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ゲームの神はやりたい放題  作者: よもぎだんごろう
序章 キャラメイク?
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創世

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 地球の裏側で、たった1人のテロリストが主要国の軍事コンピューターをハッキングして無差別に核弾頭をばら撒くぞと宣言した……のだが、俺を含めた大部分の人間はそんなことはちっとも知らなかったし、知っていても気にも留めなかった。

どうせ嘘だろう。



 そしてテロリストが宣言した世界の終わる日がきた。



 死んだ……

 だめだ、こりゃ……

 ……


 ネットに接続するためのルーターがお亡くなりになった。

 つまり壊れたのだ……。

 地方の県庁所在地の下宿に住む俺、海野大輔うんのだいすけ19才大学生は早朝から思いっきり困惑していた。

 仕方が無い、久しぶりにテレビでも見るか。


『6時のニュースをお伝えします。指名手配中の容疑者が逮捕されました。首都圏での検問は全て解除されます。続いて政府は夏の電力不足を解消するため、国会議事堂前で炸裂中の核融合弾による発電を……』


 ? なにこのわけの分からないニュース。

 ! 4月1日か……みんなニュースはネットで見るし、新作のアニメかドラマしか視聴率が取れないからなあ。




 俺にはいつもの続きの一日だったが、同時刻、全く別の世界、集った神々にとっては大真面目に大変な日であった。



 ”神とは何か?”


 それに答えることができるのは神しかいないし、答えを聞くことができるのは選ばれたものだけだ。

 しかし、そこに集って言い争っていた者たちは、少なくとも新しい世界を創る力を持っており、まさしく神としか表現できないものたちだった。

ただしオンラインゲームの攻略本なとというものを手にしていたりするのだが。


 前に立つ3柱の神々が取り巻く神々に対して新しい世界を創るに当たっての説明をしている。

 凛とした明るい声だ。


「諸兄らはまたしても失敗し、人類は堕落した。毛深きものの神、鱗に覆われしものの神、草花の神、その他あらゆる生命の神々からの陳情により大いなるものから命じられて我ら3柱が直々に介入し世界の滅亡は回避した。次に新しく作られる世界は諸兄らの手元に有る資料どおりとなる。質問が有るなら後で受け付けるが、その前に簡単に説明しよう……。えっと次の原稿持ってくるの忘れちゃった。えへっ」


 原稿を読みながら並み居る神々を相手に話をしていたのはドジ女神と名乗る神。

 失敗しちゃった、とかわいく舌を出したりしているが、もともとは人災を司る邪神であった。

 地球温暖化やら原子力の事故というような目立つ大事件以外に、不用意に捨てられたゴミなどによる公害など、人災は天災を上回る深刻な環境破壊をもたらしている。

 それによって被害を受けた生命がどれだけ存在するかを考えれば、人災の神が今どれだけの力を持つかたやすく想像できることだろう。

 女神らしいローブに身を包んでいて、容姿やしぐさは陽気で明るい高校生くらいの女性のものであるが、その実戦争などを司る暴力の神でさえ恐れる悪魔の王がその本性である。

 文明が発達した今は些細なミスによる想定外の大災害を引き起こし、どれほど強力な軍事基地だって原子爆弾や細菌兵器の保管ミスひとつで吹っ飛ぶのだ。

 今回、核誘導弾による世界滅亡の危機に際し、大いなるものは世界を守護していた神々の序列をひっくり返して対応させることにした。


「しかたないのぅ、わしから説明するぞぃ」


 代わって語りだしたのは、3柱の内唯一の男神であるエロジジイ神、とぼけた名前同様に禿げ上がった頭の周囲に少しだけ白髪を残し、なぜか黒いちょび髭をはやしたとぼけたいやらしい容貌をしているが、もともとは享楽の邪神、面白ければ何でもありの迷惑この上ない悪魔である。

 これも表に出てきていい存在ではないが、人々が今良ければとりあえず良いとの風潮を世に満たした結果、世界の裏からしゃしゃり出てきてしまった。


「今はわしらの力によって世界の滅亡を押さえつけておるが、これは不自然なことであって長くはもたないのじゃ。よって新しく世界を創りそこに全ての魂を移動させることになった。その世界は人間以外にエルフやドワーフなどの妖精たちなどが住むファンタジーの世界じゃ。人間どもは現実世界のことわりよりもネットゲームの社会のほうを好ましきものとして選択しておる。よって新たなる世界はそのゲームに準じて創られることになる。その詳細が各自に配布した攻略本じゃ」


 集まった神々は、馬鹿馬鹿しいと思いつつも、大いなる存在に認められたこの計画に異議を唱えられない。

 実際、世界の滅亡の責任は誰に言われるまでも無く、ここに集う神々にあるのだ。


「次の世界では王族を頂点とする貴族によって統治されることになる。人々は生まれながらに定められたステータスの数値によって平等な能力が与えられる予定じゃ。ステータスとはその本にあるように、体力、筋力、器用さ、敏捷、知力、精神力、魅力の7つの力のことをいう。それぞれの力は1~10の10段階とする。王族及び貴族は力の合計値が40。庶民は35と固定するのじゃ。上に立つ者は優秀でなければならぬだからこの差は絶対に必要じゃと思う」


「確かに上に立つ者は優秀でなくてはならぬ。しかし平等な社会をつくるために人の能力を数字で管理して全て同じにするんだと? 同じ人間ばかり創ってどうするのだ!」

「お前さんは英知の神だったかのう。お前さんなら分かってくれるじゃろ、大人も子供も、男も女も命の重さは平等じゃ。だから生まれた時の才能を同じにするのじゃ。もちろん個性や努力も考慮しておるぞ……ステータスの数値のばらつき方で得手不得手ができてこれが個性となるのじゃ。しかしステータスの合計値が同じなら皆平等といえるじゃろう。このステータスに経験によって得られるレベルを掛け算したものが実際の各人の能力になるんじゃよ。なお経験の量は集めた魔素によって定量化するから、努力がすぐに報われる世の中になるんじゃ。この辺は人間どもが作り上げたゲームとやらを参考にしておるので今のわしの姿もそれにしたがっておるのじゃ。人間どもは現実世界よりゲームの仮想空間のほうが良いとのめりこんでおるぞ」


 疑問を発した知的な男神にエロジジイ神が応じ更に続ける。


「このステータスによる身分の固定化によって少なくとも同族の争いはなくなるのじゃ。下剋上などと言われる時代、どれだけの血が流れたのか知らぬわけではあるまい。一般民衆より知恵や力を持った貴族や王族、彼らが治めればよいのだ。民主主義や社会主義、平等についていろいろ御託をぬかしおるくせに執政者が腐っていつの間にか世襲制がはびこり愚か者が上に立つ。地球で嫌というほど見ていたであろう」

「そこまで言うなら、一つやって見せろとしか言えないな。だがもう一つ確認しておきたい。才能の平等化に例外はないのだな?」

「あの世界に行くわれわれ神の使徒には神の加護という形で力を与えようと思う。後ろに書いてある魔王を退治するのにも必要じゃからな。それにあまりにも融通が利かぬのも面白いものではない。だからあの世界には、ごくまれにしか手に入れることができないステータスを強化できるアイテムもその世界には存在することにしたぞ」



 しばらく間をおいて、やさしそうな微笑みをいつも浮かべている女神が尋ねた。


「科学の代わりに魔法でも良いでしょう、しかしなぜ先ほどの魔王などという世の中を乱すものが必要なのですか?」

「平和の女神さんか。文明の発達や、人々の団結には敵性物が必要じゃ。人は敵があって団結する生き物なのは名ばかりの平和の影で何度も裏切られ続けたそなたが一番よく知っておることじゃろう。退廃した世に努力によって退けうる災害としての魔王、さらに人々の希望としての勇者。素晴らしいではないか。ましてつまらぬことで喧嘩などをして下界に天災という災厄をまき散らしている神々の気まぐれよりは遥かにかわいいものではないか。それは置いといて、最初の魔王討伐はゲームで言うβテストになる。我々神がそれぞれに使徒を立て、加護を与えて勇者として魔王退治を競うのじゃ。最初に魔王を退治した勇者の守護神が主神となり世界を治めればよいじゃろう」


 この場にいる神々のほぼ全ては、この3柱が主導権をとることを良く思っていない。

 魔王退治レースはその不平のガス抜きである。

 しかし怒れる雄々しい神が吼える。


「そこまでは一応納得してやる、しかしなぜ我が魔王の守護たる悪神なのだ!」


 エロジジイ神の隣で、静に佇んでいた幼い女神が凜として応じた。


「元、正義の神か。そなたが押し付ける正義によってどれだけの弱者が傷ついたのだ。古くは魔女狩り、最近では自爆テロ。これは逆の立場から眺めてみよとの、大いなるもののおぼしめしである!」


 このロリ女神と今は呼ばれるもの、元はといえば盗人の神である。

 さらに命を不当に【奪う】という意味で殺人の神でもある。

 無邪気な姿が実は悪意無き罪を顕している。

 つまり正義の神と常に争っていた最悪の魔神。

 そんな彼女の大喝で、正義の神であった魔界の守護神は黙ってしまいエロジジイ神の説明は続く。

 己の正義に自信の無いものが多い昨今、このロリ女神のほうが正義より信仰を集めてもいるのであった。


「使徒を全て返り討ちにして魔王を守りきればそなたの勝ち、期限はいっせいに世に散った使徒たちが時から12年。それなら文句はなかろうが……」


 このように神々の立場や力が逆転した理由は地球に有り、そこも神々の話にチラッと出たようにおかしなことになっていた。



 ここはどこなんだ? 


 久しぶりの帰郷とはいえ毎日小学校まで通った通学路だぞ、道を間違えるなんてありえない。

 東京の下町で俺、海野大輔うんのだいすけ19才大学生は思いっきり困惑していた。

 今朝は下宿を出たときから履いた靴の紐は切れるし、黒猫が横切るし、霊柩車が……そんなことはどうでもいい、どうなってるんだ。


 世の中一流企業に入ってもいつクビになるか、あるいはつぶれるか先は見えないし、それならば公務員になったとしても政治家が煽り立てるおかげで世間の目は冷たいし待遇は落ちる一方なようだし……。

 ならばと、俺は駅弁大学などと言われる地方の国立大学で、理科教師になるべく勉強に励んでいた。

 俺は夫婦ふたりで町工場を営む両親がかなり年老いてからできた子で、就職浪人をする余裕がなかった。

 さらに下に、養女となった高校生の義妹までいる。

 金が無いので、空いた時間はすべて24hrスーパーのレジ打ちのバイト、サークルなどへの参加はもってのほか。

 ものすごい数の人と接しながらも、上司に当たる主任ともあまり会話も無く”いらっしゃいませ”などの営業会話しか口から出さない日々を送っていた。

 もっとも同い年の友人達は、現実そっくりのゲームをするのだとかで自分の部屋にこもったきりなので世間知らずなのは俺と大差が無いはずだ。


 さて大学の春休み中、そのスーパーが改装することになって久しぶりに在来線と新幹線を乗り継いで最寄の駅まで戻ってきたのだが車内の人々の会話がどこかへんに感じる。


「ロリ女神様って見かけによらず凄腕だよね、窃盗や犯罪の検挙率100%って……おかげで万引きが無くなったぶん物価が下がったんだろ」

「そりゃ、もともと捕まる方の……」

「しっ、誰かに聞かれたらどうするんだよ」

「しかしさあ、捕まったら即死刑だろ、きのう公開処刑されたあの極悪人は仕方が無いにしてもさ」

「ロリ女神様は間違えないから死刑でいいんじゃね。まあドジ女神様は間違えるかもだけどさ」

「ドジ女神様ってほんとドジだよなぁ、隣の国で親書とまちがえて歴史の教科書渡したんだぜ……お供についていった外務大臣が真っ青になってた」

「ところでお前、公開処刑を見に行くんだってな」

「日本初だからな。かなり美人らしいぜ。あの美女が……」

「お前その顔ちょっと怖いぞ。しかし彼女なにをやらかしたんだろうな。ネットに出てたゲーム会社のシステムエンジニアだろ」


 なにかよくわからない悪夢のような会話が聞こえてくる。

 ロリ女神とか聞き覚えの有る単語で、最初は国内の大手ゲーム会社が合併して作ったゲーム世界の話をしているのかと思って聞き流していたのだが……気になる。


 ???  !


 そうか、今朝やってたエイプリルフールの続きなんだ。

 それにしても、新聞や週刊誌まで……。


 最近のイベントってすごいね。


 山手線を途中で降りて、アキバの本屋さんで買い物。

 読書はダウンロードより本を手に取る方が好き。

 買うつもりなのは雑誌の新刊と妹の亜理紗に頼まれた最近始まった総合オンラインゲーム”剣と魔法の世界XI”のオフィシャルなんとか本。

 日本のオンラインゲームは海外との競争に勝ち残るためにこれ一つに統一されたらしい。

 はっきり言ってよく分からんが、何だこの種類と数の多さは……たぶんこれだろう、一つを手に取った。

 ”剣と魔法の世界I”テーブルトークRPGルールブック、※※年度初版本、金のサイコロ付き。

 原作者サイン有り。

 発行年度がずれた帯で見えないが、原作者のサイン本ってすごいよな。

 土産代わりに頼まれていたので希少価値のありそうなものを買い求めて、再びJRに揺られて山手線を少しはなれて、俺の実家があるはずの駅についたのだがさあ困った。


 何だぁこれは?


 縁結びで有名な神社の鳥居が半分ド派手なピンクに塗られていたのは誰かのいたずらだと思った。

 しかし警察署のあったところにお菓子の家のようなものが建っていて、”ロリ女神分教会”。


 はて?


 役所のあったはずの場所にピンクのラブホテルのようなものと設計ミスしたパルテノン神殿見たいな建物。

 ”エロジジイ地方別院”、”ドジ女神第13神殿”


 わけが分からないので、亜理紗に迎えを頼んだ。


 それなりに人通りの多いドジ女神神殿の前の広場にあったベンチに腰を下ろす。


 10分も待たないで広場の向こうに亜理紗のジーンズ姿が見えたとき、空が日食のように真っ暗になり一筋の光がまっすぐ降りて……亜理紗を照らした。


「神託じゃ、神託じゃ」

「ありがたや、ありがたや」


 近くを普通に歩いていた人々が数珠のようなものを取り出して亜理紗を取り巻いて拝みだす。

 驚いて立ちすくむ亜理紗を包丁を構えた若い男がどこからとも無く走ってきて!

 この位置からでも亜理紗に突き刺さる包丁が大きく見えた。

 俺のほうにすがるような目を向け、手を伸ばしながら倒れる亜理紗がスローモーションのように見えた。

 体当たりされて倒れた真っ赤に染まった亜理紗の体をどこからとも無く現れた巫女の集団が……?






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