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犬猿の仲

まあ、単なるうわさだし、そこまで教師はかかわらなくていい

とは思う。ただ、浜岡先生に酒井の状況を聞いたばかりなので、ひっかかるのだ。


帰ろう。サッカー部のもめ事は、まだ時期尚早。静観する時期だ。

後ろを向いた途端、肩をたたかれる。


「やあ、国井先生、サッカー部に戻ってきてくれるのかな?」

「残念、無理です。もう4月の時点で校長に吹奏楽部をお願いされ、断れ

なかった私の責任です」

「どうです?今晩、居酒屋で晩飯食いながら一杯っての」


俺もサッカー部の部員から相談された事でもあるし、実情だけでも知っておくか。

ー・-・-・--・-・-・-・-・-・-・--・-・-・-・-・-・-・

居酒屋は、座敷付の小さな食堂の雰囲気だった。古い店で村山先生は、

ここの馴染みのようだ。

ひとしきり世間話に花をさかせ、村山先生からは、さかんに結婚しないのかと

揶揄された。女性に話すと、セクハラだな。


「時に先生、本当にサッカー部に帰ってきてくれませんか?

俺はあの若造、稲葉とやっていく自信がねえんだ」

村山先生、ビールから焼酎にかえてから、飲むピッチがはやく、もう酔ってる。

愚痴くらいなら、いくらでも聞く。愚痴ってそれで、問題解決にはいたらないまでも

先生の気分が晴れればいい。


「稲葉先生は、サッカーの専門家とも聞きましたが・・」

「上手い。俺より数倍もいろんな知識もあるし、技術もある。

でもな、教え方のせいか、部員がついてこれない時も多い。

俺が口をはさむと、あからさまにイヤな顔だ」


その夜、延々と村山先生の愚痴は続き、俺は最後はtaxiで送る羽目になった。

結局、俺の聞きたい話ー酒井の担任は村山先生だーは、出来なかった。

しばらく、グラウンドに近寄らないほうがいいか。

稲葉先生に余計な誤解をされても面倒。


村山先生が愚痴の中で、”稲葉を入れるためにお前をサッカー部から降ろしたんだぞ

管理職の考えることだ。狸二匹の考えた事だ”

なんてあった。妄想もはなはだしい。俺が強硬に副顧問にとどまる事を主張

出来なかっただけだ。

個人主義すぎの稲葉先生も問題だけど村山先生のおかしな被害者意識も問題。


俺は酒でウサをはらすこともなく、酒井の事は消化不良のまま、寝付いた。

ー・-・--・--・-・-・--・-・-・--・-・-・-・-・-・


次の日、酒井は学校に来なかった、その次の日も。

理由は風邪という事だが、どうなんだか。

プログラム作りも大方終わりってときで、saxのパートだけが

集合写真をとれずに困ってた。


放課後すぐに、酒井の家に連絡をいれてから、

saxパートで比較的仲の良い部員と一緒に家庭訪問した。

応対してくれたのは、母親。共働きの家庭と聞いたが。


「すみません。美香、今日は熱も下がってるのに、体が怠いとか

言って休んだんです。怠け者なんですよ。あの娘。

申し訳ないんですが、私、息子のマー君を塾に送る時間ですので。

どうぞ、おあがりください。美香は二階の部屋にいます。先生が来ることは

伝えてありますから」 

母親は、ニコニコしながら、家を出て行った。

母親ってこんなもんだったっけ?


部屋から出て来た酒井は、目が赤い。

「酒井、また熱が上がってきたんじゃないか?大丈夫か?」

本当は泣いていたのかもしれないが、俺は熱があるって事を強調した

酒井は うつむいてしまった。顔を見られたくないのかも。


「美香っち、お昼食べてないんじゃない?コンビニでサンドイッチ

買ってきた。後 ポカリと。これで元気がでるよ。

去年のコンクールの時は、これ飲んだら、不思議と元気が出て、

頑張れたもんね。いわば万能薬だからさ」


差し出されたポカリを飲みながら、酒井はボロボロ泣きだした。

勢いよくのんでるせいか、ムセったりして。


「ありがとう 智っち。助かった。これで元気でたよ。」

「うんうん、これ、昨日と今日の分のノートのコピーね。

C組の部員がいたから、わけいって借りた。

はやくよくなってね、でも無理しないで」


その言葉で、また、酒井は感激したのか。涙はいつまでも止まらないようだ。

俺たちは、酒井の家をそうそうに出て来た。

なんであれ、今はそっとしておいたほうがいい。


「先生あのさ、これはここだけの話なんだけど、美香のかあさんって、継母

なんだ。わかった?あのお母さんの冷淡な態度。

中学生の時に、父一人娘一人の時に、母親のほうも子連れで再婚したんだって。

美香も反抗しまくてったらしいから、母親に見捨てられたってとこかな」


「智っち、情報ありがとう。助かった」

俺はおおいに、反省し落ち込んだ。浜岡先生は、たぶん、酒井のそういう状況を

知っていた。だから、叱るべき機会があっても躊躇したんだ。

そして、まだ病院に居ても心配してる。


saxの智っちと別れ、俺は学校に戻った。まだ、新しい名簿の入力が終わってない。



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