護衛騎士の拗れた恋
第一皇女アイリティリアは不遇の皇女だ。
生まれ持った虚弱体質で先は長くないと言われ、親から決して省みれずに王宮の一室に軟禁されているかのように入れられている。
唯一信頼しているお目付役のメイドは優しいけれど情より律を重んじる合理的なメイド。皇女の待遇を良くしろと上司に直訴などしたりはしない。
騎士団から派遣された護衛は片や執事まがいの少々非力な学は高い男と殆ど喋らず表情で会話する医者もどきの女。
護衛は職務を全うするだけの存在なので皇女に情すら沸いていない。
部屋から一歩も出られず緩やかに朽ちていく哀れな皇女。
……それが護衛である私、アナスタシアの皇女に対する見解だ。
先程の情など沸いていないというのは私だけで相方は違うかもしれないが。職務で外には出さない私達を敵視している皇女のことを心優しい彼は兎も角私はどうしても好きになれない。
ベッドの上から我が儘を言うというのも少なからずある。
ふ、と相方の護衛であるユクシノを盗み見た。
皇女の望んだお茶を慣れた手つきで入れる姿はいつも通り格好良い。そして彼が淹れたお茶を皇女は当然のように飲むのだ。
そしてお茶を飲みながら皇女は彼に図書室から本を持って来いと命令する。彼の選ぶ本は皇女が好むものが多いから。
いつも通りの流れだ。
でもいつも通りに見られない自分がいる。
確かな筋から聞いた情報。
『騎士団長の養子であるユクシノの縁談が進んでいる』
そして王宮内で流れている噂。
『第一皇女アイリティリアの縁談が進んでいるらしい』
身元がわからぬ養子とはいえ、確かな実力で次期騎士団長まで登りつめた現騎士団長の息子であるユクシノの縁談の相手は身分の高い女性に違いない。そして特に婚約者もなく彼に見合う身分の女性となると限られている。
……今はまだ、普通に接していられる。
でも、もしそれが確定したらきっと彼と顔を合わせられなくなる。
私は、ユクシノのことが好きだから。
皇女の我が儘で外に出ることに成功した。
面倒なお使いだが、職務上外に出ることが困難な今は有り難い。
手早く皇女の望みの品である有名菓子屋の限定品というものを手に入れて今一番行きたい場所へ向かう。
情報の多く集まる場所、盗賊ギルドへ。
騎士団に所属はしているが私の剣技は騎士のそれではなく盗賊のものだ。今でこそ騎士として働いているがかつて…いや、今も上納金を払う盗賊ギルドのメンバーだ。騎士団長はそれを知りながら私を騎士として雇い皇女の護衛騎士にしているのだから本当に皇女は不遇だ。
そんな他愛ないことを考えながら盗賊ギルドの受付である酒場の親父に秘密の暗号を伝えて酒場の奥に通してもらう。
陰鬱とした雰囲気、懐かしい裏の空気を感じながら目当ての人物の所へ素早く向かう。久しぶりに会った目当ての人物……ギルドマスターに情報料を払って情報を聞く。
そこでわかったことはある意味予想通りで、そうあって欲しくなこことだった。
『ユクシノと皇女の縁談が進められている。それも騎士団長によな半ば強引なやり方で』
私は、どんな顔で彼に会えばいいのだろうか。
ユクシノが幸せになるなら私はそれを笑って祝福しよう、そう思っていたけど。思ったより胸が苦しくなる。
泣き出しそうになる気持ちを抑えて、努めて無表情を保つ。
事務的に反応すれば大丈夫、そう思っていたけど彼に心配そうに話しかけられて思わず逃げ出してしまう。
皇女との縁談を、どう思っているのか。
そう聞こうと思っていたのに。
駄目な自分に溜め息をつきつつまだ聞きやすい皇女から縁談についてどう思っているのか聞こうと菓子を片手に部屋へ向かう。
部屋をノックして開けようと扉の前に立つとそれなりの防音をしているはずの部屋から皇女のつんざくような喚き声が響いた。
そっと聞き耳すれば少しずつ聞こえてくる会話の断片。
どうやら会話の相手は騎士団長で、会話の内容は死んでもユクシノとの縁談は認めないというものらしい。
皇女が縁談に乗り気でないのに安心すればいいのか、複雑に思えばいいのか。
タイミングを見計らって部屋に入れば騎士団長は話を切り上げて去っていった。
ーーあとで自分の部屋に来い、と私に言って。
皇女を殺す。
騎士団長の話は簡単だった。
庶子で争いの種にしかならない皇女なぞ不要だと。
本心がどうかはわからない。
知る必要も、ない。
『皇帝の許可は頂いている』
騎士団長はそういって私に同行を求めた。
護衛も敵なのだと皇女を絶望させるためなのか
私が皇女を逃がす手引きをしないようにするためか
あまり頭の良くない私にはわからない。
ただ、こんな日がいつかくると思っていた。
皇女の元に騎士団長とその補佐2人と共に向かう。
入った部屋にはメイドと彼と、前から皇女の元へ来ていた第一皇子の護衛騎士がいた。
騎士団長が皇女へ処断すると告げた。
悟っていたのか諦め顔をしてその言葉を受け入れた皇女の首を跳ねようとして……その刃を彼に止められた。
結果だけ言おう。
彼は、皇女とメイドと皇子の護衛と彼は逃げ出した。
やはりこうなると悟っていたらしいメイドの手引きで逃げていった。
盗賊ギルドなどで情報を集めたが、国外へ逃げたらしい。
そしてこの国に戻る気は、ないらしい。
……彼は、皇女を選んだ。
彼は私の手を退けて、皇女を抱いて逃げていった。
……許さない。
騎士団長は皇女を殺すことを私に命令した。
補佐達も付けてくれるらしい。
なら私がやることは、一つしかない。
ユクシノ。
あなたが幸せなら私は身を引こうと思っていたの。
でも実際に拒絶されると……狂うくらい悲しかった。
狂うくらい悲しくて……狂うくらいあなたを壊してしまいたいの。
アナスタシア
無口系主人公。
盗賊としての技能は勿論医術もなかなかのものはある。騎士団長が彼女を皇女につけたのは勿論いざとなったら暗殺するため。
告白して断られた程度ではヤンデレ化しなかったが、拒絶された挙げ句ほかの女と国外脱出されたことで色々キレた。
戦い方はエグい。
ユクシノ
ヘタレ鈍感。
実はアナスタシアの事が好きだが本人もずっと気づいていなかった。
袂を分かって思いの外沈んで何故こんなに気になるのかと自問自答してから好きだったと気付いた。
実はアナスタシアより力が弱い。
皇女は皇子の護衛騎士とくっつきました。
メイドは皇女の保護者気取り。
色々煮えきれない終わり方してしまったので
書き直すか
別視点を書くかもしれません。
ここまで読んでくださりありがとうございます。