到着
2話目です。見事に話が進まないですね。
かくして、リュコス国宰相が娘、サユキ・シノトオは結界更新まで1週間に控えた宰相府、入り口に立つ屈強な警備兵をしげしげと眺めた。
でかすぎて見上げても逆行で顔見えないし、怖いんだけど。父さん、誰か迎えをよこすって言ってたけど、王城入り口にはだれもいなかったし、キモノは動き辛いし、1週間分の荷物重いし。王城の入り口では一応一通り不審者チェック受けたけど、そのあと野放しだったし…セキュリティ大丈夫なんだろうか。
とりあえず、受付かなんかないのか?
「あのー…こんにちはー、宰相府に用事があるんですが、受付はどちらですか?」
「こんにちは、宰相閣下のお嬢さんとお見受けします。」
「うぇっ?あ、えっとシノトオの娘です。サユキです。」
動いた!かがんだ!喋った!
…普通に挨拶返されたんだけど、受付はどこなの?
「こちらへどうぞ。私がお父様のところへお連れいたします。…ああ、お荷物はこちらに。差し支えなければ、ご滞在いただくお部屋に運ばせておきます。」
「あ、すいませんお願いします。」
あれ、警備兵じゃなかったんだ。
「どうぞ…ところで、王城の門まで部下を迎えにやったのですが、お会いになりませんでしたか?」
「いえ…?」
「そうでしたか。それは大変申し訳ありませんでした。お荷物が重くて大変だったのでは?そのシノトオ家のご衣装も動きやすいものとは見受けられませんし。」
「あ、いえ。あの、すいません重いものを持たせて…」
「ああ、いや。私にはさほど重く感じませんが、ご婦人には重いものであろうと…」
見た目はおじいさまが小説の挿絵に描いた戦闘の守護神に似ている彼は、意外と紳士だ。あの小説を劇にすることになったら、ニオウサマの役は彼を推薦しよう。
立っているだけの役だし、もうひとり対になる人が必要だけど、きっと舞台が引き締まる。
「ちょっと距離が長かったので疲れましたが、自分で運べるくらいだったので。部下の方には無駄足になってしまったようで、重ね重ねもうしわけなく…」
「大方遅刻でもしたのでしょう。あとで叱っておきます。おお、コルド、お前どこへ行っていた?」
噂をすればってやつなのか。コルドさんはひょろっとした青年だった。陰が薄そうという他にはとりたてて挙げるべき特徴は無い。スカウトの必要もなさそうだ。あるとすれば、オバケヤシキのオバケ役?
「申し訳ありませんでした…お嬢さんが城門に到着された時にはその場にいたんです。念のため衛兵が安全確認をしている間、ちょっと目を離した隙に歩いて行ってしまわれて…」
「あれ、ごめんなさい。気付かなかったです。」
「すぐに追いついてご案内すれば…まあ、良い。弁明は後で聞く。」
「あの、すいません。追いつけなかったのって、私の所為じゃないですか。荷物を転がせそうな所を選んであっちこっち曲がったから。」
「いえ!私がご案内出来なかったのがそもそもの原因ですから。申し訳ありませんでした、荷物をお部屋に運んでおきます!」
「あ、すいませんお願いします。ええと、それ車輪がついて転がる様になってるので…」
「はい!承知しました!」
「では、サユキさまはこちらへ。」
お父さんにたどり着くまで長いよ…
次回はきっとお父さんに会えます。