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無言電話

 朝、県道を歩いていると、小学生が学校に登校する姿を見る。黄色い帽子をかぶり、背中にはランドセルを背負い、小さな袋には笛が顔をのぞかせている。服装は制服なので今時めずらしいものだと思った。

 白髪の男はザラザラした道をのんびりと歩いていた。国道のように滑らかな道ではない。まだ整備されていない道だ。

「おはよう」

「ああ、おはようございます」

 自宅の前の道を掃除している初老の女性から挨拶してきたので、頭を掻きながら挨拶を返す。女性はニコリと微笑むとまた掃除を始めた。

 しばらく歩くと、懐に入れていた携帯が鳴り始める。携帯を取り出し、ディスプレーを見ると『非通知』になっていた。

「はい、もしもし?」

 白髪の男は躊躇することなく携帯の通話ボタンを押した。

「…もしもし」

「ああ、何か面白い話でもあるのかい?」

「…話を聞いてくれるのか?」

「なんでも聞くぜ。都市伝説でも怪奇話でも奇妙であればいい」

「…そうか…それなら聞いてくれ」

 高揚のない男の声で、話は始まった。


 俺には祖父がいた。小さい頃はよく可愛がられたものだ。マイペースでいつも壷やら陶器やらを趣味で作っていた。

 成人してからも俺は祖父に会いに行った。スーツ姿を見せると「大人になったもんだ」と豪快に笑っていたものだ。

 その祖父が死んだ。

 心臓が悪くて死んだらしい。呆気ない最後だった。あまりにも元気なんであと5年はもつだろうと思っていた。寝たきりでもなかった。

 慌てて都会から故郷へ帰ってきた。なんとか通夜に出席でき、告別式も終わった。通夜は呆然と見守っていたが、告別式の時は涙が自然と出てきた。

 告別式が終わり、家族や親戚と自宅で料理を食べている時だ。

 突然電話が鳴った。

 叔母が電話を取ったみたいだが、席に帰ってきた時首をかしげていた。

「おかしいねぇ。誰もでないよ?」

「…無言電話か…もしかしてじいちゃんからじゃないの?」

 親戚家族ともに笑いあった。

 しばらくするとまた電話があった。

 今度は母が電話を取った。すると、叔母と同じく首をかしげ誰も出ないと言う。それから5回、6回と電話があったときは誰も笑わなくなった。

 7回目、今度は俺が電話を取った。

「…もしもし」

 向こう側からの返事はない。

シャリ…シャリ…シャリ…

 何か砂が動いている音がする。ちょうどザルに砂を入れて振っているような音だ。

「…もしかしてじいちゃんなのか?」

 普段ならこんなことは言わないだろう。恐らく、祖父が死んで気が動転していたんだと思う。それでも電話の向こう側からの返事はない。

「…もしじいちゃんなら一言言わせてくれ。最後を看取れなくてすまない」



『…殺されたんだ…』



 ガチャ!

 電話は突然切れた。

 何が起こったのかわからなかった。

 ただ1つはっきりしているのは。

 その声は確かに祖父の声だった。



「…あの後親に聞いてみると、祖父は行き着けの風呂屋に向かう途中で倒れていたらしい。死因は心不全。心臓は確かに弱かったが、はっきりとした原因はわからないそうだ。…あれ以来無言電話はピタリとなくなったよ」

「…そうか」

「…ふう、こんなこと誰にも言えなくてね。話をしてすっきりした」

「それは何よりだ」

「…なあ…あんたはどう思う? 祖父は本当に誰かに殺されたのだろうか? それとも俺の聞き間違いか?」

「……さあな…俺にはわからんよ」

「…そうだな。じゃ」

 電話は唐突に切れた。

 白髪の男が携帯電話を懐にしまうと、急に誰かの視線を感じた。

 振り向くと一匹の黒いカラスがゴミ袋の山の上で男をジッと見つめている。

(びっくりしたな。カラスか。どこにでもいそうだな。それはまるで―)

 黒いカラスは突然翼を広げると一声鳴いて空へと舞い上がった。

 

 …今度はどこへ降りるのだろうか…



『無言電話:了』

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