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混血少女の厄介な日常  作者: 蔵前 義之
帝国劇場吸血鬼編
3/7

窓の猫

 星陵に来たのは春季休暇終了日。カノンが翌朝を迎えたその日、星陵学院は一学期の始まりだ。まず髪を櫛で梳き、壁の時計が良い時間になるまでまったりしていよう、と思い日本人作家の本、『帝劇の怪人』を開く。猛勉強した為、日本語は理解できる。

 10ページほど読んだ辺りでドアがノックされ、本に栞を挟み「はい」とドアを開ける。


「おはようございます」


 声を掛けてきたのは加藤四三一。ドアを開けた瞬間、彼は礼をし笑顔を向け、束ねられた資料を渡す。


「何? まだ時間じゃないけど」


 まだこの加藤四三一を信用できないカノンは少し不機嫌だ。察したのか四三一は困った顔をし続ける。


「カノン様は本日から星陵学院一年生です。同封された資料に入学式練習の為早めの登校、と書いてあった筈ですが」

「え?」


 そんなの書いてあっただろうか、とカノンは資料をカバンから引っ張り出すと捲り始める。


「六枚目です」


 四三一からの助言すらうっとおしく、顔を顰めながらも六枚目を開くと確かにそう書いてある。


「そういう訳です。カノン様、登校の準備をいたしてください」


 何とも負けた気分になったカノンは無言でドアを閉めた。






「しかし、よく。無茶を。何故あの子を日本に?」と訊いた帝国軍人は、現在少佐。彼は上司である初老の男性に目を向ける。初老の男性は、カノンに付き添っていた軍人。


「言葉に気を付けろ少佐……しかしまぁ、同じ気持ちだよ」

「准将、今からでもどうにかできないんですか? あの女の子は普通とは違うんですから。何かあれば、日本の責任問題になり、英米が日本に付け入る隙を与えかねません」

「確かになぁ」


 真剣な少佐に対し、准将は落ち着いていた。爪切りで伸びた爪を切ってはやすりで削って、形を整えている。


「しかし言っても始まらんだろう、少佐。だから加藤中尉を送った」


 准将に言われ、少佐の頭には加藤四三一が浮かび、顔を顰め、准将の座る執務机に近づく。


「何故、彼なんです? 准将。彼の経歴は知っていますでしょうに、あいつは罪人です。迎賓館で」

「確たる証拠はないだろう、加藤中尉が同僚を殺した現場を見た人間は居ない。我々が見つけた時、中尉は血の付いた軍刀を握っていただけ」

「それで十分、証拠に成り得ます。中尉が女の子を殺さないとも限りません」

「中尉はそんな事しないさ」

「准将!」


 訊いていても自分の意見を聞き入れない准将にしびれを切らし、少佐は声を張る。准将はため息に似た息を吐くと爪切りを置き、椅子を回転させ少佐に向くと、口を開く。


「少佐、言っていても仕方ないだろ。これは決定事項だ、それに今からでは何も変更できんさ。留学は英国も承諾、日本政府も承諾。現在日本帝国軍は新編成された海軍飛行隊や、新型戦艦なんかで手が回らない。それに、今の日本じゃ、全寮制学校なんてこの星陵位だ。学内が一番安全だ、手が出し辛い」


 何も言わず、少佐は踵を返すと、「では」と敬礼。「失礼」部屋のドアを開け廊下に出ると「話にならん」と声を漏らした。








 四三一は、学校までは付いて来なかった。流石に彼を学校に入れては、目立ってしまう。日本に不慣れなカノンにそれは酷だ。という決定からで、カノンは安心していた。学校に居る間はあの危ない奴の顔を見なくて済むからだ。

 

「あいつ……何者なんだろ」


 軍刀は日本帝国が採用している十四式軍刀。腰のリボルバーガンは日本製じゃない、英国製モノ。帝国軍人? いや、それにしては優男、というより細い。というか。

 と考えていると、肩を叩かれ、驚きパッと振り返ると昨日の変わった先輩、御織一颯。


「み、御織先輩」

「何でそんなに怯えてるの? ……にしても、カノンちゃん和服に合うねぇ」 


 言った御織は舐め回す様にカノンを見、カノンは両手で胸を隠す。


「な、何だか嫌な視線を感じるんですけど」

「はは、冗談冗談。それより、今から入学式の練習でしょ? 多目的会館まで案内するから」

「分かりました」


 警戒を解き、他の新入生の流れと同じく坂を上がって行く。隣の御織は、ずっとカノンを見ては笑顔だ。変わった人だ、というか何だか気味が悪い。


「カノンちゃんはさ、……ごめん、ちゃんって面倒。カノンってさ」

「はい」


 呼び捨てに変わったのは気にせず、一歩横にずれると御織は同じく一歩詰め寄る。


「外国暮らし?」

「はい、そうですが」

「へぇー、私ずーっと日本だから気になってるんだけど、外国ってどんななの?」

「え? どんな……と言われましても」


 説明しようにも、言葉が思いつかない。日本と違う、位しか。


「参考に何か本を読まれた方が分かりやすいかと」

「口頭で訊きたかったのになぁ、まぁそうするよ」


 案外、普通の人なのかも、と思いながらカノンは御織との談笑を続けながら学校の門をくぐった。






 学校、というのはすごく疲れる。入学式では、憶えた日本国国歌を歌った。日本語は分かるが自分は目立ってしまう。好意からか、好奇心からかの視線は居心地の悪さを加速させている。木造校舎の3階に一年の教室はあり、カノンの席は一番後ろの窓側だ。

 現在、同じ教室の生徒達の自己紹介が終わり、教師が喋っている。何の話かと耳を澄ませればこの学校で何を学ぶか。ここで学ぶのは日本での紳士淑女になる為、や軍人素質を磨く為、その他諸々。

 だが、別に何か学びたいものがあるわけでは無い。日本へ来たのは只、家から逃げた為だ。


「さて、皆さん。この教室には英国からの留学生が来ています。いいですか、何度も言いますが、本校では皆さんがこれからの国際化に対応できる柔軟な人間になる、そんな授業を行います。勉学に関わりの無かった方も、ここで勉学に慣れ親しんでいただきます」


 訊かなくてもいいか、と窓の外に目を向けると、窓の縁に猫がやってくる。猫は真っ白、黄色の瞳を携えている。


「可愛い」


 と、カノンが猫の顎を撫でよう、と手を伸ばすと猫は前足でカノンの手を叩く。「え」と声を漏らすと猫はため息を吐くと、口を開く。てっきり、「ニャー」と鳴くかと思えば


「カノン様、学校は如何でしょうか?」


 等と自分に聞いてくる。待て、とカノンは自分に言い聞かせ、目を擦る。きっと、日本に慣れないばかりに自分は頭がおかしくなったのだろう。そうだ、そうに違いない。


「大丈夫ですよカノン様、別にあなたの頭がおかしくなったわけではありません」

「え?」

「はぁ……お気づきになりませんよね。私、加藤四三一です」


 猫が名乗った後、カノンは少し時間が止まった様な感覚を覚えた直後、思考が追いつく。


「ええええええええええッ!!!!」


 叫んでしまった後、立ち上がって教室の人間の視線が集まった事に気付く。皆、どうしたモノかと驚いている。


「か、カノンさん? どうかしました?」


 教師の若い女から聞かれ、「い、いえ」と椅子に座る。「ま、窓の猫に驚きまして」と嘘を言うと、生徒たちは一斉に笑い出す。可愛いとか、意外だとか聞こえる。どうやら、ハーフだからと言う疎外感は払しょくできたようなのだが、窓のこの猫。

 生意気な顔をした白い猫、何とも自分を馬鹿にしている様だ。


「はい、それじゃあ気を取り直して講義といたしましょう」


 授業が始まり、カノンは窓の猫に気が散る中、教科書を開いた。

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