したのか。そんな事をふと思うことも時折あるが、テレビの画面に出てくる敵たちを目で確認してスティックを動かすうちに、意識は画面に広がる無限大の世界に溶け込んでいった。




 6月の選挙が近づいた折、選挙運営のミーティングが始まった。ミーティングと言っても学年ごとに当日まで2回だけだ。大場先生の長ったらしい説明を聞き、役割分担を決めるというものだ。役割を決める際、大場より何度も役割分担の確認と言う名の拷問が行われた。犠牲になったのは冴えない男子の賢一だった。ただでさえ何事も覚えるのが苦手な賢一は大場の逆鱗に何度も触れ、何度もその大きな怒鳴り声を全身に浴びた。他の運営係も同じくその被害にあったが、賢一は際立って目立つほど怒られた。そんな第一回のミーティングは遅くまで行われ、体育会系の部活が終わる頃に終わった。どの運営係もくたびれていた。



 大場が部屋を出た際、賢一は身動きがとれないほど震憾していた。泣きはしなかったが明らかに賢一は何かしらの恐怖に苛まれた。心優しい女子数名が残ってほんの少しばかりは励ましてくれたがそれもほんの少しだけだ。賢一の硬直がとける頃には誰も部屋にいなくなった。彼は誰もいない部屋で自分を恥ずかしくまた悔しくも嫌だと感じた。



 しかし泣いてもいられない。大場の話した内容、当日までの用意する物などを書き記したノートを改めて見ることにした。何度か目で読み返すうちに何となく自分がする仕事内容を把握した。この時に自分の担当箇所にもう一名の名前が記載されていたのを確認した。同時にその男子生徒はこの日のミーティングに来てなかった事を知った。



 この日に賢一が家に帰ったのは夜の7時をまわっていた。家にあがった際には母親から「どうしたの?」と何度も尋ねられたので、怒鳴られたこと以外は全て素直に話した。賢一は家族には何でも話す少年であり、一応裕福な家庭に育った。彼が小学生時代に学校に通い続けられたのも、家族の支えがあったからに他ならない。それはここで断言をしてもいいだろう。



 母親と色んな話をした後、賢一は小学生の弟と一緒に任天堂のテレビゲームを思う存分した。この日は賢一の荒いプレー操作が目立つ。憂さ晴らしだったのだろう。




 第1回の翌々日、第2回のミーティングが行われた。一年生注目の賢一はいきなり忘れ物をした。運営役員の体制表である。待っていましたとばかりに大場の罵声が賢一の全身にむけて注がれる。しかし罵声を受けたのは賢一だけではない。もう一人体制表を忘れた男子がいた。青い上履きを履いて青い名前入りのバッジを胸につけている。一年生の男子生徒であることは間違いないようだ。その時にまさかと賢一は予感した。もう一人の男子は背の低い賢一と背丈を同じくする男子だ。おどおどしている賢一に比べ、大場の顔をまっすぐ見る瞳は穏やかな二重であり、どこか微笑すらしているようであった。明らかに大場の怒鳴り声に動じてなどいない。大場の大声が教室に鳴り響く。



「ポケットに手を入れて人の話を聞くな!」

「あ、すんません、クセなもので」

「なめとるのか!」

「すいませんねぇ……えへへへ」



 微笑があきらかな笑顔へと変わった。八重歯が引き立てているいい笑顔である。大場の罵声がそんな生意気な男子生徒に注がれた。しかし途中で諦めたのだろう。賢一ともう一人の男子に静かな小声で「座れ」と座席を指さした。賢一は勇敢な男子と一緒に空いている座席へ座ることにしたが、この時ばかしと言わんばかりにバッジの方へ目を配った。間違いない。第1回のミーティングを休んだ男子で、賢一と同じポジションに着く男子の名前であった――



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