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混血少女の厄介な日常  作者: 蔵前 義之
帝国劇場吸血鬼編
4/7

妖怪猫と吸血鬼

碧恋歌行き詰っているので

こっちに逃げます

 

 授業終了後、昼休みに入った。ずっと窓に居た猫を抱き上げ、生徒達からのお昼の誘いを渋々断ると、猫を抱いたまま管理人さんから持たされた弁当を小脇に抱え、校舎を出、学校の敷地内にある帝国劇場横のベンチに腰掛け、猫を隣に降ろす。


「ちょっとあんたッ! どういうつもりよ!」

「どう、と言われましても。私はあなたの護衛です。付いて回らないと」

 

 大声で訊くが、四三一はぶれない。「ははは」と余裕の表情だ。


「あんた何者なのよ! 何で猫が喋んのよ! そんなのあり得ない! おかしいわ!」

「おかしくありませんし、あり得なくありませんよ。現に私がこうなってますし」

「だったら説明しなさいよ! あんた何者よ!」

「ああ……説明していませんでしたね」


 言うと、加藤四三一、猫は尻尾をパタパタさせる。


「私、加藤四三一は日本帝国陸軍中尉、そして」


 と猫は欠伸をする。


「妖怪です」

「は?」


 言葉が思い浮かばず、カノンは、それだけを口にするとため息を吐き、弁当を開いた。


「ごめんなさい。私今混乱中。説明」

「はい。分かりました」


 加藤四三一、帝国陸軍中尉にして妖怪。妖怪と言っても完全な妖怪ではなく、妖怪の血を引いた人間。日本における魔法の総本山、京都の陰陽師家、加藤一族の長男。

 

「こんな所です」

「……ああ、あんたやっぱり魔術師だったわけ?」

「はい」

「にしても、殺伐とした説明ね。というか、何で陰陽師が日本帝国陸軍人やってるのよ」

「事情がありまして、カノン様、ご安心を、あなたは必ず私がお守りいたします」


 と、頼りになるわけでは無い。こんな猫に言われてもな、と漬物をポリポリ食べる。確かに経歴は凄いけど。


「でも、納得。あんたが十四式軍刀やリボルバー持ってたの」

「詳しいですね。軍無関係に興味が?」

「日本まで付き添ってくれたのは帝国軍人だったから、色々教えてもらったの」

「そうでしたか……それよりも、くれぐれもお気を付けを。カノン様は、そこいらの魔術師とは違いますから」


 分かってるわよ、とカノンは弁当を手早く食べ終え、蓋を閉じ「ごちそうさま」と、手を合わせる。すると、知り合ったばかりの御織一颯が「カノーン」と劇場裏から駆け寄ってくる。


「あ、御織先輩。どうしたんですか?」

「どうしたもこうしたもないよ、君が猫相手に叫んでたって訊いたからさ」


 ああ、と苦笑い。隣の猫を見れば、先ほどまで生意気に口を利いていたのに今は黙ってノミを飛ばしている。


「ちょっと、猫にお弁当の焼き魚を食べられまして」

「そっか……猫に」


 と御織は朝と同じ、カノンを舐め回す様に見、笑む。良い人なのだろうが、この視線には不快感しかない。何となく、隣の猫、加藤四三一を見て見れば、御織一颯を睨んでいる。何で睨んでいるのだろうか、と思っていると


「あ、忘れてた。職員室に行かなきゃ」


 と御織は走り去る。それを見送る中、四三一は口を開く。


「カノン様、あの者とは仲が良いのですか?」

「どうかな……今日会ったばかりだし」

「さいですか。カノン様、申し上げにくいのですが、あの者と距離を置いて頂けませんか?」


 え? と思う。確かに変わった人だが。何でそんな。初めての知り合いなのに。


「ご理解ください。私はこれでも魔術師です。軍人でもある。邪な考えを持つ人間はすぐに分かります」

「邪って、御織先輩が何を」

「……カノン様、考え過ぎな事を祈りますが、あの御織なる女子生徒。カノン様を舐め回す様に見ておりました、明らかに同性に向ける視線ではありませんし、あの瞳は何か企んでおります」


 と直後、四三一は劇場を見、目を細める。カノンはそれに合わせ劇場に目を向け、御織が欠けてきた劇場の横、草むらに人の足を見つける。


「な、何……あれ」

「カノン様、自分から離れないで」


 分かった、と頷くとその足に近づく四三一について行く。草むらから覗く脚は女性のモノ。生徒が着用する和服、同じ一年生だ。

 弁当を置き、「ちょっと」と女子生徒を抱き起す。

 まるで死んでいるかのように青白く、唇は紫だ。


「まさか、死んでるの?」

「いえ、気を失っているだけ。首筋を見て下さい」


 四三一に言われた通り、首筋を見ると2つの噛み後。文献で読んだ、吸血鬼ヴァンパイアと似ているが、そんな事。


「吸血鬼です」

「そんな事無いだろう、って考えてたのに、何で言っちゃうかな」

「無いだろう、と考えるのはよくありません」

「あんたが妖怪ってのもそうだしね、これからは考える事にする」

「結構……カノン様、先ほどの御織はどこから来ました?」


 何処って、と続ける。「この劇場裏からここを通って」


「何故、御織はカノン様が猫に怒鳴っていた事を知っていましたか?」

「何故って、訊いたって」

「一体誰から聞いたんでしょうね。……星陵学園敷地内にある、この帝国劇場から校舎までは離れていますし、生徒は真昼間からここに来ません」

「何であんたがそこまで知ってんのよ」

「カノン様は護衛対象、そしてここはあなたの通う学校、調べておかなければ」


 そうですか、とカノンはため息に似た息を吐き、女子生徒を抱きかかえるとベンチまで運び寝かせる。


「でもさ、ここに偶然いたって事は無いの?」

「あり得ますが、彼女は最初からここに居ましたよ。あなたが私に叫び散らしていた事を知っているのですから」

 

 叫び散らしたって、と顔を顰め、息を吐く。


「カノン様、吸血鬼についてどの位知っていますか?」

「え? んと、血を吸ってとか」

「……はぁ」

「何よ! その馬鹿にしたようなため息は!」

「バカになんてしてません。……いいですか、吸血鬼は血を吸いますが、その血を吸う対象が特殊な場合、吸血鬼は途轍もない力を得る事が出来るんです。カノン様、あなたはその特殊な人間です。魔法の中でも、特異中の特異、治癒魔法を使うのがカノン様です」


 知ってるわよ、と言い、カノンは口を開く。


「じゃあ、御織先輩は吸血鬼なの?」

「可能性の問題ですが、十分にあり得ます。警戒しておくに越した事はありません」

「ねぇ、あんた吸血鬼が相手として、戦えるの? 負けちゃわない?」

「これでも鍛えてますから。それに、私は対魔術師戦を想定しての訓練なんかを行ってますから」


 猫に言われても、と思わざるを得ないが聞いたのは自分だ。でも、この加藤からは悪意を感じない。信用していいのだろう。護衛役だ。


「分かった。あんたを信用する、私を騙してるんじゃないでしょうね」

「騙しませんよ。帝国軍人の威信にかけて誓います」


 言った後、四三一はカノンに向く。


「カノン様、くれぐれも学内ではお気を付け下さい。どんな輩があなたを狙っているか、まだ分かりませんから」


 頷いたカノンは女子生徒を抱きかかえる。保健室に連れて行かなければ、と思っていると、四三一はカノンの肩にヒョイ、と飛び乗る。


「……あんたさぁ、護衛対象の肩に乗って移動を楽にするって。どういう訳?」

「まさか、この方が楽ですし。それに、下を歩いていて蹴り飛ばされては適いません」


 はぁ、とため息を吐くとカノンは女子生徒を保健室に運んだ。





 同じ教室の生徒から聞いた星陵学園の噂話は今の所2つだ。2つとも、あの帝国劇場に関わっている。1つは、帝国劇場の怪人。もう1つは、帝国劇場の吸血鬼。きっと、吸血鬼は昼に四三一と話したものだ。まさか生徒間で噂になる程だなんて思わなかった。

 放課後、街灯が点き始める頃、カノンは四三一を肩に乗せ九十九館へ向かっていた。


「まさか、生徒間で噂になっているとは」

「下調べしたんじゃないの?」

「生徒の噂話までは、私のミスです」

「いや、そこまで言わなくてもいいけどさ」


 と九十九館に着き、洋館のドアを開けると管理人さんが居た。どうやら靴箱を拭いていたらしい。


「お帰りカノンちゃん」

「ただいま……ッ!」


 カノンは気付いた、隣の猫、この白い生意気な猫をどう説明すれば。取り敢えず、部屋まで連れて行ってそれから


「あら、あなたも一緒だったの? 四三一」


 え? カノンは声を漏らすしかなかった。管理人さんは、驚く事無く猫の姿の加藤四三一に声を掛けているのだ。というより、最初から知っていた、と言うべきか。


「ただいま。早速だ、カノン様に厄介事が」

「ちょ、ちょっと待って!」


 四三一が管理人さんに説明する前にカノンは割って入り、肩で息をする。


「あら、カノンちゃんどうしたの?」

「どうしたのじゃありません! 何でそんなに普通なんですか! 説明してください」

「あ、そっか。カノンちゃんには言ってなかったわね。来たばかりだから」


 彼女は、と加藤四三一がカノンに続きを話す。


「管理人さんは、私と同じ。妖怪の血が入った異端です」

「ちょっと、私がカノンちゃんに説明しようって思ったのに……あれ?」


 疲れ切ったカノンは目を閉じ、苦笑いのまま頭を抑える。心配し、管理人がどうしたか聞く。


「いえ、ちょっと目眩が……」


 現在、日本に来て2日目。カノンの中で日本のヤバい国度はどんどん上がって行くのだった。

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