表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲームの神はやりたい放題  作者: よもぎだんごろう
序章 キャラメイク?
2/5

転生

1/11書き直し

 亜理紗が目の前で殺された。

なのに俺が止った呼吸を再開しだしたときには、亜理紗の立っていた場所には巫女の集団はおろか、血の汚れ一つなくなっていた。

 俺の横で見ていたサラリーマンに尋ねた。


「今の見ましたよね! 刺されて倒れたのは俺の妹なんです」

「ああ見てましたよ、あなたの妹さんでしたか。おめでとうございます。いやぁフの女神様に選ばれるなんてものすごいご出世じゃないですか」

「包丁で刺されたんですよ!」

「刺したのは女神様の御使いじゃないですか。痛くないはずですよ。うちの娘もぜひ刺されたいと言っていますが」


 痛くないなんてそんなはずは無い。

 亜里沙は……。

 俺はたまたま近くにいた2人組みのおまわりさんに訴えたが、再びありえない反応を返された。


「おめでとうございます」

「よかったですねぇ」


 こいつら何を言ってるんだ?

 何の冗談だ?

 いや冗談であって欲しい。

 両手を血の気がなくなるまで握り締めたおれの肩をたたく人がいた。


「あんたまだまともだね、田舎から出てきたんだろ。まぁついてこいや」


 ステテコ姿に茶色の腹巻、無精ひげを生やしたおっさんが、じっと俺を見つめていた。

 なぜかその目に逆らえず、おっさんの後をについて狭い路地を進んでいくと小さな社があった。


「入れ」


 トンと背中を押されると、ボロッちいアパートらしき4畳半の畳の間にいた。

 ちゃんと靴を脱いで正座している。

 どうなってるんだ?



「よく来たな天界へ。神様直々にむかえにきてやったぞ。おぃこらぁ! 逃げるな!!」


 このぼろ部屋が天界だって?

 さっきも女神がどうとか。

 得体の知れないなにかを感じてとっさに俺の体は無意識に逃げようとして立ち上がったのだが、いきなり硬直して直立不動になる。

少なくとも人間の技でないことはわかった。

 しかし神様だって? 俺はこんな場外馬券売り場が似合いそうな風貌の神を聞いたことが無い。

 それより動けない。


「逃げるな、俺はサイコロの神だ、昔は運命の神とも言われていたがな。昔すごろくをした事が有るだろう、あのときお前が何度も拝んだのが俺だ。それよりまあ座れ。妹を助けたいんだろ?」


 名前から考えてせこい神様らしいが、すごく温かみの有る渋い声でおっさんは話し掛けてくれる。

 見た目もセリフも相変らず怪しさ100%だが、なんとなく話を聞いてみようかという気になった。


「まったくこの世界でいま起きている現象について、全く何も知らないとはお気楽なやつだ」

「そうなんですか?」

「今の人間は選別されたニュースしか見ないから仕方が無いが、テロリストによる核弾頭付きミサイルの乱射でこの地球は滅びかけたんだよ」


 ?


「え?……俺、生きてますけど」

「元邪神どもが介入して時間の流れをおかしくしたんだ」


 ?


「具体的に言うと、ホワイトハウスを目指したミサイルは後一万年後に目標に着くし、国会議事堂の中庭で炸裂中の核弾頭は直径5メートルくらいまで爆発しかけたところで時間が止っているんだ。そんなのが世界のあちらこちらで起こっている」

「……ありがたい話じゃないんですか? それが邪神のしわざでも……」

「だから、他の神々は文句をつけられないんだよ! それをいいことにやつらは各地に自分の神殿を建てて直接支配しているんだ……おぃ、馬鹿な世襲政治家よりましだと思っていないか? お前は邪神の信徒に自分の妹をどうされたんだ。思い出せ!」


そうだった。

連れ去られた亜理紗を何とかしないと。


「とにかく聞け。エロジジイとか変な神殿がいくつかあっただろうが。あれの主が邪神だ。邪神や魔神などというものは、我々と違ってもともと人間社会に直接介入できるんだが、お前たちがやつらを信仰したせいで力をつけて地上にいながら神に昇格したんだ」

「エロジジイなんて信仰するはず無いじゃないですか」

「それがしたんだ。もともとは人間どもが現実逃避してゲームの神々などという怪しげなものを信仰したのが始まりなんだ。現実はどうでもよいからと架空の世界で、つまり”剣と魔法の世界XI”というゲームの世界で、始めたばかりのプレイヤーに操作説明をするロリ女神、ゲーム内で人騒がせなイベントを起こすドジ女神やヘンタイジジイ神、の3柱が核戦争の恐怖でゲームに逃避したやつらの信仰をさらに集めてたちの悪い邪神と融合して実体化してしまったんだ」


「妹を連れて行ったのはそのゲームの邪神たちじゃなくて、負の女神とか言っていましたけど」


 俺は亜理紗に対して死んだとか殺されたなどという表現を口に出せない。

 それが伝わるのかサイコロの神は悲痛な顔になるが、気が付かないふりをして話を進める。


「くさると書いて腐の女神だ。あいつについてはBLとか俺にもよくわからない概念で発生した邪神だ。分かっているのは、お前の妹は殺されて魂を取り出され、別の世界で腐の女神の使徒として転生する事になったということだけだ」

「どこかで生きているんですか?」

「邪神の使徒に転生させられてでは有るがな。資格の有る魂を持つものだけが使徒に選ばれる。生きているというか魂が無事だというのは間違いないのだが、いま俺の手が届かないところにいるのは確かだ」

「助ける方法は?」

「この世界に生き返らせることはもう出来ない。それが生者と死者の掟だ……が」


 怪しくなった言葉尻に少しの希望がみえた。

 俺の魂が叫ぶ。


『お願いします! なんでもします!!』

「お前が彼女の存在する世界に行くことは出来る。つまり……死んでもらうことになるぞ」


 亜里沙は最期に俺に手を伸ばしたのだ。


 たとえどこにいようが俺が守ってやる。

「それなら明日お前は言われたコースを時間通りに歩けばいい。ついでに今の世の中も見学しておけ。最後に出来るだけ痛くないように俺が殺してやるから」


 そう、その異世界に使徒として転生するには神かその信者に殺されねばならない。

 それが定められた掟ということらしい。


 向こうへ行く前にしなければならないことを教えてもらい、土産をもらって別れを告げると、瞬きする間に自宅の前に立っていた。

 家の周囲にはなぜか紅白の幕が張ってある。

 不思議に思って玄関の戸をあけ、中に入ると俺はとんでもないものを見てしまった。

 亜理紗の死を、神に選ばれたとかで酒を飲んで祝う両親と親戚どもを……。

 くそったれ。

 それでこの世界に未練はなくなった。

 俺も神に召されていくのだから、喜んでくれよな。


 心の中だけで両親に別れを告げて俺は部屋に一人閉じこもり、サイコロの神様に土産にもらったゲームの攻略書に没頭した。

 要所に付箋が付けられて、日本とゲームと俺が行く世界とで異なる重要箇所に注意書きがしてある。

 ゲームをほとんどしたことがない俺のためにサイコロの神様が注釈まで書き加えてくれたものだ。


要約する。


 俺が行く世界は魔法というものが日常に使用される、日本人が想像する中世のヨーロッパを基に創られている。

 魔素という科学では説明できない何かが全ての物の基礎にあり、それをコントロールする力が魔力という。

 ゲームでのレベルアップは経験値を溜めることによって起きるが、向こうの世界で言うレベルアップはこの魔素を溜めることによって起こる。

 魔素は大気にも大地にも広く分布していて、食事や呼吸しているだけでも少しずつ溜めることができるが、より魔素を溜め込んでいるモンスターを倒して吸収するのが手っ取り早い。

 しかし向こうの世界では最初に設定された身分と、ステータスと呼ばれる数値で人間の価値がほぼ決まってしまいステータスが低ければレベルアップによる恩恵も少ない。

 ステータスの中で一番解りやすい筋力を例にとると、単純に剣を振り下ろすときに発生する物理攻撃力は、筋力×レベルに比例する。

 つまり生まれつき筋力のステータスが10あれば、平均的な住民の筋力を5とすると半分のレベルで同じ攻撃力を持つことを意味する。

 この差は少ないように見えてかなり大きい。

 レベル50の勇者が、レベル100の冒険者と対等の剣を振るうのだ。

 レベルをひとつ上げるために必要な魔素が前の段階の10倍である事を考えれば更にその差は開く。

 レベル50の勇者はレベル100の冒険者と同じ攻撃力を持つのだから、レベルを一つ上げるのは一般よりはるかに容易である。

 それに比べて一般の冒険者は100から101に上げるまでに果てしない努力を積み上げねばならないのだ。


 俺が転生することになるダイスのステータスはサイコロを振ってすでに決定されてある。

 奇数が出れば最低値の3、偶数が出れば最高値の6。


 体力3、筋力6、器用さ3、敏捷6、知力6、精神力3、魅力6。


 一般人のステータス合計よりも2も少ない。

 サイコロの神は人である俺に土下座して頭を下げた。


「すまん。俺の力不足だ。俺の使徒はサイコロでステータスを決めなければならない。本来ならば最低限度の3を基準にしてサイコロを振ればいいのだが、やつらがあくまでも基準は1だとクレームをつけてきた。何とか一つも1が出ないように妥協させた結果がこれなんだ。オリジナルスキルも【運命のサイコロ】しかつけてやれないし、オリジナルジョブも【ギャンブラー】しかつけてやれない。ほんとうにすまん」


 日本においても職業に就いたりすることによってその職業で必要な能力は熟練することによって高くなる。

 向こうの世界ではもっと極端に、たとえば商売をしていれば【商人】のジョブ、つまり職に付くことが出来て商業活動にプラス方向に補正が入る。

 具体的には【値引き】と【利潤上げ】のスキルが手に入り、物を買うときに定額の値引きと、売るときにも定額の値上げ分を勘定に入れることが出来るようになる。

 どれだけ値引きできるかは【値引き】スキルのレベルによるが、このレベルは非公開で地道に取引を繰り返してあげていくしかない。

【ギャンブラー】の効果は、ドロップ率+2%、生産性効率+2%。

 つまりモンスターを倒せば得られるアイテムが2%増しになり、生産するときに失敗する確立が2%下がる。


もう一つ、内容がよくわからないが【サイコロの神の加護】が付いている。

俺それだけで十分だ。

神に頭を下げさせたことが申し訳ない。





 次の日、自室の4畳半のねぐらでサイコロ神は、いつ供えられたのか分からないほど古い少し酸っぱい香りのする日本酒を取り出して一つしかない茶碗に注いだ。

 彼にお神酒を供えてくれる信者はもう長く現われず、酒は古くなったが信者の真摯な祈りが込められている。

 厳粛な気持ちで真摯に祈り 、開け放ってあった窓から茶碗の中身をぶちまけた。


 天界で神がくしゃみをすれば嵐が起こる。

 今は大して力の無いサイコロ神が酒をぶちまけたのだが、集中豪雨が下界を襲った。

 局所に振った雨は地面から下水道に集まり、その限界を超えて吹き上がる。


 翌日、サイコロ神の言いつけどおりに国会議事堂で炸裂中の原子爆弾を眺めたりしながら普通に道を歩いていた俺は、スポットライトを当てられてエレベータに乗せられたような感覚があったと思えば見覚えの有る4畳半、つまり天界にいた。


「俺は死んだんでしょうか」

「そうだ、集中豪雨を処理しきれなくなった下水がマンホールのふたを吹っ飛ばしてな。ちょうど乗っていたお前は頭から地面にたたきつけられて……そういうわけだ。痛くなかったろ」

「はい」


 もっとまともな死に方はなかったのかと思うが、本当に痛くなかったので口に出さなかった。

 亜里沙も本当に痛くなかったらいいのだが。

 目があったサイコロの神は苦笑いを返してきた。

 どうも考えていることが伝わっているらしい。


「さてと、お前が転生するのは渡した本のゲームそっくりの剣と魔法の世界だ。全てが数値によって定められているが、努力と知恵によって何とかなると俺は信じる。運は少しだけだが俺の加護によってお前に有利な点だがそれは信じるな」


 【ギャンブラー】をくれた運の神様の癖に運を信じるな、か。

 いつもの苦笑いではないいい笑顔でサイコロの神は手向けの言葉をかけてくれた。

 実は、運命の神にしか見えない隠しステータスの運というものが【サイコロ神の加護】によって10になっていた。

 たとえ最大値の10であっても運という物は気まぐれなものであり、頼りにするなという意味で大輔には教えなかったのだった。

 それにこんな数値で表しきれない本物の運などという物は何者にも理解できないものなのだから。


「向こうにいる種族は天族、魔族、竜人族、エルフ族、ドワーフ族、獣人族、そして人間族だ。お前は人間族のダイスとして転生する。ではダイス、いくぞ。転生!」


 本来はここで俺の魂が転生の祭壇に真っ直ぐに飛んでいくはずだった。

 だが世界の時が止る。

 別の神が俺の転生に介入してきた。


 そして世界が動き出し、俺の魂は転生の祭壇にたどりついた。


 オギャーッ!



 俺はある程度豊かな村の農民オットーとその妻カカの長男ダイスとしてその世界に産まれた。



「全ての使徒は同時に覚醒する。負けるなよ。絶対に」


 サイコロ神はそう励ました後、改めて俺のステータスを見て首をかしげた。


「魅力が10だと? それにあいつになぜ俺の加護以外に【恋愛神の加護】なんてものがあるのだ? 恋愛の女神は何をしたんだ。これは問いたださねばならん」 


 ひとりつぶやくサイコロ神だった。

大輔の死に方で、サイコロ神の力や性質を伝えようとしたけど、無理があるやろか?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ