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御付人来る

 長い金髪を持つ少女は、その肩に掛った髪を後ろに流すと不機嫌な顔を浮かべる。その表情のまま、ため息に似た息を吐くと、困った顔をした初老男性に目を向ける。


「ですから、私は大丈夫です。学生生活位、簡単に送れます」

「だがなカノン、私が心配しているのは君が日本文化に慣れるかどうかなんだよ」


 カノン、と呼ばれた少女は日本人離れの容姿だ。初老の言葉に不機嫌そうな顔を更に不機嫌にさせ、大きなケースをドン、とレンガの敷かれた大通りに置く。


「カノン、私の心配も分かってくれ」

「私は日本人の血が入っています。大丈夫です」

「はぁ……ここは君の住んでいた屋敷とは違う。学園寮での集団生活だ」

「何度も訊きました。資料にも目は通しています」


 そうか、と諦めの初老は、身に纏った軍服の胸ポケットからまだ封を切っていない招待状を取り出すと、それをカノンに渡す。


「では、頑張れよ。星陵学院でしっかり学んで来い……何も、ばれない様にな」

「分かっています……おじ様も、軍務に支障をきたさない様、休養を取るのが良いですよ」

「はは、考えておくよ。それじゃ、ここから先は汽車で向かえ」

「はい」


 カノンは礼をし、駅に目を向け、滑るように駅に入って来た汽車に乗る為に駆けだした。





 カノンの通う高校は、日本の交易都福岡県にある。交易都市福岡は八幡製鉄所などがあり、北九州地区は日本の鉄鋼業中心地、長い煙突からあがる黒煙はいいモノではない。屋敷に籠っていた所為なのか、カノンは空気の悪さを感じた。汚れている。


「思ってたのと違う」


 屋敷では、日本留学に備えて日本を紹介した文献を読んだ。サムライの闊歩する武士の国、かと期待して来ていれば、日本帝国はアジアの中でトップに軍備増強を図った軍事国家。サムライは既に滅んだ人種だ。

 列車の車内を見渡せば、スーツ、日本の若い女性なら誰もが来ている和服。自分の恰好は、と見て見ればドレス。チラチラと視線が集まり不愉快だ。

 日本ではこの格好は珍しいのだろうか。


「不愉快」


 と呟くと瞼を閉じため息を吐き外に目を向けたまま、窓に頭を預けた。






 学園に着く頃、汽車の客車に乗っている人間は少なくなっていた。汽車が駅に止まり、人が少なくなって来、降りよう、と立ち上がり上の荷台からケースを抱え振り向くと、誰かとぶつかりカノンは転びそうになるが、そのぶつかった相手に抱き留められ、転ばずに済む。


「ありがとう」


 と礼を言い、顔を見て見れば日本人の青年。長い髪に長い睫、綺麗な顔をした男だが何か怪しさを感じ、すぐに離れる。男の腰には軍刀、ホルスターにはリボルバーガン。ヤバいのでは。


「で、では、私はこれで」


 一瞬、微笑んだ男は逃げる様に列車を降りたカノンを見、帽子を深く被った。





 

 星陵の坂は結構急で、トランクケースの様な大きなものを抱えて登るにはかなり体力が要った。少し前まで屋敷に引きこもり、書物ばかりに目を通していたカノンには厳しく、坂の四分の一で息を切らし休んでいた。

 カノンが坂の端にケースを置き、それに腰を降ろしため息を吐いた時だった、目の前に女子生徒がやって来た。


「見ない顔だね。ハーフ?」


 訊かれたので頷くと、少女をまじまじと見る。胸に緑の刺繍。2年生だ。カノンは赤の刺繍の入った和服を着る事になる。つまり、先輩だ。


「初めまして」とケースから降り、一礼。「カノンです」


 うんうん、と満足げな少女はカノンを見、「僕は御織、御織一颯」


「み、御織……先輩?」


 自分の目の前の女子生徒は、女子なのに何故か一人称が僕。日本では僕は男性が使うもの。変わった人なのだろう。とケースを持ち上げ、その場を去ろうとすると、手を握られる。


「カノンちゃん。重いんじゃない?」

「い、いえ」

「安心して、僕は力持ちだから」






 御織一颯はカノンの荷物を学院まで運ぶと、自分の住んでいる寮、第3女子寮へ消えていった。カノンは自分の寮を地図で探す、見れば女子寮を抜けた先の洋館にあるらしい。

 立ち並ぶレンガの建物を抜けてみれば、桜に囲まれた洋館が目に入り顔を顰めてしまった。

 洋館の名は


「九十九館?」


 塀の立札にはそう書いてあった。ドレスのポケットから英文で書かれた手紙を取り出す。中には、日本での生活のサポート兼、世話役を置くと。

 世話役なんて要らない、と言ったのだが、自分は特殊な人間で、それを突っぱねてまで日本へ留学した。サポートに文句は言えない。


「居たら追い返してやる」


 そう思いながら門を開け、九十九館の敷地に入り洋館の玄関へ。鬼の型をしたそれに付いたドアノッカー。趣味が悪い、と思いながらも扉をノック。


「はーい」の声の後、開いた茶色の扉の向こうから顔の覗かせたのは、まだ20代くらいであろう三つ編みの女性だ。赤い着物が似合う可愛らしい人で、掃除でもしていたのだろう。箒を持ち、ずれたメガネを掛け直す。


「あら、可愛らしい。もしかして、ここへの新入りさん?」

「は、はい。カノンです」

「いらっしゃい。九十九館へようこそ、ささ、部屋に案内するわ」


 頷くとその人に着いて行く。入ってすぐの階段を上がった辺りで女性はカノンに振り返る。


「ああ、自己紹介まだだったね。私はこの学生寮九十九館の管理人、志摩甲斐悠里。今後とも、よろしくね」

「はい」


 


 案内された部屋は、2階の一番奥。一人部屋には広すぎる空間だが快適だ。窓を開ければ学園を一望でき、真下には桜並木。風通しもいい。日当たりも悪くない。


「良い部屋」


 と呟くと、ケースをベットに置き荷物整理を始めた。




 荷物整理が終わる頃、既に夕刻。外は茜色に染まり、部屋の照明のスイッチを入れる。外の外灯も点いてきたので窓、カーテンを閉めベットに腰を降ろす。久しぶりに動いたせいか身体が痛い、そしてお腹が空いた。

 

「そういえば……晩御飯。どうするんだろ」


 全く考えていなかった。お昼には持って来ていたパンがあったから良かったが。日本の紙幣は使い方が分からない。それどころか、この学園以外に何があるか分からない。


「そうだ、管理人さんに訊いてみよ」


 とベットから降り、扉を開けると、ガン、と鈍い音がし誰かが倒れる。しまった、と思いながら廊下に顔を覗かせてみれば管理人さんがデコを抑えている。結構強く打ったのか赤くなっている。


「か、管理人さん! ごめんなさいッ!」

「いや、いいのよ。にしても扉って堅いわね。あ、そうだ。ごはんごはん。お腹空いたでしょ?」


 管理人さんに聞かれ、カノンのお腹が音を立て、カノンは顔を赤くする。


「お腹は正直ね」

「お腹すきました」

「はいはい、それじゃ、食堂に案内するわね」



 

 

 夕食後、カノンは片づけをする管理人さんに話しかけていた。夕食時、食堂には自分以外いなかった。他の住人は?


「生活時間がバラバラだからね。この時間帯はカノンちゃん一人」

「そうなんですね……後何人くらいいるんですか?」

「んー、どうせいつか知るから。秘密」


 何か事情があるのだろうか、と思いながら食堂を去ろうとすると玄関のドアノッカーが音を立てた。「はーい」と管理人さん、一体誰だろう。住人かな、と思いながら玄関に顔を覗かせてみれば、一度しか会っていないが知っている顔があった。

 スーツに帽子、整った美しい顔だが軍刀、リボルバーガンのホルスター。

 あの危ない青年だ。


「あら、あなたの方は遅かったのね。カノンちゃんは来てるわよ」


 知り合いなのか、管理人さんは親しげに声を掛け、青年は笑顔で答える。


「軍に武器の使用許可を貰っていたら遅くなってね。何でも、英国艦隊が日本に燃料補給を求めてるみたいで」

「ああ、ここは軍港があるからね」


 管理人さんの後、青年はカノンを見、笑顔を向け、口を開く。


「初めまして。本日よりあなたの学園生活と私生活を共にサポートさせて頂きます。加藤四三一と申します、以後、お見知りおきを」


 てっきり、世話役なんかは女性かと。つまりはこの青年が自分の私生活に入ってくるわけだ。考えが追いついたカノンは


「最悪」


 と声を漏らすと、ゆっくりと自室へ戻った。

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