軍部見学!?
おひさしぶりです…
父さんの執務室から出て、まずは私の宿、宰相府の迎賓室に向かう。
本当は去年完成したばかりという女性文官宿舎に泊まってみたかったのだけれど、父さんの強硬な反対(棟が隣り合う男女の文官宿舎では、女性文官と男性文官の恋愛がブームになっているらしい)を受けて、なんと宰相府の迎賓室に泊まることになった。
他国からの使者や使節が使用する部屋で、アルバイトなんぞが泊まっていい部屋ではない。汚しそうで寝られなかったらどうしてくれよう。
チハヤ兄さんは軍のお仕事の関係で迎賓室に宿泊している使節の方と合う機会もあるのか、迷い内足取りで私とルーを先導している。ルーは「護衛」として私の後ろを歩いている。見えなくても分かるうきうきの気配である。何度も言うが、もふもふは正義。
「ここだ。」
チハヤ兄さんは重厚そうな扉の前で立ち止まった。空けてもらった扉に入ると…うん、もう何も言うまい。「迎賓室」と名のついた時点で見えていた結末だもの。
兄さんには応接室(なんと使用人の控え室まで存在した)で待っていてもらって、ルーと一緒に着替えに入る。持ってきた荷物の中から衣紋掛けを取り出して、キモノを掛け陽のあたらないところにかけておくことにした。
動きやすいブーツと膝丈のスカート、シャツにベストを着て完了。普通女性は軍部に行くならスカートなんて動き辛い服装は面倒なだけだよね。スカートだと、ルーとじゃれあえないし!
「兄さんお待たせ。」
「ああ。早かったな。もう行けるか?」
「うん。」
兄さんは応接室のソファーに優雅に腰掛けていた。絵になるなぁ。
「では行くか。」
兄さんに付いて宰相府から軍部棟へ移動する。
「ルー、ルー、軍部棟はやっぱり厳めしいねぇ。」
尻尾を振り振り私の横を歩くルーに話しかける。部屋を出るとき兄さんに任務解除を言い渡されて、大変ご機嫌だ。
「宮として建てられた宰相府と違って、建設当初から城壁守護の拠点として使われているからな。外国からの賓客をもてなす事もないし、華美な装飾などしても鬱陶しいと思われて終わるだけだ。宰相府と比べたら地味で見所もないかもしれんな。」
「私はこっちの方が好き。」
「ああ、我が家も華美な装飾が少ないからな。見慣れているだろう。」
「兄さん、食堂は軍部棟寄りの方が美味しいって聞いたんだけど、どうしてなの?」
「王宮の食堂は第一から第三まであるんだが、利用する層が違う。第一食堂は貴族院の近くにある貴族院の文官…主に議員の子弟だな、第二食堂は宰相府の文官やその他の文官が使用する。第三食堂はほぼ軍関係者か…あとは貴族院文官以外の文官が休日に利用することが多い。」
「そんな棲み分けがあるんだ。」
「第一食堂は貴族食堂と呼ばれている、格式張った宮廷料理に近い食事が食べたければそこだな。第二食堂は忙しい文官の生活様式に合わせて早さ重視だ。宰相府や各省への配達が中心で、食堂スペース自体の規模は小さい。第三食堂は、軍部の利用者が中心だ。食べる事しか娯楽のない奴らも多いしな…あと種類が豊富にある点が人気のようだ。」
「やっぱり軍部の皆さんは身体が資本だものね。」
兄さんとルーが住んでいる軍部の宿舎に向かう前に、兄さんの上司のところに寄る必要があるらしく、他よりちょっと豪華な軍部棟の上層階を歩いている。
「兄さんはどんな部隊にいるの?」
「今は王族警護が中心任務の部隊だな。視察や外遊などに同行する事もある。」
今の今まで兄さんが具体的に何の仕事をしているか聞いた事がなかったのに気がついた。何の気なしに聞いてしまったけど、不用意にそういうことを尋ねてはいけないよね、きっと。兄さんが「人に話せる」任務に付いていてよかった。
「上司の人はどんな人なの?」
「軽薄な御仁だな。仕事はきちんとする方だが、如何せん言動が軽い。」
「へえ…」
「なるべくならサユキを紹介したくはないが…宿舎は基本的には女人禁制だから、サユキの入室には彼の許可がいるんだ。」
兄さんは比較的きちんとしているから、軽薄と言われても程度が分からないな。
見学までに至らなかった…