表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
放課後HEROES-children of the revolution-  作者: いでっち51号
第1章「ふたりきりの文芸部」
10/41

第9幕

 悟の家は学校からとても近い。歩いて5分ほどのマンションの3階にあった。誰かの家にあがるのは賢一の経験上そんなにないことだ。心なしか少し緊張してしまうこともあったが悟の部屋にあがった時になぜか自分の部屋にいるような気がしてきて、気がつけば落ち着いていた。どことなく自分の部屋に似ている。ごちゃごちゃしていなく棚に本が並べられているが想像していたより少ない。テレビが物置の上にゲーム機が床に置かれているがソフトの数も少ない。強いて言うなら賢一の部屋と違って大きなタンスがたくさんの服を収納しているようだ。思い返せば玄関で色違いの靴をみたような気がした。その点を見てれば賢一と悟は何か違うと思えたりもするが似ている部分も多くありそうだ。



 後ろの方から悟の声がする。悟が紙コップ2つとコーラのボトル2リッターを持ってきた。「部屋が散らかっていてごめん」と賢一に言ってきたが賢一は「自分の部屋の方が散らかっているよ」と返事を返した。さすがに自分の部屋と雰囲気が似ているという本音を言うことはしなかった。ベランダの外を少しだけ眺めて床に座ることにした。



「最悪だが、部室がとれなかった場合、ここを部室にしようと思うな」

「え? でもここ学校じゃないよ?」

「そりゃそうだよ。でもここはわざわざ学校の許可をとらなくていい」

「言われてみれば……そうだね」

「まぁ、学校で部室をとるのが一番だな。ところで入部希望の奴は見つかった?」

「いや……ボクはクラスであんまし喋らないからさ、何もできてなんかないよ」

「そうか。でも挑戦はして欲しいな。そうだ。これを見て欲しい」



 悟が学校で出される書類のようなものを鞄から取り出してきた。その用紙には『部活動結成届け』とインクでキレイに大きく書かれている。その下に悟の字と思わしき字で「江川悟」と書いてあった。その下に賢一の名前を書いて欲しいと賢一に頼んできたので、賢一は快く書くことにした。何か重要な用紙なのだろう。賢一はこれが何の書類なのか悟の説明を聞いてみることにした。



「先月、生徒会の奴から貰った。これに3名の部員の名前、顧問の名前と印鑑、そして具体的な活動内容を書いて生徒会に提出をしたらいいそうだよ。まぁ、あれからちょうど1ヶ月たったからこの紙に力があるかどうかだけどな」



 分かりやすい悟の説明だ。賢一はクラスの中でまだまだ無口な男子として存在していた為、とても部活の勧誘などできるわけがなかった。ただその用紙を見てふと思ってみた。実は生徒会は文芸部の結成に協力的なのではないか?



「あの、その結成届けを渡してくれた人はなんて人なの?」

「三澤っていう太った2年生の先輩だよ」

「その三澤という先輩はとりあえず味方じゃないのかな?」

「そんなわけないよ。図書部に入れっていう生徒会の一人だぜ?」

「そうなの? でもこんなに綺麗な字で結成届けって書いてあるし」

「たまたま綺麗な字なだけだよ。いつもオレを見てニタニタ笑っている」

「なんか最悪だね……その三澤さんが担当をしているのかなぁ……」

「うん。オレの相手をしているのは毎度そのデブだ。期待をするなって」

「うん……道は険しいね」

「グジグジ言ってもられねぇよ。もう二人で地道に何かやっていくしかない」

「あ、そうだ、ボク、あれから五七五を三十個ほどつくってきたよ」

「へぇ~一昨日にやろうと決めたばかりなのに……さんじゅう?」

「うん。いろいろ考えてみると面白くて。これみてよ」

「すげぇ! いつの間にやっていたんだな!」

「うん。悟君との約束だからね」

「どれどれ……読んでみよう」



『ゆめのなか  よわいボクは   にげている』

『目がさめて  今日もボクは   いきている』

『もうじかん  小さなパンを   ひとかじり』

『朝はやく   ねぐせなおすの  めんどうだ』

『月ようび   ながくかんじる    六日間』

『月ようび   日ようびまで   ながいなぁ』

『にがてだな  すうじがならぶ  たいくつさ』

『目がさめる  学校のベル    なりやんで』

『ほうかごに  くだらないこと  おもいつく』

『かえりみち  夕焼けかかる   ひとりきり』

『明日には   ちがうかたちの  くもりそら』

『夕焼けに   ないているのは  カラスたち』

『ボクのへや  ひとやすみして  またあした』

『気持ちよく  スピードだして  ぶっちぎり』

『ゆめをみた  ぼくじょうでね  のんびりと』

『すなはまで  カニとあそんだ  ひとむかし』

『のどかわく  さばくのうえで  しんきろう』

『雪のなか   はしってみたい  なんとなく』

『さがしもの  チョコレートを  ほしくなり』

『8の字が   あたまのなかで  まわりだす』

『ころんでも  どろだらけでも   走りだせ』

『いそぎすぎ  氷のうえで    ころんでさ』

『目をとじて  ほんの少しだけ   空をとぶ』

『城のなか   ぶきみな絵たち  ほほえんで』

『ヤシの実を  なげつけられて  こまったな』

『いろいろな  みちがおおくて  まよいこみ』

『こわくない  おばけやしきの  おばけたち』

『にじいろの  おおきな橋に   あこがれて』

『窓をあけ   そとの空気が   おいしいと』

『ほしぞらに  うかべてみるよ  ねがいごと』



 三十の五七五がノートの1ページに汚い字でぎっしり詰まっていた。



 賢一は三十にもわたる五七五を書いたノートを悟に見せてみた。最初は三十という数字におどろいた悟だったがノートを渡してから真剣に一つ一つ見ているようだ。ところどころでにやけていたりもしたが決して悪い印象を持ってないと悟の反応を見て確信した。これまでにない妙な自信が賢一の中で溢れ出そうとしていた。



「うん。センスのようなものは多分ない。でもなんだろう……面白いよ!」

「やっぱりボクにはセンスないのかな……」

「違う。そういうことじゃない。想像力がすごいと、オレは認めているんだよ!」

「想像力?」

「うん。結局のところはそれが文芸のすべてなんだよ。発想というかな……閃きだよ。これからオレもだてっちも物語を書いていくんだよ。それがどっかの誰かが書いたものとソックリだったら全然面白くないだろ?」

「そうだね……でもそれが?」

「わかってないなぁ。つまりだてっちはいいものを持っているということだよ。ところで後半、なんか別世界に行ったようなものを感じるけど何かしていたの?」

「え? ああ、マリオカートしながら書いたよ」

「マリオカート……ああ、そういう事か!」

「なにかわかったの?」

「すげぇな。コース順に作ったのかよ。これ」

「え? あ、ほんとだ。そういうことになるね」

「おもしろいな。だてっち。おもしろい奴や」



 悟の感想が良いものか悪いものかはっきりわからなかった賢一だったが悟が笑顔になっているのを見てそんな事はどうでもよくなった。それから話題にあがったマリオカートが悟の部屋にあったので二人で遊ぶことにした。自分の部屋で誰よりもやりこんでいるはずの賢一だったが悟は賢一よりも上手かった。やがて夜の七時を時計の針が指すようになる。それを見た賢一は家で待つ家族のことを思い出して悟の家を出ることにした。悟はマンションの出入口まで賢一を見送りについてきてくれた。外は大雨が降っている。賢一は傘を持ってくるのを忘れていたが悟が家にある傘を貸してくれることで助かった。賢一は色々と悟に礼を言いつつ、自宅に向かった。



 賢一は家に帰って「友達の家に遊びに行っていた」と母に話した。夜遅くに帰る賢一を心配していた母親だったが、ここのところ「江川悟」という友達ができ、活き活きとしている賢一を見て満更喜んでないこともなかった。今日の夕飯は御馳走に感じる。賢一はそれを召し上がって自分の部屋へと上がった。



 夜の9時。弟の賢吾がバレーから帰ってきた。今日の賢吾はいつもより帰ってきたのが遅いようだ。母親と賢吾の話し声が聞こえる。賢一は窓を開けてみて、雨を降らし続ける夜空を眺めた。



 ここのところ梅雨に入ったからなのか大雨の天気が続いているような気がする。賢一は思いたってたまに書いている日記に悟の家を訪問した今日を記した――



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ