表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/19

泣きっ面に蜂

次の日、俺は桜井先生に吹奏楽部の定期演奏会について

聞いてみた。”副顧問とはいえ、もっと部を把握すれや”と

つっこみいれたい返答だった。


「ああ、定期演奏会ね。えっと6月の最終土曜日だったかしら、

詳しくはわからないわ。ごめんね。吹奏楽部は、私、ほとんどノータッチで・・」


事務長が助け舟を出してくれた。

「はい、国井先生。6月24日土曜日。市民会館。

演奏会は、毎年、7時ですが、その日の午後12時から大ホールの予約

入れておきました。私が頼まれたもので。

そっちの会計は、僕がします。それでですが、今年は、イスがどのくらい必要ですか?

照明もどうします?譜面台の備付のものは、使うとお金がかかるそうですが、

どうするのですか?」



どうするのですか?どうしたらいいでしょう?

俺は泣きたくなった。まったく異世界に転生したようだ。


これはどうあっても、浜岡先生に相談しないといけない。

だけど、せめて後1週間したら、もっと調子がよくなるだろうから

それまでは、とにかく言われた曲を練習させるか・・


さて、昼休みだしメシだ。とコンビニのおにぎりにかぶりつこうとしたところ、

3年の女子二人が、入って来た。俺の教科・生物の質問かな?


「あの、去年、私たち美術部です。毎年、吹奏楽部の定期演奏会のポスターのデザイン、

頼まれるのですが、今年はどうなんでしょうか?」


ポスター作らないといけないんだ。

「う、うん。お願いする。」

「何か要望はありますか?去年のデザインは不満が出てたので、要望があれば

先に聞いておきたいのですが?」

不満をいう吹奏楽部員がいたらしい。あいつら他の部を協力させといて・・

「早めに、曲と曲順、指揮者を、教えてください。」

と言われ、頭を抱えた。


「あの~ついでなんですが、放送局としては、例年通り協力しますから、安心してください」

と、英語の放送局顧問の先生の声。

「すみません、放送局は定期演奏会で何をするんでしょうか?」

「もちろん、録音です。と、そうそう特殊効果の照明は、美術部と放送局で去年は

やりました」


今年もよろしくお願いしますと、深々と頭を下げた。

教員生活、吹奏楽部の定期演奏会は、生徒指導という役割で、外の見回りをする

くらいだった。そうか、他の先生方にも協力をお願いしないといけない。

で、放送と美術はわかった。生徒指導もわかってる。他は何??

ー・-・-・-・-・--・-・-・--・-・-・-・-・-・-・-


5時間目は授業で、俺は6時間目に時間が空いたとき、

教頭に定期演奏会での、他の先生方のあれこれを聞きに行った。


「はぁ~。浜岡先生、一人で切り盛りしてましたからね。

浜岡先生の机に、去年の役割分担表とか当日のタイムテーブルがあるはずです。」


急いで開けてみたが、浜岡先生の机の中の引き出しは、空だった。

「そういえば、場所替えをするので、中のものはいったん出したんです。

浜岡せんせい、吹奏楽の書類だけで山になってましたから、いったん、家に

持ち帰って整理するっていってました。」

数学科の先生が教えてくれた。


よわったな~。もう少し浜岡先生の具合がよくなってからにしたいんだけど、

そうもいってられないか。


おっと放課後、最初に部員に集合をかけなくては。


音楽室に集合した2,3年生に、定期演奏会1部の

8曲の曲名をつげ、黒板に書いた。

途端に、ハチの巣をつついたような大騒ぎになった。


2分、俺は我慢して、今度は体育会系のドスの効いた声で生徒を諭す。


「うるさいです。浜岡先生の指示で、この8曲の練習をしていきます。

係りの人っていますか?」

”はい”と2年の女子二人が手をあげたので、近くに呼び寄せた。

「で、これから、どうするの?」

「え?あっとあの、まず楽譜を探して見つかったらパートの人数分コピーします。

今はとりあえず退部した人数の分も含めてコピーです。

最初だけでも、先生もいてくれたほうがいいんだけど・・」

事務室のコピー機を借りるのだから。当然か。

そんなヒソヒソ話をしてる中、2年の女子が立ち上がって

「先生、国井先生は吹奏楽の経験がありますか?」


「悪いが、まったくない!!。でも、心配ない。浜岡先生が帰ってくるまでは、

出来るだけの事はするし、入院してる先生の指示をうけながらやっていくから」


見るから体育会系の俺の言葉は、説得力0だったらしい。

前にもまして生徒が混乱していった。

俺は、生徒を指導する前にこけた感じだ。


「みんな」という鶴の一声で静かになった。

さっきの2年の、えっと酒井って女子だ。


「先生は怪我で入院してる。副顧問は吹奏楽の経験がない。

うちらで、なんとかしないと、定期演奏会どころか、コンクールに間に合わない。

とりあえず、練習しよう。」

リーダーというより姉御だな。頼りになる。


「で、パート練習の後の合奏の指揮は誰がするの?国井先生は無理ってわかったろ」

冷水をかけた生徒は、部長の飛鳥井だ。

部内はまた喧噪の巣に逆戻りだ。


そこへ、楽譜係りが楽譜をもってやってきた。

俺は敗走の将よろしく、”ちょっとあけるから、まっていてくれ”

と音楽室を逃げ出した。まず、楽譜のコピーだ。


「先生、ここだけの話なんですけど、2,3年の対立で、一番対立してたのは、

あの酒井さんと、飛鳥井先輩です。あまり二人の間に入らないほうがいいんじゃ

ないかと思うのですけど・・」

二人の楽譜は、控えめに話しかけて来た。


コピーを二人にまかせ、俺は戦場の音楽室へ・・とほほ。


もう音楽室は、たんなるお喋りの場にもなっていた。しょうがないけど。


「今、コピーをしてもらってる。今日の練習は、課題曲のパート練習でおわり。

終了は五時半。合奏っていうやつは、なし。」


終了、5時半で喜ぶ奴らもいれば、酒井女子を含む何人かは、そんな事じゃ間に合わない

って、不満顔の部員もいる。

今日はもう一切、質問も提案も受け付けない。俺はキレそうだ。


俺は帰りに、本屋で「吹奏楽部に入ってみよう」「吹奏楽入門」と2冊買った。

浜岡先生がもう少しよくなるまで、と思ったが、これじゃ生徒のほうが

収集つかなくなる。自分で少しかは、勉強するしかない。


まず、合奏って何?って俺の疑問を解決しないと。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ