親の心子知らず
吹奏楽の練習は、部員たちはやっとおちついたのか、
生徒指揮にもなれ、合奏も円滑に行くようになった。
俺は、放課後、浜岡先生の見舞いに行った。
行くと、先生は、うれしそうな顔で
「来週には、右足のほう、軽くリハビリはじめることになった。
そうしたら、左足も もうすぐかもしれない。」
どうだろう・・
右足は単純骨折だけど、左足は複雑骨折で、骨が皮膚をつきやぶてったとか。
左足の靭帯も切れかかったんだそうだし、そう簡単にはいかないだろう。
「先生、洗濯ものは?」
「いや、大丈夫、もう一人で出来るようになったよ。この間、購買で洗剤を
買ってね、やってみたら、なんとか出来るんだ。
今までより、体が自由になったかんじでね。」
「なんだ出来るんですか?楽しみにしてたのに残念。じゃあ、いつものように
車椅子で散歩に出ましょう」
浜岡先生、だいぶ動けるんだ。ベッドから椅子への移動も前よりも
少ない介護で、移動できたし。
「まあ、怪我というけど、手術もあったし熱もでたし、やっと少し
体も回復したんでしょうね。でも、無理しないほうがいいっすよ。
一人で動いてて、転んで何かあったら大変だし」
いつものロビーにやってきて、俺の説教じみた話も、浜岡先生は、
うんうん と素直に聞いてる。
「ときに、吹奏楽部の酒井は、元気にしてるか?」
げ!いきなり核心きましたか、俺を見る顔は前のように暗くはなかったが、
かといって、明るくはなかった。
「元気ですよ。っていうか元気すぎるくらいだ」
「この間、事務局長の岡田さんがお見舞いに来てくれました。
なんだか、今年はいろんな仕事を生徒に分担してるんだとか」
精神科の先生から、部の話は避けるように言われ、職員に連絡したはず
なのに。まあ、俺も聞かれれば答える って形にはしてるけど、
そこんとこは、どうんんだ。これは、あの精神科のおっさん医師に聞いてみるしかない。
「酒井の事だ。きっと部員の会議を開いたら、大活躍して、みんな迷惑
しただろう。でも、あの子のいう事は、ある面、あたってるときが多いんだ。
ただ、タイミングがわるかったり、その前の論理をふっとばして結論だけ
言うので、反感を買ってしまうだけで、悪い子じゃないんだ」
浜岡先生、無理してませんか?さんざん、あの子にかき回されたんでしょうに。
俺は、吹奏楽部に外部から講師をよぶ事に固執した事と、学生指揮に文句を
となえた場面を思い出した。
外部講師にはまだ文句をいっていたが、生徒指揮には、あれから何一ついわない。
それは、彼女は納得したからなんだ。
吹奏楽に熱心ともいえるけど、基礎練習をサボってる事はどうなんだ?
本当にうまいやつは、基礎をサボったりしない・・
う~m。サッカー部の川野も練習で忙しいはずなんだが・・
わかった、それで時間を作ってあそこで、デートか?
考え込んでる俺に浜岡先生が 実はと切り出す
「酒井は、家庭的にちょっとあってな。ああいう性格だからクラスでも
孤立してたらしい。吹奏楽部が彼女の居場所的な位置にあったんだ。
振り回されることなく、なおかつ、暖かい目で見る。
難しい事を頼んでるかもしれないけど、酒井の事を気を付けてやってくれ。
頭まで下げられては、俺も、身の置き所がない。
俺は、正直、面倒事をおこす酒井は無視することにしたかった。
あの川野との会話がボディブローのように、聞いてるのかも。
学校へ戻ると、合奏の最中だった。
で、そこにいないメンバーは、あ、プログラムの作成委員会か。
俺は、慌てて 話し合いのもたれてる教室に行った。
「先生~。いい処に。ここ、どうしたらいいでしょう?
去年のプロを参考にしてるんですけど、曲の詳しい紹介の所。
誰かに頼むんですか?まさか、国井先生は・・・無理ですよね・・」
「ははは。当たり前だ。俺には無理に決まってる。
その8曲だが、短いし紹介するのも難しい、超有名曲ばかりだ。
だから、そこの部分はカットだ。
あまった部分で、何か企画があるかい?
なかったら、そのままで進めて。独創的な事と言われても、パっと思いつかない
もんだ。他の部分は出来てるかい?」
学校で作るものだけど、なるべくエコ精神で
減ページも当然だろう。
担当教諭の原稿の部分は、しょうがない。いろいろ例年と違う理由など
説明しなければ、しょうがない。俺、文章苦手なんだよな。
「じゃあ、これで決まりです。去年と同じく、各パートの紹介です。低音は、コンバスとチューバ、ユンホは、一緒に紹介です。
原稿は出来るだけはやく、出来れば5日以内に集めまPC部にもっていきます。
で、写真なんですけど、どうしたらいいですか?」
「ああそれは、部長の飛鳥井と相談してくれ。PC同好会に直接送る事もできるそうだ
それと、今回、協力をしてくれた美術部、放送局、PC同好会の紹介も、短くていいから
忘れずにいれてくれ。」
おし、プログラムはなんとかなりそうだ。
後、タイムテーブルなるもの。原案ぐらい整理しないとな。
それと、椅子と譜面台、これは合奏、終わったあとに改めて確認。
あと、制服か・・これは、どこに保管されてるんだ?そこからか・・
部活も終わり、俺はたまにと思って、サッカー部を覗いてみた。
もう、練習はおわり、整理体操をしてる。
サッカー部のおっかけ女子が何人かいる。去年もいたが、今年は数が多いようだ。
そこで、女子の噂話が聞こえて来た。
”え~?じゃあ、川野君、C組の花田さんと付き合合い始めたんだ。
じゃあ、酒井美香は?振られたって事?”
”ふふふ、酒井なんて、振られるより前に付き合ってないじゃん。
最近、一緒にいるのを見かけたっていうけど、
二人は幼馴染だって聞いた事ある”
俺は、これで酒井は基礎練習に出てくる って思うより、むしろ、
学校に来なくなるかもしれないと、危惧した