晴天の霹靂
「国井先生、先生には、今年は吹奏楽部の副顧問を よろしくお願いします」
最初、俺、国井俊彦は 校長の冗談だと思った。
俺、国井俊彦は、西岡高校の生物の教師。
大学時代は、運動神経のよさをいかして、よくバレーやバスケなどの球技の助っ人
にいったもんだ。ちなみに独身。彼女なし。大学時代は恋人もいたけど、
教師になってから、出会いの場も時間もなくなった。とほほの35歳
教員になってからは、もっぱら体育関係の部活の顧問・副顧問を
で、それで恋人を作る時間もなかったのだけど。
「校長先生、申し訳ないですが、俺・・私は、音楽はまるきしダメです。
私としては今までのサッカー部の副顧問を続けたいのですが」
この学校では2年目だけど、サッカー部は、今年、楽しみなメンバーが揃ってるので
出来れば、そのまま、続けたいのだけど。
カラオケでの俺の音痴の歌いっぷりを
校長もしってるはずなんだが・・
「国井先生には、本当に申し訳ない。昨日の会議で急きょ、決まりました。
今まで副顧問だった桜井先生が、女声合唱同好会が部に昇格したので、そこの
顧問を務めることに。
まあ、先生、大丈夫です。顧問の数学の浜岡先生がおられるので、
すべて任せて大丈夫ですよ。
先生は、浜岡先生の不在時に生徒の監督をしてくれるだけでいいですから。
細かい補佐の仕事は、桜井先生の説明では、事務的な事で音楽を知らなくても
出来るとの事でした。
国井先生の希望にそえないのは申し訳ないですが、どうか吹奏楽部のほう、
よろしくお願いします。ああ、サッカー部のほうは、今年転任してこられた
体育の先生がもちますので、心配なく」
丸顔で小柄な校長に、ニコニコ顔で頼まれては、さすがに断れなかった。
昨日は、俺は38度の熱で学校を休んだのは大失敗だ。
他の先生方から”鬼の霍乱”と笑われた。
俺は、ガタイがいいほうだ。
”ラグビーでもやっておられましたか?”と聞かれたりする。
顔は、野球のホームベースのような角顔。そんな風貌のせいもあるのだろう。
生徒が部活でたるんでる時とか士気が下がってるとき、
俺がカツを入れれば効果倍増だった。
でも、まあしょうがない。なんとか1年は、修行と思って我慢しよう。
それ以上は、絶対、やらないぞ。俺は基本、スポーツ大好きの濃ゆい人間なのだ。
”それにしてもな~”と頭をかきながら、職員室に入ると何か異常に騒がしい。
教頭が校長と顔を見合わせて、ひそひそ話。
「すみません。先生方。
たった今、連絡が入り、数学の浜岡先生が交通事故にあわれました。
歩道にイネムリ運転の乗用車がつっこんできたそうで、先生以外にも
怪我人がでる事故だったようです。」
教頭の言葉に、思わず「まじですか?」って大声だしそうになった。
よりによって浜岡先生が。で怪我の程度は?
「浜岡先生は、幸いに命に別状はありませんが、両足骨折で
一か月ほど入院となるようです。これから校長が病院へ行きますので、
詳しい事は そこでわかると思います。
学校での対応は、明日、会議を開きます。最大の問題は教科指導ですね。
とにかく、明後日の始業式まで体制を整えます。
そういう事ですので、関係の先生方、よろしくお願いします」
だ~~~~。浜岡先生が帰ってくるまで部活は、俺が持つのか?ありえね~。
早めに校長と談判して、なんとかしないとまずい。
病院から帰って来た校長は、肩を落として見るからに疲れていた。
「あの、校長先生、顔色がお悪いようですが、大丈夫ですか?
スポーツドリンクでも飲まれますか?」
いえ、大丈夫と力なく笑う校長だった。
思ったよりも入院が長引きそうだという話だ。職員室はおおわらわになっていた。