表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
裏切りの代償  作者: 瑠依
8/10

第八話 嫉妬

 あれから高田さんに、打ちやすいフォームなどを教えてもらいながら、俺は何気にテニスを楽しんでいた。身体を動かす事は、もともと好きであったし、久しぶりに運動が出来て、とても嬉しかったのだ。大学に入ってからは、本当にバイト三昧の毎日だったしな。頑張ったよ、俺。

「お、マッチ上手いじゃん。俺と勝負しようぜ。」

 高田さんと軽くラリーが出来るようになった頃、そう言って鈴木が声を掛けてきた。俺が肯定の返事をすると、それを見ていた高田さんが、急にこちらを睨んでくる。

「男の子って、なんかズルイ。」

「え、何が?」

 急にどうしたんですか、高田さん。俺、何か気に障るような事でもしましたか。

「だって、私がそのくらい打てるようになるまで、何ヶ月も掛かったんだよ。それが、近藤君は一時間ちょっとで打てるようになってさ。男の子って力があるからショットも早いし、それにコツを掴むのも早いし・・・だから、ズルイ!」

 そう言って、少し頬を膨らませて拗ねる高田さん。可愛い、すごく可愛いんだけれども、いきなり俺に、そのような事を言われても、正直困る。

「まあ、マッチは特別飲み込みが早いのかもな。」

 そんな俺達のやり取りを隣で見ていた鈴木が、すかさずフォローを入れてくれる。先ほどの助言といい、鈴木は結構良い奴なのかもしれない。

「それよりマッチ、早く試合するぞ。」

「近藤君。私が一生懸命教えたんだから、負けないでよ。」

 真剣な表情の高田さんに、肯定の返事をしたいところなんだけれども、二人共、俺が初心者って事忘れていませんか。



 鈴木と試合をしていると、コートに続々と人が集まって来た。多分、テニスサークルの他学科のメンバーなのであろう。今までコートにいたテニスサークルのメンバーは、四限目が休講になった俺達教育学部のメンバーが殆んどであった。俺が此処に着てから、一時間半くらいが経っている。おそらく、四限目を終えた他学科のメンバー達が、これからもどんどんと集まって来るのであろう。俺、帰った方が良くないか。

「余所見なんて、余裕だね。」

「うわ!」

 周りが気になり、コートの外に目を向けていた俺に、鈴木が本気でサーブを打ってきた。何て事をするんだ、鈴木の奴。もう少しで、当たるところだったじゃないか。

「今、本気で打ってきただろ!俺、初心者なの分かってる!?」

「だって、余所見してるから。それに、マッチだから大丈夫。」

「何それ!」

 ちょっと皆、俺への扱い酷くないか。それに、俺だから大丈夫って、どういう事だ。

「なぁ、鈴木。人もいっぱい集まって来たし、邪魔になるだろ。もう俺、帰った方が良くないか?」

「駄目。」

 何故駄目なんだ。それに何気に皆、俺達の試合を見ているような気がするんですけども。高田さんも真剣にこちらを見ているし、何だか俺すごく恥ずかしいんですけども。

「何、その目。俺はマッチの為を思って、言ってあげてるのに。」

 皆の見世物になる事の、何処が俺の為なんだ。きっとこれは、羞恥プレイの一種だ。そうに違いない。

「俺とこうして試合でもしてれば、他学科の奴らには、高田さんじゃなくて、俺がマッチを連れて来たように見えるかもしれないだろ。」

 鈴木の考えに、俺は思い切り納得した。確かに、こうして鈴木と試合をしていれば、鈴木が友達である俺を、此処に連れて来たように見えるかもしれない。そうすれば、あの例の熱烈な視線を受けなくても済むのではないだろうか。頭良いな、鈴木。

「あーぁ、マッチに疑われて、鈴木君傷ついちゃった。」

「さぁ、続きしようぜ。鈴木君!」

 鈴木は結構良い奴ではなく、凄く良い奴らしい。



 それからしばらくして、俺と鈴木との試合は終わった。結果としては、俺のボロ負けであったのだが、鈴木が俺の打ちやすい所にボールを返してくれたり、スマッシュが打ちやすい様にロブを上げてくれたりして、俺は存分にテニスを楽しんだのだ。優しいな、鈴木。もし俺が女の子なら、絶対に惚れてるぞ。

「近藤君、お茶飲む?」

 コートから出て、鈴木と共にベンチに座り込むと、俺の知らない他学科の女の子が声を掛けてきた。何故、俺の名前を知っているのであろう。

「あ、でも俺、部外者だし。悪いから。」

「気にしなくてもいいよ。メンバーじゃなくても、サークルに来た子は、皆飲んでるし。それに、余ったらどうせ捨てちゃうからね。」

 そう言いながら、彼女は俺の隣に座ってきた。大きなタンクからコップにお茶を注いで、俺に差し出してくれる。俺はそれを受け取ろうとするも、少し先に高田さんの姿が見えて、何だかとても悪い事をしている様な気分になった。

「ノンちゃん、優しいー。俺にも頂戴。」

「鈴木は分かるでしょ。自分でしなさい。

 はい、近藤君。」

「えぇ、ノンちゃんのケチ。」

 鈴木とノンちゃんのやり取りを遠くに聞きながら、俺は冷や汗を流した。視界の端に見える高田さんが、俺の気の所為でなければ、どんどんと機嫌が悪くなっているような気がする。黒いオーラを発しており、少し恐い。

「あ、ありがとう。」

 恐る恐るといった感じで、お茶を受けとる俺を見て、鈴木が笑いながらこう言った。

「おまえら、面白いな。」

 これの何処がどう面白いんですか、鈴木君。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ