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混血少女の厄介な日常  作者: 蔵前 義之
新入生合宿編
7/7

碧色の治癒魔法

 ちなみに言えば、カノンは猫と喋っているが、けっして一人部屋ではない。先ほどの列車での3人と一緒の4人部屋だ。何故、猫と喋って居られるか、と言えば3人は施設内を探検に行っているのだ。カノンとしては、皆と探検していて何かあれば申し訳ないので、極力一緒にはいない。

 しかし3人は戻って来、今は談笑中だ。


「カノンさん、実は探検中に訊きましたの、落ち武者の事」


 少し興味があり、「本当に?」と訊いてみる。心なしか、四三一こと白猫はカノンの膝で呆れ気味だ。


「つい先ほど、この施設の管理人さんが見たみたいですの」


 それはまた、つい先ほどとは、と四三一は膝から離れ、窓の縁に上がると宿場町を眺めカノンを見る。カノンは四三一に完全な好奇心の目線を送っている。


「訊けば、宿場町だとか―――」





「カノン様」と言った四三一は猫、ではなく軍服姿。いつもの青年の姿だ。腰には軍刀。表情は呆れ気味、カノンの後を歩いている。「引返しては如何です?」


「もう出て来ちゃったし、見るだけ見て見ようよ」


 言ったカノンはもう何を言っても訊かない、好奇心にあふれている。もはや呆れるしかない四三一はため息を吐き、表情を一変させると腰からリボルバーを抜き、カノンの手を引きさがらせる。足場が悪く、カノンはこけそうになり下を見ると崖の様になっている。


「カノン様、私の後ろから離れないで下さい」

「え?」


 言われカノンが先を見ると地面から骸骨が立ち上がっている。それもかなり多数。「な、何あれ……! アンデッド?」


「似たようなモノです」と四三一は発砲。大口径リボルバーが火を噴くと、骸骨の一体がバラバラに弾ける。「しかし、手持ちの銃弾は5発。仕方ありません、近接戦しかないですね」


 四三一は軍刀を抜き一気に加速、骸骨の数体を斬り裂く。「凄い」とカノンが声を漏らした直後、彼女の足元が崩れ真っ逆さまに落下し、カノンは四三一が自分を呼ぶ声を聞いた直後気を失った。







 目が覚めたカノンは辺りを見渡す。火が点いている、辺りは暗い。洞窟か何かだろう、と思いながら自分の身体を見ると泥まみれで布団を被せられていた。


「誰か……介抱してくれたのかな」


 の後、足音が聞こえそこを見るといかにもな落ち武者が居た。


「ああ、目覚ましたか」

「お、おおおおお落ち武者ッ!?」


 言われ落ち武者はため息を吐く。


「確かに敗残兵だが……まさかあんた、おらの首を捕りに?」

「い、いや違います」

「じゃあ何だ? ん? あんた、よく見りゃ日本人じゃないな。あの軍服を着た連中の仲間か?」


 きっと陸軍の人間と思い頷く。


「そうか……やはり。あんた、戦うのか?」

「戦いませんよ」

「そうか、それより戦争はどうなった?」

「戦争?」


 そう言えば、ここでは戦争が、と思い出す。


「戦争なんて、とっくに終わってますけど……」

「戦争が? 馬鹿な、おわってるわけ、おらを騙すつもりか」

「そうじゃありません。本当に、戦争は既に終わっています。あなたの様な、武者の武具を付けた人は、もう、この日本にはいません。私がその証拠です、日本は、今近代化軍拡競争の真っただ中です。文明も開化しています」


 そう告げると、落ち武者はその場に項垂れた。


「そうか……もう、終わって時代は変わったか。あんた、どうやってあんな場所に落ちてたんだ?」

「どうやってって……何だか骸骨に襲われて」


 と言った直後、落ち武者は跳ね起きカノンの肩に手を置くと血相を変える。


「あんた! あれに見られたか!?」

「た、多分」

「まずい……あんた、早くここから逃げた方が良い! 殺されるぞ! 俺の仲間は全員殺された!」

「こ、殺されるって、あの骸骨に?」

「あんなのは下っ端、ヤバいのはその親玉だ! この森はその親玉の縄張り、俺達人間は餌にされるだけだ!」

「じゃ、じゃあ、あなたも逃げないと!」

「おらはまだ見られてない……いや、あんた一人じゃこの森は抜けられんだろう。案内する」


 落ち武者は立て掛けていた日本刀を掴むとカノンの手を引き森を出るが、既に洞窟の周りには骸骨が居り、その向こうには大蛇。


「も、もう囲まれていたか……!」


 カノンを護るように落ち武者は刀を抜き、周囲を見渡す。「これでは、あんたを逃がる事が」

 直後、大蛇の首が刎ねられ、骸骨が次々と斬り裂かれ「カノン様!」と四三一が駆け寄る。


「四三一!」とカノンが安心した声を漏らしたかと思えば四三一はリボルバーを抜き落ち武者へ向ける。


「待って! この人、私を助けてくれて」


 と言うが、四三一の険しい表情は変わらない。


「……という事は、カノン様を助けてくれた彼は気付いていないようですね」


 四三一は続ける。


「カノン様、彼は妖気に冒されています……先ほどの大蛇も、骸骨も、全ては彼の妖気の元で造られたモノです。事を終わらせるには、私が引き金を引くしかありません」

 

 そんな、とカノンは言い落ち武者の顔を覗き込む。落ち武者は「おらが、こいつらを」とショックを受けている。


「で、でも……この人。悪い人じゃないよ。助けてくれたし」

「だからと言って、帝国陸軍人としてこれは見過ごせません。カノン様、何故陸軍が学生の親睦会合宿に同行したか分かりますか? この為です。この地域では、度々妖気を纏った彼が目撃されては、周辺の農村の農民が被害に遭っています。その為、この地域は近代化の進む福岡県内に於いて一向にそれが進まない」

「待ってよ、この人。戦争が終わった事さえ知らなかったんだよ? 仲間が死んだ事だって、まだ受け止めきれてない。どうにかしてあげようよ」

「だから私は手に銃を握っているんです。……カノン様、彼は落ち武者です。戦争に負けた側、敗残兵。敗残兵には政府から懸賞金が掛っています。助けられたとして、彼に明るい生活は待っていない。今と同じ。隠れて住むしかありません。それでも、あなたは彼を助けてあげたい、と申し上げるのですか」


 目を細めた、真剣な四三一に言われカノンは一度息を吐くと何かを決心し、落ち武者に向く。


「落ち武者さん」と呼ぶ。だが落ち武者は四三一の言葉、自分の首に懸賞金が掛っている。と、仲間を殺したのが自分という事実に目を虚ろにしている。


「落ち武者さん!」


 大きな声でカノンは呼び、落ち武者の肩を揺する。すると落ち武者は射抜かれたようにカノンを見、「殺してくれ」と小さく呟くとその場に膝を付き、カノンは目線を合わせる。


「落ち武者さん、私は魔法が使えるの。特殊な魔法、碧色の光を放つ治癒魔法」


 カノンの言葉に四三一は目を丸くし、歩を進める。「カノン様、まさか!」カノンの考えを理解した時、既に魔法は発動されていた。


「使うなって言われてたけど、恩人だから。だから、あなたの中の妖気。私が引き受けます」


 発動したのは、治癒魔法系統の魔法。呪術の類を引き受ける高等魔法。碧色の光が紋章を描くと、それがカノンを包み、落ち武者は何か分からず目を丸くするだけ、しかしその間にも落ち武者の妖気は全てカノンに流れ込み、落ち武者は只人となる。

 光が消え、四三一は「カノン様」と低い声を漏らす。


「あなたは、自分が何をしたか分かっておられるのですか……!」

「うん。分かってる……落ち武者さん。あなたの妖気は私が引き受けました」


 それを訊き、落ち武者は「それは」と立ち上がる。「お嬢ちゃん、あんた。馬鹿な事を。見ただろう、妖気はあんな事を引き起こす。今すぐおらに戻して、おらを殺せ」


「そうすりゃ、全て終わる!」


 カノンは首を横にふりゆっくりと立ち上がると口を開く。


「私に移した以上、今の所、元に戻す術はありません。だから、今のあなたは只の人」


 落ち武者はただ言葉を失い四三一を見る。


「直に陸軍がここを見つけます。……が、見つかるのは時間の問題。ですので、はぁ。私の方から軍に掛け合ってみます」

「掛け合う?」


 と、落ち武者が聞くと四三一は頷く。


「刑務所や処刑台よりいいでしょう。あなたを軍に入れる様に言ってみます。3年の任期を過ぎれば、あなたは晴れて自由の身になれます」


 四三一がここまで言うと、数人の陸軍人が駆け付け落ち武者に近寄る。四三一は説明、どうやら了解したそうで落ち武者は軍に入る事になった。






 宿舎に戻る為、山を登ったり降りたりする中、四三一は隣を歩くカノンを見、ため息を吐く。


「カノン様。あなたは、ご自分が何をなさったか本当にお分かりか?」

「分かってる。落ち武者さんの妖気を一手に引き受けた」

「それがどれ程危険か、分かっているのですか?」


 碧色の治癒魔法。特殊な魔法であり、希少魔法。高位魔術師でさえ使えない治癒魔法を更に強化したモノを備えるカノンは狙われる立場にある。今回は、それに更に妖気を付与してしまった。人間だけではない、これからは妖怪にだって狙われる。

 カノンの受けた妖気は、そんじょそこらの弱小妖怪の比ではないからだ。


「分かってるって。こんな事、あんたがいなきゃしない。私、これでもあんたの事頼りにしてるんだよ」

「はぁ……ありがたいですが。あんまり危ない事はしないで下さい。これからは、あなたの護衛兼、妖怪退治ですか」

「残念、お世話もあるよ」


 そうでした、と疲れた笑いを見せた四三一は変身。猫に化けるとカノンの肩に飛び乗った。


「ちょっと、ご主人様の肩にのるとはどういう事?」

「仕事が増えたんです。これくらい、大目に見て下さい。……ところでカノン様、マタタビなんて、持ってませんよね?」

「持ってないわよ」


 と答えると、四三一は「にゃぁ……」と小さく鳴き、カノンは「俗物め」と笑顔を向け猫の顎を人差し指でゆっくりと撫でた。

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