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日系異世界人のノスタルジー  作者: 樫葉 こはた
宰相府でアルバイト!?
6/6

冷徹漢のお隣さんな上司

話が全然進みませんね。説明が多い回になりました。

文才欲しい…


 紹介された上司は、軽薄さよりも派手さが目につく人物だ。

 兄さんに案内されて入った上司の執務室は質素剛健という感じの軍部棟の雰囲気から一変、絢爛豪華という表現がふさわしいきらびやかさだった。

 薄いエメラルドグリーンの壁紙に所々金の装飾が施された明るい部屋に窓を背にして座るその人の髪は日の光を受けて、金色に輝いていた。折しも強く差し込んだ光によって顔はよく判別出来ないが、こんな部屋に平然と座っていられるのだから、多分ご面相にも自信がおありなのだろう。


「やあ、チハヤくん。そちらのお嬢さんは…チハヤくんと同じ艶やかな黒髪、顔はやや宰相府のお兄さんの方に似ているだろうか。すらりとして…うん、美人だね。」


私たちが入室直後、挨拶の口上も言わせずに一息で言い切ったのがこれである。おじいさまが言っていた「物語にはつきもののナンパ系」というのは、こういう人のことね。


「団長、お仕事中失礼いたします。チハヤ・シノトオ、婦女子を宿舎に入れる許可を求めに参りました。」


「相変わらずきちっとしているね、チハヤくん。副団長のチハヤくんが許可を求める上司となると、僕しかいないものね。で、そちらの美人さんは噂の妹さんで合っているのかな?」


「はい。」

「お初にお目にかかります。サユキ・シノトオと申します。」

兄さんが副団長だったという新事実がこっそり発覚した。この人が直属の上司か…ストレス溜まりそう。だからルーを連れてるのか。


「こんにちは。君のお兄さんの上司のジョエルです。結界の張り直しの為に滞在すると聞いているよ。ええと、申請書類に正式名称がいるんだ。申し訳ないけれど、ここに書いてもらっても構わないかな?」

「はい。」

 正式名称ね…。この国では長ったらしい正式名称を持つ人が多い。家長とその配偶者以外の貴族の正式な名前は「個人名・バド・領地名・第何子かという称号・家名」の順で名乗る。まあ、お察しの通り面倒なので普段は省略して個人名と家名しか使われないけれど。

 この国の貴族制度は結構シビアで、3代続いて目立った功績がないと序列が下がったり、領地が没収になったり、平民になったりする。その逆も然りで、貴族位の授与や領地の下賜なども比較的頻繁に行われる。

 貴族ばかりでなく、王家までもが5代ごとにその時代の貴族による互選によって入れ替わるという、何とも実力主義?な世界である。ちなみに王家が認めた人に与えられる「一代貴族」なんて名誉職まであるから、いわゆる貴族な人は結構たくさんいるのだ。入れ替わりなんかも結構激しくて、うっかりして忘れていたりする人もいると思う。


「ええと、サユキ・バド・シール・セレステ・シノトオ嬢で間違いないかな?」

 

 そして、なんと我がシノトオ家も公爵位を持つ貴族である。

 異世界から落っこちてきたおじいさまは当然元の身分は平民で、貴族になる予定は全くなかった。

ところが、おじいさまに一目惚れして嫁いだおばあさまが他国の王家筋の人だったために、すったもんだあって貴族になる羽目になってしまったとはおじいさまの談である。

 当初与えられた地位と領地は、侯爵だった。その後のおじいさまや父さんの功績でランクアップしたり、領地や爵位が追加されたりした結果、現時点ではシノトオ家の家長は公爵を名乗ることになっている。

 そのうちのごくごく小さな「シール」という領地をニホンの再現の用地として貰った私の名前にも領地名が付いている。ちなみに家名の前に付くセレステというのが、第三子を表す称号である。


「シール領か、宰相府のお兄さんのヒューラー領の真ん中にある飛び地だね。テダンストにも近い。」

「テダンストはヒューラーのお隣の子爵領ですね。名産の果物が家族の好物で…とても美味しいです。」

テダンスト領では果樹の栽培が大変盛んに行われていて、おかあさまの好物の果物の名産地である。

「気に入ってもらえているとは、領主としては嬉しいよ。同じ子爵同士仲良くしてね。」


 私の引きこもりが存分に発揮されたようだ。実家の領地のお隣さんも知らないと公言するとは…失言も甚だしい。悪口言わなくてよかった。


「え…と…大変失礼を…」

「いや、失礼、僕がいけなかった。家名すら名乗ってなかったね。軍部では所属と個人名を名乗るのが通例で、正式名称を名乗る機会があまりないものだから。ええと、ジョエル・バド・テダンスト・キルテ・クーヴレールです。よろしくね。」


もう一度言おう、悪口言わなくてよかった。王様を輩出したこともあるバリバリ名門の公爵家に次男坊とはいえ喧嘩売るとか自殺行為だものね。クスクス笑われているけれど、怒られるより良いよね、気にしない。子ども扱いされている気もするけれど、それも気にしない。


「はい、許可証ができたよ。チハヤくんは今日は非番だったね。また明日からよろしく頼むよ。」

「ありがとうございます。ええ、また明日。」

「サユキちゃんも、こちらにいる間にまたここに遊びにおいでね。」

「ええと、時間が合えばお邪魔いたします。」

「では団長、失礼いたします。」


「良い休日を。そこからエレベーターを使って降りると良いよ。」

締まり際に声がかけられ、パタンと扉が閉まる。歩き出した兄さんに続いて、廊下の奥に進む。

「戻らないの?」

「団長からエレベーターの使用許可が下りたから、近道だな。普段は原則、近衛師団、魔法師団、騎士団の団長および副団長しか使用していない。…というか存在が知られていないと言った方が正しいかも知れないが。」

「隠し通路ってこと?」

「そういうわけでもないんだ。おじいさまのアイデアを元に、父さんが魔法具としてエレベーターを実用化したのは今から約25年ほど前だ。つまり、この建物の建設後にエレベーターが敷設されたんだ。」

 今から25年前という事は、父さんは当時20歳くらい?おじいさまには魔力がなかったから、おじいさま書き溜めていた異世界の便利な道具とか仕組みを元にいろいろ実験していたというのは知っていたけど。


「それでどうして存在が知られていない事になるの?」

「設置に適した場所がなかったので、当時既に使われなくなって塞がれていた煙突の後に設置されたんだ。各階の外れにあったし、扉を新しく作るのは面倒だという事で、かつては暖炉だった入り口部分を塞いでいた石のみを取り払って、目隠しとして使用されていたレリーフはそのままにしておいたらしい。」

 それで、結果的隠し通路扱いになってしまったのか。絵画をめくってみようなんて言う暇人は軍部にはいなかったのだろう。時が過ぎるにつれて、塞がれた暖炉や煙突なんて忘れ去られて行くだろうし。


「そうなの。」

「ああ。そこから下に降りると、軍部棟と軍の宿舎をつなぐ廊下の近くに付くんだ。近道になる。魔力は自己供給だから魔力の薄い者には使えないし、あまり進んで公にする事もなかろうということになっている。進んで使用する者もさほど多くないだろうしな。」

「軍部の人は身体を動かす人のが好きな人が多いから?魔法師団の人は最悪転移すればいいものね。」

「その通りだ。さて、ここが入り口だ。引き戸になっている。」


 引き戸もおじいさまのアイデアかな。この国ではあまり見掛けないけれど、おじいさまの母国の伝統的建築には引き戸が多く用いられると言っていたし。

チハヤ兄さんが数字の書かれたボタンを押して、動力部に手をかざすと、動き出した。手をかざすと自動で魔力を吸い取る方式なのか。チハヤ兄さんは魔力の量自体は一般人よりも大分多いけれど、武器にまとわせる以外はあまり上手に魔法を使えない。軍部にはそういう人も多いと聞くけれど、問題ないように作られているみたいだ。

 

宿舎に行って、ルーの荷物をとったらお昼ご飯かぁ。兄さんと食堂の話をしたあたりからお腹が空いてきた。

時計を持つ習慣がないからわからないけど、今何時くらいかな。食堂が混んでないと良いけれど。


サユキちゃん腹ぺこ。


説明が多い回になりましたね、案外シビアなお国柄です。

親が領地を複数持ってるときは次子やその下の子に分け与えたりする事も認められています。だからサユキちゃんもちゃっかりテーマパーク用の土地を確保。規模は多分、千葉の夢の国と夢の海を合わせたくらい。そんなに広くない。

必要な面積だけ貰って、あとはお兄様の領地にくっつけてあげちゃいました。結果、冷徹漢なお兄様の領地にぐるりと囲まれて、セキュリティも万全です。甘やかされてるとか言ってはいけません←


変人一家シノトオさん家は、ちゃっかり貴族でした。まあ、パパンは宰相だしね。

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