餅は餅屋で
急遽、部員を音楽室に集めたから、”パー練、終わってからでいいじゃん”
って、声も聞こえて来た。
パート練習の事だろうが、パーの連合 = パー連 に聞こえて、一人で吹きだした。
「先生、パー練っていうのは・・」「わかってる、ジャンケンでパーを出す練習だろ」
なんて、冗談をいった。冗談でもいわないと、これから先の話し合い、乗りきれない。
「えっと、珍しく、全員、集まった・・?今度は人数が多い。
えっと、1年、入部した?」
俺は 少し待ってと指示したが、楽譜が出来てきて我慢できなかったらしい。
「はい、1年生 21人入りました。うち、楽器経験者は、9名いましたので、
そのパートに入ってもらいました。
残り12名は、初心者で、足りないパート。楽器のあるパートに一時、入って
もらいました」
よどみなく説明するのは、部長の飛鳥井だ。
くやしいが、向こうのほうが当然、経験が上だ。1年についてはこれでいいのだろう。
「はい、わかりました。それで当面はいいです。
それと、ちょっと残念なお知らせです。」
ずっと”残念なお知らせ”ばかりで 申し訳ないが
「顧問の浜岡先生の怪我は長引きそうです。それと、今までのストレスが
たたったのか、体調がお悪いらしく、今、検査してる最中です。
病院で、仕事の話をするのは厳禁、吹奏楽部の話もできるなら、ストレスになる
ので、無理だそうです」
”え~~そんな~”
”国井にはむりだっちゅうの・・””今年はオワじゃね””他に先生いないのか”
”え~そんな~、他に先生はいないんですか”は、俺も同じ気持ちだ。
まったく、他に吹奏楽の経験者がいなかったのか。
「という事で、予定していた定期演奏会の曲、浜岡先生は指揮は出来るかも
しれないけど、入院中の今は当然、指導できない。
俺としては、練習を録音して、逐一、先生に指示を出してもらい、のりきろう
と思ったのだけど、病院、医師から仕事の話は禁止されましたので。
そこで、みなさんに聞きます。
定期演奏会を開くかどうか、皆で話し合ってください。
開くのなら、その係などを決めて下さい。
延期は、スケジュールの関係で、考えられません。もちろん、それ以外の
意見があれば、一応、聞きますが3年生部活動は、8月末です
コンクールで上の大会に行けたときだけ、特例ということで。
認められますが。
それじゃ、皆、話し合って下さい。
”音楽無理”な、俺は職員室にいます。決まったら部長なり責任者なり、
報告にくること”」
じゃ、お願いします。と 俺は無表情仮面をかぶって、音楽室から出る。
きっと中では、困ってるだろう。
入門書も買って読んだけど、俺より、経験者の生徒に任せたほうがいい。
生兵法は怪我のもと 餅は餅屋 だ。
ー・-・-・-・--・-・-・-・--・-・-・--・-・-・-
6時近くになって、部長の飛鳥井、コンミスの土本になぜか2年の太田が
やって来た。
俺は3人を指導室につれて、話を聞く事に。
「まず、話を聞く前に、残りの部員は帰宅するように、指示して。
土本さん、行ってきてくれる?」
土本は、慌てて音楽室に走って行った。
「で、どうなりました?定期演奏会は。開くかい・やめるかい?」
まず、そこが決まらないと、生徒も俺も動けない。
「定期演奏会は、今年も開きます。そこは、一致しました。
文化祭に 演奏会をもってきたらどうか?という案もありましたが。
体育館での音響を考えると、却下という事になりました。」
飛鳥井部長は、6月末に開くのは当然とばかりに。
「僕は7月末とに延期したらどうかと思ったのですが、
調べていると、市民会館の大ホールが、週末、全部埋まってました。
吹奏楽の演奏できる所は 他にはありません」
と2年の太田という男子が言った。彼はどこのパートだっただろう?
土本が息をきらして帰って来た。
「あの・・で・・指揮んほうなんですが、もともと、2部では、生徒指揮
の曲で組んでました。指導も生徒がするってことで。
で、問題は1部のコンクール課題曲ともうひとつの曲と、3部の自由曲です。
できれば、浜岡先生に指揮してほしいです。
今まで、それで2月から練習してきたんで」
ふm、生徒指揮か。司令塔ってとこだ。
「申し訳ない、太田君だっけ?どこのパートですか。俺はまだ覚えきれないんで」
半分も覚えてない、楽器をやっと名前と形が一致したくらいだ。
「はい、僕はパーカス・・・パーカッションです。ドラムとかティンパニから
タンバリン、鈴まで、なんでも屋です。
「太田君は、音楽に詳しくて、本当は中学校の時は、コントラバスだったのだけど、
学校の楽器がなかったので、1年生の時は、パーカスで頑張ってもらいました」
「指揮はできるか?なんて俺は言わない。俺にとっては、音楽は異世界そのもの
だからな。で、太田は、その指揮の基本的な事は出来るってことだな?」
俺は3人に念を押した。途中で投げ出されてもこまる。
それは、大丈夫。太田君は中学の時に経験があるからと二人の弁。
「指揮ってのは、一種の司令塔のようなもんだ。それを2年がやって、
3年がついてくるか?そこらへん。二人が中心になって、まとめてくれ」
正直、そこが一番、難しいと思ってる。
なぜなら、例えば”先輩、ここらにくる球は、体をこう開いて打つといいですよ”
と、野球部の2年が3年にアドバイスしたら、もちろん、ぶっとばされる。
音楽では違うのかもしれないが、合奏では目を光らせて援護しないとな。