開始
いつも着ているピンクのひらひらドレスのロリ女神は衣装に似合わない冷ややかな笑みをうかべて、同じく冷笑を浮かべる男と見つめあって座っていた。
彼がロリ女神の使徒、アルト・クロウになる予定の者。
場所はお菓子でできた部屋。
板チョコの天井氷砂糖の窓、座っても何故か壊れないカステラのソファー、ビスケットのテーブル。
童話に出てくるお菓子の家が、魔女の家なのと同様に、このお菓子の部屋の主も根っからの悪魔。
それに呼ばれた男も、もちろん只者ではない。
地球において自分は転生者だ、大聖人やなんだかんだの生まれ変わりなどと言っているのは大抵まがい物だが、この男は正真正銘、過去の英雄が現代に生まれ変わっていた者である。
もちろん死んだ後もつき従う忠実な従者が彼の後ろに控えている。
ただ乱世において始めて開花する才能をもてあまし、彼らは殺人犯としてロリ女神により処刑されてここにいた。
「選択肢は無い、我の使徒になれ」
「断る、俺は誰の下にもつかない」
「下につける気は無い、好きなようにしろ。こちらが勝手に加護をつけるだけだ」
「ほぅ、なら詳しく聞いてやろうか」
この男の性状を歴史ではっきり知っているロリ女神は、向こうの世界で自由にさせたとき、どのような結果がもたらされるか、簡単に予測がついていた。
強欲なこの男はおそらく全てを自分のものにしようとするだろう。
その過程で魔王を倒すのもよし、他の神々の邪魔をするのもよし。
最の終的に元邪神の使徒の誰かが魔王を倒せばよいので有る。
ロリ女神からゲームの攻略本と変更点の解説書を読んでいた男は、ふーと重い息を吐いて本を閉じた。
「ステータスの合計は俺も40固定で、女神の加護で一つだけ10に上げれるのだな?」
「そうだ。我の加護の場合、敏捷が1でも10に上げることができる。だから合計49で、王族などより9も多くなる」
「それだけでは不足だな。敏捷以外を10にしろ」
「不可能だ。それは魔王にしか許されない」
「だから敏捷を-20に下げろと言ってる。出来るだろう」
「ふむ、最初に数字を打ち込めば出来なくもなさそうだ。試みてみよう」
こうしてアルトのステータスは魔王並みの数字が並んだ。
体力10、力10、器用さ10、敏捷**、知力10、魔力10、魅力10、ロリ女神の加護
表記がおかしくなったが敏捷の実質値は10であった。
「それで、ジョブは【盗賊】、固有スキルは【強奪】をもらおう」
「承知した」
【強奪】は他者のスキルを奪うスキル。
同じ相手から2度目を奪うことが出来ないし、同じスキルを奪うことも出来ないが最強のスキルの一つである。
神と使徒になることを承知した男は同時に考えていた。
ほかの神の使徒からオリジナルスキルを奪えば、自己強化とライバルの弱体化の一石二鳥。
戦略も戦術も単純なほうが上策である。
話が付いた二人は、お互いの中に自分と同質なものを見つけ出してにやりと笑い合った。
一方、ロリ女神から情報をもらったドジ女神も自分の使徒ヘルマンを強化した。
体力10、力10、器用さ**、敏捷10、知力10、魔力10、魅力10、ドジ女神の加護
ドジ女神の守護が器用さの上昇なのは、ジョークでしかなかったが使徒の能力は笑い事ではなかった。
ヘルマンのジョブは【奴隷商】、オリジナルスキルは【支配】、彼の趣味と性向がそのままの凶悪さと低俗さだった。
さて、ドジ女神にいいように利用され弱体化された恋愛の女神は、のこった神力を振り絞って賭けに出た。
「転生!」
人とかわらなくなってしまった神力を逆に利用して、自分が転生したのだ。
転生先は西の大国ゼビュロシア帝国のクリスティーヌ皇女。
ゲームでは最終段階でプレイヤーのパーティーに加わると運営に告知されたNPCキャラクターで、その気高く慈愛に満ちた美しさによってゲームの公式ホームページの看板キャラクターになったりもしたが、どこかに幽閉されていて、誰も仲間にしたことはおろか見たこともない幻のキャラクターだった。
細身の長剣を使って戦えるし、補助魔法も治癒魔法も完ぺきな、ダイスの補助をするのに最適な人選だったのだが……次の世界でも閉じ込められてしまった。
恋愛の女神の転生に引きずられて、自分も転生せざる負えなかった腐の女神がそれを良しとしなかった。
女神はまだ確定していない世界を自分の都合がいいように書き換えた。
そして叫ぶ。
「転生!」
腐の女神は、クリスティーヌ皇女の双子の兄として転生した。
腐の女神はBLが好きなのだ。
ゲームにおいて、彼はランダムにあちらこちらに現れて、その場でクエストを出したり、イベントを開始したりするキャラクターで、こちらはイベント期間だけプレイヤーとよくペアを組むことがあリ、妹と同じくオールラウンドなキャラクターだった。
平和の神など地球お法を管理せねばならなくて棄権する神も何柱かあったが、その他の神々も思い思いに使徒を転生させて魔王退治の開始に備えた。
このとき、最後まで使徒を選定していなかったのは最終的なチェックをするという理由でエロジジイ神だった。
神々はただ見学するだけのものも含めて、公平を尽くすためにみんな12年間の休眠状態になる。
もともと不死の神々からすれば12年などあっという間に過ぎるのだ
この期間に眠った神々にできるのは世界を上空から俯瞰することと、自分の使徒と夢の中で対話することだけだった。
最後まで使徒を選定していなかったエロジジイ神は、腐の女神が転生する皇子の前にいつものやすっぽい着物姿で立った。
左手を皇子にかざし加護を与える前段階として使徒にした。
「加護はもらっておくけど、何の用なの?」
「そなたをわしの物にしようとおもってのぅ。かわいがってやるぞ」
「私があんたの物になんてなるわけないさ。年の差があっても男女間のはもう一人の扱いだし、じじいはおことわり。あ、あんた! なにするんだい!」
「妨害行為はできないのじゃが、自分の加護を与える使徒に援助はできるぞ」
エロジジイ神はクリストファー皇子のステータスを上げた。
体力10、力10、器用10、敏捷10、知力-20、魔力10、魅力10、腐の女神の加護
「ふぇっ、ふぇっ、ふぇっ。もうまともに思考できるまい。残虐なるものよ、無慈悲なものよ、もうすぐ全てはわしのものになる。ふぇっふぇっふぇっ」
エロジジイ神は、皇子に自分の加護をつけた。
体力10、力10、器用10、敏捷10、知力**、魔力10、魅力10、腐の女神の加護、エロジジイ神の加護
「もともと愛などという物に定まった形は無い。異端だ、変態だ、気持ち悪いなどとののしられる醜いわしも根本は同じ愛の神。純愛と腐が一つになったならばわしもまた一つになってどこが悪い。その美しい神格、わしのものにしてやるわぃ、ふぇっ、ふぇっ、ふぇっ」
エロジジイ神のはげた頭が漆黒の髪に覆われ、頭を一振りすると腰まで伸びる。
しわくちゃな肌からしみが消え張りが出る。
右絵画にまたの足がすらりと伸び、前かがみの姿勢が真っ直ぐになる。
伏せた顔を上げると腐や恋愛の女神とそっくりな顔立ち。
「楽しみは後まで取っておいて、今はこのぐらいにしとくかのぅ」
美しい青年神はまたもとのエロジジイ神にもどった。
確かに生命の神から分かれた愛の神々は同根であり、エロジジイ神が言うように同一といっていい。
新しい世界を創るにあたって神々の序列、役割を再編するにあたってエロジジイ神は愛の神との融合を考えていた。
女神を使徒にしてエロジジイ神のために魔王を倒させる。
新しい世界で魔王を倒した勇者の守護者として信仰を集め、真の最高神となる。
地球人を快楽によって堕落させるところから始まったエロジジイ神のたくらみは着々と進んで行った。
ただエロジジイ神にもたった一つの危惧が有る。
地球において恋愛を信仰する若い女性たちは、徹底的にエロジジイなるものを嫌っているのだ。
それに対して密かに対策もして有る。
新しい世界では身分が固定して有るので、自由な恋愛など認められないし、腐などというふざけた物がはびこる余地も無いようにした。
それらは豊かさがあってのものなのだ。
与えられる愛だけに満足することだろう。
エロジジイ神はもう一度計画を見直し、満足して眠りについた。
使徒が全員そろったところで新世界の行く末をかけたゲームが始まり、使徒たちは同時に覚醒した。
6才のダイスと同い年のアリスはプレイヤーのスタート地点とされる初級者の拠点アイングラッド郊外の小さな村ハツホに有る自宅のベッドで目覚め、遠く離れたゼビュロシア帝国の帝都でも双子の皇子と皇女が6才の朝を迎えた。