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「はい、いいですよ、関口様」
雨宮さんの優しい声で目が覚めた。どうやら僕はマリオの映像を観ながら、知らないうちに眠ってしまっていたようだった。部屋の音楽は鳴りやみ、ゴーグルには真っ黒な画面が映し出され、その画面の中央には
GAME OVER
という文字が書かれている。
「ゴーグルとヘルメットを取ってください」
言われるがままに僕はそうした。雨宮さんと窪塚が、すぐそこでにこにこと笑っている。
「無事、夢のエネルギーを吸い取りました。ありがとうございます」
「小説家!非常にいい!非常にいい夢ですな、ん、ん。これをもらう子供はきっと喜ぶでしょう」
「ああ、そうですか」
僕は椅子から降りながら、自分に何か特別な変化が起こったか、自問自答してみた。何の変化もない。
「なんだか、吸われる前と何も変わらない感じがしますけど」
窪塚が微笑みながら答えた。
「今の今すぐ、これまでとの違いが感じられるっていうことは、そうそうないものです。ただ、これから先、小説家になりたいと強く願ったり、そのために小説を書いてみたりすることは無くなるでしょう。仮に小説を書いたとしても、小学生の作文と変わらないレベルの作品ができあがるだけです。その時、実感していただけるでしょうな」
「そうですか」
寝てしまったこともあり、なんだか夢を見ているような気分だった。
「関口様」
雨宮さんが口を開いた。
「本日は本当にお疲れ様でした。お約束の代金はすでに関口様の口座に振り込んであります。お帰りになって、ご確認ください」
ドリームワークス社を出ると、僕は雨宮さんに言われた通り、セブンイレブンに入って銀行口座を確認してみた。確かに六十万円余りが振り込まれていた。その夜僕は、すし三昧で一人で寿司を食べた。




