父の仕事場
お久しぶりです。
お読み頂いてるかたがいらっしゃいましたら、前回の更新から大分間があいたことにお詫び申し上げます。
小説タグにもあります通り深山はしょっちゅう行方不明になりますので、忘れた頃に訪れていただきますくらいでちょうどよいかと思う次第です。
先ほどの厳つい武人に案内され、父に面会すべく宰相執務室まで廊下をひたすら歩いている。一応宰相府の長である父の執務室は入り口からは遠いところに置かれているらしい。
宰相府はもともと、王族の迎賓館として建てられたものだったらしくかなり広い。おじいさまは故国のなんとかいう調味料を作っている建物に似ていると評していた。
その建物、もともとおじいさまの国からは遠く離れた国の昔の王族の夏の別荘だったらしい。他国の王族の別荘なんて代物が何故おじいさまの故国にあったのか。詳しいところは知らないが、おじいさまの国には他国の建物を自国に模して建てたり、ひとところに集めて楽しんだりする文化があったらしい。つくづく変な国だ。
「サユキさま、サユキさまはお父様のお仕事場へいらっしゃるのは初めてですかな?」
「あ、はい。政治などについて、あまり知識が深くないといいますか…」
「何をおっしゃいますか、シノトオ家の末のご長女は大変優秀な方と、王宮にもお名前が広まっていらっしゃいますよ。優秀と言えば、サユキさまのお父様も若い頃から大変評判のお方でした。宰相に異例の年齢でのご就任で…お若い頃からそれはご立派に職務をこなしていらっしゃいますよ。」
「家ではのんびりとした父ですが。一応きちんと働いているんですね。」
「それはもう。ご長男…サユキさまのお兄様でいらっしゃるチヒロさまとご一緒に、鬼神のようにお仕事をこなしていらっしゃいます。一部では恐れられているほどで…いえ、これは余計なことを…。」
「そんなに怖がられているんですか?」
「その、お父様もお兄様も、お忙しい時には、つまり、ちょっとした雑談にもお怒りになりますので。サルーテ様、以前の防衛部長は、ご存知ですかな?」
あ、件のかわいそうな防衛部長。
「ええ。以前は息子さんと一緒によく当家に…最近はお見掛けしませんが。」
「ああ…彼は…結界の張り替え事業のためにお父様とお兄様が大変忙しくしていらっしゃるところに、その、そぐわない話題を、ですな、」
「兄が大分ご迷惑をおかけしたと聞きました。」
本当、謹慎になるくらいのオシオキってどんなことなの。
「あのときのチヒロさまのお怒りは、凄まじいほどでした。今まで、その、府内では、チヒロさまは冷静沈着なお方として評判でして.あそこまでのお怒りは、そうはお目にかかれないでしょうなあ。」
そんなにひどかったとは…。といことは、父と兄の縁者として、私まで恐れられているんだろうか。遠巻きに接されたら嫌だな。そういえばすれ違う人の視線からも恐怖の感じる気がする。これって、隣の厳ついオジサマじゃなくて私に向けられた視線?これからしばらくこの視線に耐えて生活しなきゃ行けないってこと?辛すぎる!
「失礼。警備部隊所属、ジョルジオ・ボネット、シノトオ家がご長女、サユキさまをお連れした。宰相様はお部屋においでか?」
奥まった廊下の先にある大きめの両開きの扉の前に立つ2人の兵士らしき人に厳ついオジサマが声をかけている。ボネットさん、名乗り方からすると、それなりの地位にある人だったみたいだ。兵士も丁寧に対応しているし。
「ボネット部隊長。宰相閣下は中でお待ちです。お二人ともどうぞ。」
両開きの扉が開かれる。二人しか入らないのに右と左の両方の扉を開けるのは少し無駄な気もする。
厳ついオジサマ改めバネットさんは兵士の方々に軽く頷いてみせると中に入って行く。
扉の中へ足を進めたが、見えると思っていた父の顔は現れずもう一つの扉が目に入る。バネットさんが名乗りを上げて扉を開けると、会話が漏れ聞こえて来た。バネットさんの大きな身体で中は見えないけれど! 父と…チハヤ兄さん?のような声。チハヤ兄さんは軍属の身で、こんなところにはいないはずなんだけど…。