東奔西走
浜岡先生は、俺が思う以上に重症だった。
左足が複雑骨折、右足は単純骨折。特に左足は膝も骨折(膝の皿の骨)。
手術後なのか、微熱があるとかで、面会時間は短くと 看護師に言われた。
やまほど聞きたいことがあるんだけど。
ここは市民病院、街の中心部にある。
西岡高校は、名前の通り西の岡にあるので、車で30分かかった。
今日は、教頭に吹奏楽部の副顧問を一日だけやってもらい、
俺は浜岡先生と打ち合わせ兼質問に、見舞いの名目で来たのだが・・
浜岡先生は寝ていた。4人部屋の病室を出ようとしたら、
ちょうど 先生が 目をあけた。
恐る恐るそばにいき
「浜岡先生、すみません、起こしてしまいましたか?」
浜岡先生は、普段はサラリーマンのように7・3にわけてる髪も ぼさぼさ。
熱のあるのか、ちょっと顔が赤く、ボーっとしてる。
「ああ、国井先生。先生方には迷惑かけてしまって、面目ない。
校長先生がいらしたそうなんですが、どうも寝ていたようで、
会えずじまいでした。教科のほうは、どうなりましたか?担任は?」
教科は時間講師を頼み、復旦が浜岡先生のクラスをみてます。
と簡単に伝えると、安心したようだ。
吹奏楽部の事は、心配じゃないのだろうか・・
「国井先生に頼みがあります。入院が長引きそうなのですが、
私には、家族がいません。両親はとっくに他界してますし、
妻とは別れ、とっくに再婚してます。
で、下着類が何もないのです。すみませんが、このお金で、シャツと
パンツを何枚か、買ってきてもらえますか?」
先生は、ベッド横のTVが置かれてるボックスの引き出しをあけ、財布を
とりだし、そのまま俺にわたした。
「お安い御用ですよ。すぐ買ってきます。」
さかんに恐縮がる先生に 寝てて下さいと言い、ダッシュでとびだした。
が、ナースステーションで止められた。
「国井さんですね。浜岡先生のご家族ですか?」
看護師に尋ねられた。いいえ と僕がいっても、彼女は続けた
「今、浜岡さんが使っておられる箸や湯飲みなどは、こちらの病院の
ものでして。できるかぎり早く、これらの物を用意してください」
と、入院案内のパンフを渡された。
そこには入院する際に必要なものが 書いてあった。
洗面道具・バスタオル・タオル・箸。スプーン・湯飲み
スリッパ・ティッシュ・着替え・・
うmm。これは丸々スーパーに行けば全部揃うかな。
ここには書いてないけど、TVを見るためには、お金がかかり専用のカードも
必要らしい。お見舞いと思って、俺が買っておくか。
TVがないと、気晴らしもできないだろうしな。
俺は それでは とばかりに行こうとすると、今度は事務の女の子が
「あの~浜岡先生の保険証が必要なんですが、できたらなるべくはやくに
持ってきてください」
俺は先生の財布を、みると保険証がカード入れにあった。
保険証を女の子に渡して、病院をでた。
あ、サイズを聞くのを忘れた。
下着を買う段になって思い出した。まあいいか 大は小をかねるでLlサイズで。
確か結構、浜岡先生、お腹が出てたきがする。
レシートをちゃんと揃え、また、病院に向かった。
病院の周りは官公庁ばかりで、スーパーまでは、車で往復40分。
慌てて、先生の病室にかえってきて、起き上がろうとする先生を押しとどめ
クロゼットの中や弾きだしの中などに、買ってきたものを入れた。
そして、財布を先生に返し、金額とレシートを見せ、
”先生の保険証、病棟の事務の子に言われたので、預けてあります。
勝手にすみません。”とあやまった。
買っておいたTVカードトイヤホンを、先生に、お見舞のかわりに。と渡した。
「国井先生、本当にありがとうございます。助かりました。
私にはさっき言った通り、身内がいないも同然でして。」
先生は、起き上がってお礼をしようとしたが、
”先生、いいです。このくらいお安い御用です”と、そのまま寝ていてもらった。
そう、このくらいは、楽々なのだ。さて、”お安くない御用”の話をしないと。
「それで、浜岡先生、吹奏楽部の事なんですが」
その言葉で、先生の顔が曇った。眉根にしわがよってる。
「・・・もう、今年は無理かもしれません。私の努力のいたならさで
部内がバラバラになってしまいました」
微熱がありながらも、さっきの安心した表情が一転した。
やばい。これ以上、聞いて熱が上がったりしたら大変だ。
「すみません、たよりない副顧問で。。」
「いやいや、かえって悪かった。国井先生は去年は、サッカー部で
音楽ははたけ違いなのに。」
だんだん、浜岡先生がうなだれていく。
「俺、頑張りますから。あのすみません、今日は帰ります。
ちょくちょく来ますんで、用事、遠慮なくいってください」
「ありがとう。吹奏楽部ですが、とりあえず、6月の定期演奏会。
1部の曲を知らせてないので。生徒も戸惑ってると思います。
定期演奏会ぐらいなら、なんとかしてあげたいんですが・・。
1部は、民謡や世界の音楽を中心に8曲、候補にあげてあります」
と、俺が差し出した紙とペンで、サラサラっと書き出した。
すご・・資料もみないでか・・
「これらは、昔 ウチで演奏した事のある曲なので、楽譜がそろってます。
生徒に伝えてください。後は、係りの生徒が手配するでしょう。
当面、それらの曲を、練習しておくようにと、指示してください」
最後のほうは、浜岡先生は 生徒に丸投げ?
でも俺は、何をどうしたらいいかすらわからないんですけど・・・
浜岡先生に質問しようにも、力つきたのか、また、寝てしまった。
もしかして吹奏楽部の指導、今は考えるのも負担になるほど、つらいのかな。
帰ると、もう夜の7時を過ぎていた。
職員室にはいると、
「遅い!!」と教頭の一言。俺はムっとしながらも「申し訳ありません」と謝り、
病院での事を話した。途端、教頭が これからもよろしくとばかり、
それは、どうもご苦労様でした。と ニコニコ(作り)笑顔だ。
それにしても気になる。
あの浜岡先生の 吹奏楽部の事について話すときの様子。
そういえば、定期演奏会って言っていたけど、いつやるんだ?




